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製造業(化学)のサプライチェーン排出量算定のポイントを、大企業の取組事例から考える

基礎知識

環境省のホームページ「グリーンバリュープラットフォーム」には、業種別で企業のサプライチェーン排出量の算定結果や取組事例が公表されています。

このページでは、製造業の中から化学業界に絞り、企業の算定結果や算定結果からみる排出量算定のポイントをまとめています。
自社でサプライチェーン排出量の算定を行う際に気をつけることや、効率的に算定を行うヒントが他社の算定結果から見つかるかもしれません。

原材料や資材の調達と配送、製品の使用や廃棄での排出量が多い

今回参照した花王株式会社、株式会社ファンケル、三菱ガス化学株式会社、日産化学株式会社の取組事例を確認したところ、共通しているのは、温室効果ガスの排出量が多いのはScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)という点です。
いずれの事業者も自社製品を製造するにあたり原材料を調達しますし、製品をパッケージする資材も必要になるため、カテゴリ1が多くなるのだと考えられます。
また、原材料や資材を自社に配送する際に発生した温室効果ガスの排出量等を算定するScope3カテゴリ4、販売した製品を消費者が使う際の排出量を算定するScope3カテゴリ11、製品が処分される際のScope3カテゴリ12のも、Scope3の各カテゴリの中では排出量が比較的多めです。

製造業(化学)のサプライチェーン排出量算定結果

この記事で参考にしている花王株式会社、株式会社ファンケル、三菱ガス化学株式会社、日産化学株式会社の取組事例(いずれも2022年度公表。数値は2021年度)の算定結果をまとめた円グラフを紹介しながら、算定のヒントを探していきます。

花王株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「花王株式会社」

花王株式会社はScope3カテゴリ1「購入した製品・サービス」、カテゴリ11「販売した製品の使用」の割合が多く、カテゴリ11の方がわずかに多くなっています。
この後に紹介する他社の円グラフを見ると分かりますが、カテゴリ11がここまで多いのは花王株式会社だけです。
これは同じ化学メーカーでも製品の違いが大きく影響していて、花王株式会社は石鹸やシャンプー、洗剤など、お湯と一緒に使うことが必須の消費者向け商品を数多く扱っていることから、カテゴリ11の割合が他社より大きいと考えられます。
消費者向けの製品を扱っている事業主は、カテゴリ1だけでなく、このカテゴリ11や製品を廃棄する際の温室効果ガスを算定するカテゴリ12も重要になってくるでしょう。

株式会社ファンケル


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「株式会社ファンケル」

株式会社ファンケルでは、カテゴリ1がScope3全体の50%以上を占め、次いでカテゴリ4(上流の輸送・配送)、カテゴリ11(販売した製品の使用)、カテゴリ2(資本財)の順番で多くなっています。
カテゴリ4に関しては、他の事業者に輸送を委ねていることが多い事業者は、割合が多くなってくると考えられます。
また、カテゴリ1の温室効果ガス排出量が多いことに関しては、製品のコンパクト化、容器包材の軽量化やバイオ原料の採⽤、WEB等の電⼦媒体利⽤などを推進して排出量の削減を行っていく旨が取組事例に記載されていました。
このように、サプライチェーン排出量の算定を行って排出量が多いカテゴリがわかったら、そこからどのように排出量を削減していくか検討することも欠かせません。

三菱ガス化学株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「三菱ガス化学株式会社」

天然ガスや、消費者向け化学製品の原料となる基礎化学品などを多数販売している三菱ガス化学株式会社でも、Scope3カテゴリ1がScope1、Scope2を含めた全体の50%以上。
次いで多いのがカテゴリ12となっています。
いわゆる中間製品に該当する基礎化学品を多く製造する事業者のため、カテゴリ10(販売した製品の加⼯)が多いのではないかとも考えられますが、上の円グラフでは記載がありません。
これについては、取組事例に「把握困難であるため算定対象から除外」と記載がありました。
取引社数や製品数などが膨大で、正確に算定することが現状では不可能なため、除外しているのだと考えられます。
このように把握困難等の理由で、現状は算定できないこともあり得ます。
その際は、今は算定できる所に注力し、算定不可のカテゴリは、何年か時間をかけて算定できる体制を整えていく方が良いかもしれません。

日産化学株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「日産化学株式会社」

日産化学株式会社では、Scope3が全体の70%で、Scope3のうち65%がカテゴリ1という算定結果です。
カテゴリ4、カテゴリ10、カテゴリ11もありますが、カテゴリ1の割合が圧倒的に多くなっています。
この結果をもとに軽量・コンパクトな農薬製剤を供給する事での包装資材、廃棄物、輸送におけるGHG排出量の削減など、排出量削減に取り組んでいるそうで、結果をもとに環境面で製品をアップデートすること等も事業者には求められます。

化学メーカーがサプライチェーン排出量を算定する際のポイント

ここでは、前の章でご紹介した各社の算定結果の中でも割合が多かったScope3カテゴリ1、カテゴリ4、カテゴリ11、カテゴリ12をどのように算定しているのか確認していきたいと思います。

カテゴリ1:購入した原材料や資材の量、金額を活動量にして算定

企業活動量排出原単位
花王株式会社原材料投入量サプライヤー調査結果、外部データベース、⽂献値、産連表の原単位からの換算値
ファンケル株式会社原材料資材・サービス購⼊量(重量、⾦額)IDEAv2DB、SC排出原単位v3DB
三菱ガス化学株式会社原材料の購⼊量、サービスの購⼊額SC-DB、IDEA
日産化学株式会社購⼊・取得した全製品またはサービスの項⽬と⾦額SC-DB[5]産業連関表ベースの排出原単位(⾦額ベース)

カテゴリでは、各社ともに活動量は基本的には購入した量や金額から算定を行っていました。
排出原単位については、事業者によって取組事例への書き方は異なりますが、基本的には排出原単位データベースやLCIデータベースIDEAを用いて算定しているようです。
花王株式会社は原材料投入量と記載されていました。
これ以上の細かな情報がないため断言はできませんが、購入した量ではなく、製品を作る際に使用した量で算定しているのかもしれません。
また、⽇産化学株式会社の取組事例には「サプライチェーン上流における実データの収集には限界があり、GHG排出量算定値の精度を向上する事が困難」という一文も見られました。
これは、次に紹介するカテゴリ4にも当てはまることですが、上流にある事業者からデータを共有してもらえれば、より確度が高い算定ができますが、共有を受けられないケースも多いです。
それであれば、自社で収集できるデータを用いて算定し、まずは算定できる体制を整え、そこから少しずつ確度を高めて行った方が良いでしょう。

サプライヤーにGHG排出量の算出に協力してもらうには

カテゴリ1(Scope3)の温室効果ガス排出量を算定するには、物品の購入元であるサプライヤーに情報提供をしてもらう必要があります。算定には時間や労力を要するため、関係者からの協力を得ることが難しい場合が多々あります。そこで、サプライヤーから協力を得るためにできることをご紹介します。

まずは、サプライヤーとコミュニケーションをとり、持続可能性やGHG排出量削減の重要性について説明する機会をつくりましょう。意識を共有した上で、共通の目標などを設定して目標に向けての第一段階としてGHG排出量算定の協力を促します。

さらに、サプライヤーがGHG排出力算定をできるように、具体的な算出方法についての講座や研修を行って知識やスキルの向上を図ります。さらに、算出に必要なガイドラインや算定ツールなどを提供すれば、サプライヤーの負担を軽減でき、データの取得をサポートすることにもつながります。

大きな企業であれば、GHG排出量算定を物品購入の契約の要件として義務付けてしまうのも手です。もしくは、GHG排出量の報告や削減量に応じてインセンティブを設けるという方法もあります。

サプライヤーから、Scope3(カテゴリ1)算出の協力を得られなかった場合は、事例をご紹介した各社のように「購入量」や「購入金額」から算定を行うことになります。

カテゴリ4:原材料や製品を輸送した量をベースにトンキロ法で算定

企業活動量排出原単位
花王株式会社原材料投⼊量、製品量省エネ法・温対法の算定・報告・公表制度の電気・燃料に対する排出係数、外部データベース等
ファンケル株式会社輸送重量X輸送距離トン・キロ法IDEAv2DB
三菱ガス化学株式会社原材料の調達時輸送量、製品の出荷時の輸送量(⾃社荷主分に限る)トンキロ法
日産化学株式会社省エネ法特定荷主定期報告書データ、購⼊した製品の重量によるトンキロ法省エネ法排出係数、改良トンキロ法エネルギー消費原単位、IDEAv2

上流の輸送・配送での排出量を算定するカテゴリ4では、各社ともに輸送した原材料や製品の量を活動量にし、トンキロ法で算定しているようです。
トンキロ法を使用すれば、社内にあるデータだけで算定が可能となり、カテゴリ4を算定するハードルが下がります。

また、日産化学株式会社の活動量に記載がある「省エネ法特定荷主定期報告書データ」のように、輸送を依頼した取引先がエネルギー使用状況を公表していれば、取引先へのヒアリングなどを行わなくてもカテゴリ4の算定に使用できるデータを入手できるかもしれません。

カテゴリ11:製品の使用シナリオを作成、または販売量から算定

企業活動量排出原単位
花王株式会社独自シナリオ設定省エネ法・温対法の算定・報告・公表制度の電気・燃料に対する排出係数、外部データベース等
ファンケル株式会社商品使⽤(標準的な洗顔、洗髪、調理)を仮定しエネルギー量を算定IDEAv2DB
三菱ガス化学株式会社製品の販売量理論値
日産化学株式会社GHG製品の販売量

カテゴリ11は、販売した製品を使用した際の温室効果ガスの排出量を算定する項目ですが、こちらは算定方法が2タイプに分かれていました。
石鹸など消費者向けの製品を多く販売する花王株式会社とファンケル株式会社は製品を、使用する際のシナリオを作成してそれを活動量にしています。
一方で、法人向けの化学製品を扱う三菱ガス化学株式会社、日産化学株式会社は製品の販売量を活動量にしています。
カテゴリ11に関しては、自社で取り扱っている製品のタイプによって算定方法を決めるのが良さそうです。

カテゴリ12:廃棄の際の排出量はカテゴリ11と合わせて算定

企業活動量排出原単位
花王株式会社独自シナリオ設定外部データベース、⽂献値
ファンケル株式会社製品の使⽤後の容器包材量を販売量から算定SC排出原単位v3DB
三菱ガス化学株式会社製品の販売量SC-DB、IDEA
日産化学株式会社容器包装リサイクル法対応容器重量データ、廃棄処理が必要な化学製品の販売量SC-DB[9]廃棄物種類別排出原単位

カテゴリ12では、購入した製品を廃棄する際の温室効果ガス排出量を算定しますが、こちらもシナリオを作成して算定している事業者と販売量から算定している事業者に分かれました。
カテゴリ11とカテゴリ12では基本的に同じデータを使用することになりますので、まとめて算定作業を進めると効率よくできそうです。

各社のサプライチェーン排出量の算定体制を確認

ここでは、取組事例に記載されている、「社内の算定体制」などを参考に、各社がどのような体制でサプライチェーン排出量を算定しているか確認していきましょう。

企業体制
花王株式会社個別製品及び全社のLCIデータを計算する社内システムにより算定。約1万の製品データがデータベース化されており、社内各種データベースとのリンクにより登録作業の効率化を図っている。製品開発担当者は上記システムの保有データを利⽤して開発製品のLCAを実施し、製品開発活動に活⽤している
ファンケル株式会社本社、研究、⼯場の各部でデータの集計・管理を⾏い、サステナビリティ推進室が取りまとめて算定する。
三菱ガス化学株式会社部⾨横断型組織であるGHG対策チームを設置している。このチームが各部署から必要なデータを収集する。具体的には、主管部署を通じて、社内システムなどからデータを得る。
日産化学株式会社社内の関連部署より活動量を収集し、環境安全・品質保証部にて算出を⾏う。原材料購⼊データ・設備投資額・出張旅費総額・通勤費等(財務部)、製造委託先データ(各事業部)、物流データ(物流関係会社及び事業部)を収集。サステナビリティ・IR部が算出データを確認する。

基本的には、各事業者とも算定担当が各部署から情報を収集し、算定を行っています。
算定担当は、ファンケル株式会社のように特定の部署が担う場合と、三菱ガス化学株式会社のように部署を横断してチームを設置している場合があり、これは社内の都合などで決めるのが良いでしょう。
また、花王株式会社の記載を見ると、社内にLCIデータを集計するシステムが設けられていて、それを活用するフローが社内で確立されていることが想像されます。
同様のシステムの導入は容易にできることではありませんが、社内でサプライチェーン排出量の算定に関する意識を根付かせることは、データ収集を行っていく上でとても大切です。

まとめ

化学製品を扱う製造業がサプライチェーン排出量を算定する際のポイントを、取組事例を参考に確認してきました。
製品の種類にかかわらず、算定で重要になるのはScope3カテゴリ1です。ここに関しては、社内で購入量や金額を確認し、それを排出原単位を用いて算定しましょう。
購入した製品、サービスが多い企業は算定する数が多くはなりますが、購入量や金額を把握する体制を社内で整えることができれば、決して難解ではないと考えられます。
製品数が膨大なカテゴリを効率的に算定するには、サプライチェーン排出量を算定するツールの導入がお勧めです。
一度導入すれば、同じ製品の算定を毎年行う場合などで、算定の負担を大きく減らすことができます。
導入したツールはこれから長く使用していくことになり得ますので、自社にあったサービスを探し、じっくりご検討ください。

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