SSBJとは?サステナビリティ基準がもたらすビジネスと雇用の新しい未来

基礎知識

2024年11月29日、サステナビリティ基準委員会(以下、SSBJと記載)は、「指標の報告のための算定期間に関する再提案」を公開草案として公表しました。これは、2024年3月29日に公表された「サステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準と記載)」の公開草案を修正することが目的となっています。経緯としては、SSBJ基準の草案に対して寄せられたパブリックコメントを踏まえて行われた再審議の結果、指標の報告のための”算定期間”に関する論点については改めてコメントを求めることが適切と考えられたため、公開草案を再度公表するに至ったとのことです。

SSBJ基準(2024年3月公開草案)

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・サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
・サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」
・サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」

サステナビリティ基準委員会(SSBJ):公開草案「指標の報告のための算定期間に関する再提案」の公表より、引用

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このように、昨今国内でもSSBJ基準の内容確定に向け、SSBJによる活動が着実に進められている状況ですが、これにはTCFD(※1)やSASB(※2)、GRI(※3)など、様々な団体が作成した基準やフレームワークをベースに、世界中で企業のサステナビリティ情報開示基準の策定が急ぎで進められていることが背景にあります。

そこで本コンテンツでは、SSBJに関する理解を深めるにあたり、まずは概要としてSSBJの役割や設立の経緯を取り上げ、その後、開発中のSSBJによる国内基準について確認していきます。そして最後に、現在のSSBJの会員状況についてお伝えしていきます。

(※1)Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略で、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するための組織。
(※2)Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)の略で、持続可能性のリスクと機会を開示するために、業界固有の基準を開発する基準設定の組織。
(※3)Global Reporting Initiativeの略で、サステナビリティに関する国際基準と情報公開の枠組みを策定することを目的とした、国際的な非営利組織。

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の概要について

ここでは、SSBJの役割や設立の経緯を中心にお伝えしていきます。

SSBJの主な役割としては、以下の2つが挙げられます。

①日本基準の開発

②国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献

①に関してSSBJ基準(日本基準)は、国内の資本市場で用いられることを想定し、市場の信認確保の観点から、高品質で国際的に整合性のある基準の開発が進められています。また、基準開発を行ううえで市場関係者の関心が高い項目については、リサーチ活動も行われています。

SSBJによる国内基準の開発方法

  • 企業会計基準やその設定主体である企業会計基準委員会(以下、ASBJと記載)が法令上の枠組みの中で位置付けられていることを参考としつつ、法令上の枠組み等によるSSBJの位置付けに沿って実施

一方で②に関して、国際的なサステナビリティ開示基準の策定の場における自国のプレゼンスの向上や影響力の強化を図り、自国の考え方を基準に反映させることには、市場関係者から高い期待が寄せられています。そのため、下図にもお示ししたように、他(国)の基準設定主体等との連携が積極的に図られています。

他(国)のサステナビリティ基準設定主体との会合や合意書の締結など(2024年に実施)

年月日概要
2024年1月10日サステナビリティ基準委員会とカナダサステナビリティ基準審議会の代表者がモントリオールで初の二者間会合を開催
2024年2月22日IFRS サステナビリティ・シンポジウム2024への参加
2024年3月14日企業会計基準委員会及びサステナビリティ基準委員会の代表者とエフラグの代表者がブリュッセルで会合を開催
2024年4月17日-19日2024年上期 IFASS会議への参加
2024年6月24日-25日IFRS 財団バーチャル・カンファランス2024への参加
2024年11月7日企業会計基準委員会及びサステナビリティ基準委員会の委員長とオーストラリア会計基準審議会の議長による共同会議をシドニーで開催
2024年11月14日サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の代表者とGRIグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)の代表者が東京で最初の二者間会合を開催
サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がGRIグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)との間でより良い企業報告に向けた取組みに関する基本合意書(MOU)を締結

SSBJ:他のサステナビリティ基準設定主体との会合等をもとに、筆者作成

また、①で掲げたリサーチ活動の成果のうち、国際的に情報発信ができると考えられるものについても、積極的な発信が行われています。

情報・意見発信の方法

  • コメント・レターの提出
  • 国際的な会議への参加

このような基準策定にかかる役割を担うSSBJですが、2022年7月に、公益財団法人財務会計基準機構(以下、FASFと記載)内に設立されました。その過程では、前年の2021年11月に、国際的なサステナビリティ開示基準の開発を目的とする、国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSBと記載)が設立され、これを受けて、日本としても上述の①日本基準の開発と、②国際的なサステナビリティ開示基準の開発に対する意見発信を行うための体制整備の必要性等が市場関係者より示されました。

SSBJ設立(発足)に関連する動き

年月日概要
2021年10⽉IFRS財団等を含む国際的なサステナビリティ開示基準に関する議論の状況、国内の利害関係者からの要望等を踏まえ、FASF の定款を変更し、第3条(目的)及び第4条(事業)にサステナビリティ開示基準に関する事項を追加。
2021年12⽉FASFの理事会において、2022年7⽉1⽇付でサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を設⽴することを決議。同⽇、国際的な動向に適時に対応するため、SSBJ設⽴準備委員会の設置を決議。
2022年1⽉SSBJ設⽴準備委員会が発⾜、2⽉より審議を開始。2022年3⽉まで、IFRS財団の技術的準備ワーキング・グループのプロトタイプ(基準の試作品)に関する審議を実施。2022年4⽉から6⽉まで、ISSB公開草案に関する審議を実施。
2022年5⽉FASFの理事会において、SSBJの委員⻑及び委員、並びに、サステナビリティ基準諮問会議の議⻑及び委員を選任。
2022年7⽉1⽇にSSBJが発⾜。SSBJのガバナンスは、FASFの定款において、ASBJのガバナンスと同様に定め、厳格に運⽤。ISSB公開草案に対するコメント・レターを提出。

⾦融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ:サステナビリティ基準委員会 (SSBJ)の概要をもとに、筆者作成

開発中のSSBJによる国内基準について

基準開発プロジェクトとして、以下の2つが進行しています。

①日本版 S1 プロジェクト:ISSBのIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(※4)に相当する基準の開発

②日本版 S2 プロジェクト:ISSBのIFRS S2号「気候関連開示」(※5)に相当する基準の開発

IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」、IFRS S2号「気候関連開示」に関しては、CARBONIX MEDIA内の「ISSBとは?サステナビリティ報告の国際基準を徹底解説」の中でも詳しくお伝えしていますので、お時間のある方は併せてご確認ください。

いずれのプロジェクトにおいても基準の適用対象範囲としては、プライム上場企業が想定されています(※6)。その理由は、金融庁からSSBJ基準の適用対象については、グローバル投資家との建設的な対話を中心に据えたプライム上場企業等から始めることが考えられる、との方向性が示されたためです。SSBJとして2024年3月に公開草案を公表した際は、基準の適用対象を定めてはいませんでした。

また、これらの確定基準が定まる目標公表時期は、2024 年度中、遅くとも2025 年 3 月 31 日までとされていますが、公表されても即時に適用とはなりません。義務化に向けたスケジュールは、金融庁金融審議会のサステナビリティ情報開示に関するワーキング・グループで検討されており、企業の規模に応じた適用スケジュールが検討されています。現段階では、時価総額3兆円以上の企業がその中でも最速で適用される見込みとなっており、2026年までは任意適用期間、2027年3月期報告より義務化される予定となっています。

(※4)情報の開示対象は、投資家等の意思決定に重要な全てのサステナビリティ関連のリスクと機会の範囲となっている。サステナビリティ情報の開示実務を前提として、財務諸表とサステナビリティ情報のつながりを意識して作られている点が特徴である。
(※5)情報の開示対象は、投資家等の意思決定に重要な全ての気候関連のリスクと機会の範囲となっている。特徴としては、気候変動に対するレジリエンスに関して、TCFDと同様にシナリオ分析が求められていることや、一方でTCFDとの相違点として気候関連の目標やKPIと報酬方針の関連性の説明、内部炭素価格などがより細かい情報として開示が求められる点が挙げられる。
(※6)但し、SSBJから2024年4月に公開されている「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」の中では、プライム上場企業以外の企業(例えば、金融商品取引法以外の法令によりサステナビリティ関連財務開示の開示が求められる場合や、法令に基づかず、任意でサステナビリティ関連財務開示を作成する場合)も適用できるとしています。

SSBJの会員状況について

FASFの会員制度を管理している担当部署に問い合わせを行ったところ、SSBJ独自の会員は募っておらず、FASFの会員としてASBJやSSBJの活動に参画する形になるとのことでした。直近でFASFのHP上で公開されている会員の状況としては、以下の通りです。

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法人会員:4,103法人 / 個人会員:218人(2024年11月29日現在)

参考:東証上場内国会社の加入状況

※全国の上場企業の95%以上の会社がFASFの会員となっています。

FASF:会員制度についてより、引用

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このように、会計基準等は資本市場の重要なインフラであるため、全国の上場企業をはじめとする多くの法人や企業によってFASF、並びにASBJやSSBJの活動は支えられています。公表されている法人会員(企業名)や個人会員(職種)の詳しい情報を確認したい方は、「FASF:会員制度について」に掲載されている資料をご確認ください。

まとめ

本コンテンツでは、SSBJと関連する情報の全体像を掴むために、SSBJの役割や設立の経緯、その他にも開発中のSSBJによる国内基準や現在のSSBJの会員状況について確認してきました。

冒頭と2章でもお伝えしたように、SSBJの確定基準の策定に向けた活動は、現在も進行しています。まずは直近で、「指標の報告のための算定期間に関する再提案」のパブリックコメントの募集期間が、2025年1月10日に迫ってきています。集まったコメントをもとに、またこれらの日本基準の変更点等が明らかになりましたら、改めて皆様にもお伝えさせていただきます。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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