第7次エネルギー基本計画とは?脱炭素・再エネ政策の最新動向を紹介

2024年12月17日、経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の第67回会合が開催され、第7次エネルギー基本計画の原案が発表されました。今回の計画案は、昨今の国内外の情勢の変化による影響が大きく反映された結果となっており、第6次エネルギー基本計画が2021年10月に閣議決定されて以降、わずか3年ほどの期間で、日本を取り巻くエネルギー事情が大きく変化したことが伺えます。
そもそも、エネルギー基本計画とは、日本の中長期的なエネルギー政策の指針を示しており、2003年に第1次エネルギー基本計画を策定して以降、エネルギー需給に関する方向性や時代背景に即した電源構成(エネルギーミックス)を検討し続けてきました。その過程では、日本の抱えるエネルギー需給構造上の課題に度々直面しており、今回の計画案の策定段階でも、インフレーションの影響を受けた国内の電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰、化石燃料の調達に関する不確実性の上昇などが浮き彫りとなりました。
そこで本コンテンツでは、第7次エネルギー基本計画に関する理解を深めるにあたり、まずはベースとなるエネルギー基本計画の概要を捉え、その後に第7次エネルギー基本計画のポイントについて確認していきます。そして、最後に2040年度におけるエネルギー需給の見通しついて、経済産業省 資源エネルギー庁が発表している分析結果をお伝えしていきます。
エネルギー基本計画の概要について
エネルギー基本計画とは、エネルギー政策の基本的な方向性や中長期的なあり方を示すために、エネルギー政策基本法に基づき政府が策定する計画となっています。この計画では、安全性(Safety)をベースに、安定供給(Energy Security)、経済的効率性(Economic Efficiency)、環境適合性(Environment)の3つを同時に追求する「S+3E」の理念が掲げられています。その中でも、昨今の改訂内容に見られる傾向としては、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにフォーカスがあたり、目標設定の妥当性に関する検討結果が折り込まれている点が挙げられます。
経済産業省 資源エネルギー庁:日本のエネルギー 2021年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」(5.S+3E)
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/005/
また、そもそも(第1次)エネルギー基本計画が策定されるようになった背景には、エネルギー安全保障や環境問題に対する日本の危機意識の高まりがありました。計画策定に至るまでに起こった主だったイベントは以下の通りです。
年代 | イベント |
1970年代 | 2度のオイルショックでは、中東からの石油輸入に依存していた日本経済が深刻な打撃を受け、インフレや経済混乱が引き起こされた。これを機に、エネルギー供給の安定性が重要な政策課題として浮上し、エネルギー源の多様化や省エネルギー対策が求められるようになった。 |
1990年代 | 地球温暖化問題が国際的な注目を集めるようになり、1997年の京都議定書において日本も温室効果ガス削減義務を負うこととなった。また、環境保護とエネルギー政策の統合が必要とされ、再エネの導入や省エネ技術の推進が課題となった。 |
2000年代 | 2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故が、日本のエネルギー政策に重大な転換をもたらした。この事故を契機に原子力発電の安全性への信頼が揺らぎ、エネルギーミックスの見直しや再エネの拡充が一層重要視されるようになった。 |
このようなエネルギーの安全保障や安定供給などに関わる数々のイベントを経て、2003 年 10月7日に第1次エネルギー基本計画が閣議決定されました。当初より、エネルギー供給の多様化や原子力発電の位置づけ、国際協力の推進に関するテーマなどが幅広く検討されており、基本計画の中でまとめられています。
—–
➤ エネルギー政策の基本方針について
エネルギー政策は、「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」の3つの基本方針のもとで策定されています。エネルギーの安定供給を最優先しつつ、環境負荷の低減を図りながら、競争的な市場の形成を促進することが目指されています。
➤ エネルギー供給の多様化について
石油への依存度を低減し、天然ガス、石炭、原子力、再エネなど多様なエネルギー源を活用する方針が示されています。特に、LNGの導入拡大や、国内のエネルギー資源の有効活用が重要視されています。
➤ 原子力発電の位置づけについて
原子力発電は、安定供給と環境負荷低減の観点から、引き続き重要な電源として位置付けられています。ただし、安全対策の徹底が最優先され、国民の理解を得ながら慎重に進める必要があるとされています。また、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題にも対応が求められています。
➤ 再エネの推進について
太陽光、風力、バイオマス、地熱などの再エネの導入拡大が推進されており、地域の特性に応じた活用を促進して、これらが将来的には主力電源の一つとして位置づけられることを目指しています。また、導入コストの低減や送電系統の整備も課題とされています。
➤ エネルギー効率の向上について
産業や運輸、家庭などの各分野で省エネルギー対策が強化され、高効率機器の普及やエネルギーマネジメントシステムの活用が推進されています。また、エネルギー消費の抑制と経済成長の両立を目指し、具体的な施策が講じられています。
➤ 国際協力の推進について
日本のエネルギー政策は国際的な視点からも重要視されており、特に資源国との連携強化やエネルギー技術の国際展開が進められています。加えて、温室効果ガスの削減目標に向けた国際協力も重要な課題とされています。
エネルギー基本計画(平成15年10月)の内容をもとに、筆者要約
—–
第7次エネルギー基本計画のポイントについて
今回の計画案の中で、電源構成における特徴として、以下の3つのポイントが挙げられます。
①再エネの占める比率が、初めて火力を上回り、最大の電源となった点。
②再エネの内訳として、太陽光の占める比率が22-29%という見通しとなり、単独の電源としても最大の電源となった点。
③エネルギーの安定供給と脱炭素化推進などを理由に、原子力の比率が引き上げられた点。
まず①については、現在の第6次エネルギー基本計画内で記載されている2030年度の電源構成(見通し)では火力が56%程度、再エネが36-38%、原子力が20-22%となっています。そのため、第7次エネルギー基本計画では、初めて再エネが火力を上回り、電源構成の中で最大の電源となったことがポイントの一つ目です。
経済産業省 資源エネルギー庁:エネルギー基本計画(原案)の概要(令和6年12⽉)
© https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/067/067_005.pdf
次に②についてですが、再エネの電源構成は太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの5つに、火力の電源構成はLNG、石油、石炭の3つにそれぞれ細かく分かれています。そのため、太陽光の占める比率が22-29%という見通しとなると、単独の電源としても太陽光は最大の電源となります。
太陽光発電の中でも注目を集めているのは、ペロブスカイト太陽電池です。ペロブスカイト太陽電池は、軽量で柔軟な特徴を生かし、再エネの導入拡大と地域共生を両立するものとして期待されており、経済産業省は次世代型太陽電池戦略の中で、2040年には約20GW の導入を目指すことを掲げています。
経済産業省 資源エネルギー庁:エネルギー基本計画(原案)の概要(令和6年12⽉)
© https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/067/067_005.pdf
最後に③については、2011年の東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の多くが停止した結果、化石燃料に対する依存が高まり、その大宗を海外からの輸入に頼るという、エネルギー需給構造上の脆弱性が再び顕在化しました。それに加え、ロシアによるウクライナ侵略や中東地域における軍事的緊張による化石燃料の調達への不安から、エネルギーの安定供給を目的として電源構成に占める原子力の比率が引き上げられました。
しかし、パブリックコメントの中には原子力や化石燃料へのエネルギー依存の体質を改善する意見も上がっており、例えば生協の連合会組織であるパルシステム生活協同組合連合会は、次のような意見書を経済産業大臣宛てに提出しています。
—–
1.エネルギーに関する国民各層の理解促進について、啓発強化を求めます。
2.エネルギー需要量の大幅縮小を可能とする社会の構築を目指し、支援制度の拡充を求めます 。
3.原子力発電ゼロへの早期移行と工程具体化を求めます。
4.2050年再エネ100%に向け、2030年の導入目標を国際的水準である50%以上としてください。
5.石炭火力は2030年までの段階的廃止を求めます。
パルシステム:第7次エネルギー基本計画(案)に対する意見より、一部抜粋
—–
このように、第7次エネルギー基本計画ではエネルギーの安定供給や脱炭素化に向けたエネルギー構造への転換が求められており、国として経済成⻑につなげるための産業政策が強化される内容となっています。
2040年度におけるエネルギー需給の見通しについて
最後に、経済産業省 資源エネルギー庁が発表している、2040年度におけるエネルギー需給の見通しの分析結果について、要点をまとめてお伝えしていきます。なお、ここで用いられているシナリオは、①再エネ拡大、②水素・新燃料活用、③CCS活用、④革新技術拡大、⑤技術進展の5つです。
1. シナリオ別 エネルギー需給
― 2040年度の最終エネルギー消費量は2.6–2.7億kL程度、一次エネルギー供給量は4.2–4.4億kL程度。
2. シナリオ別 電力需給
― 2040年度の電力需要は0.9–1.1兆kWh程度、発電電力量は1.1–1.2兆kWh程度。
3. シナリオ別 エネルギー起源CO2排出量
― 2050年ネットゼロに向けた直線的な排出削減を実現するシナリオでは、エネルギー起源CO2排出量は3.7億 トン程度(2013年度比▲70%程度)。
4. シナリオ別 革新技術の導入量
― 再エネ・水素等・CCSは、脱炭素化に向けていずれも重要な役割が期待されるが、コスト等の技術動向に応じて、2040年度の野心的な排出削減に向けた経済合理的な技術導入量の組み合わせは異なる。
5. 排出削減コスト
― 2040年度の野心的な排出削減に向けて足下からコストは上昇の見通し。海外との相対的なコスト差の拡大を抑えるためには、幅広い革新技術のコスト低減が必要。
6. 他機関のシナリオ分析との比較
― 2050年ネットゼロに向けて直線的な排出削減を実現するシナリオでは、2040年度の最終エネルギー消費量や電力需要、発電電力量について、他機関による分析においてもRITEによる分析結果と概ね同等の水準が見通されている。
― 2050年ネットゼロに向けて直線的な排出削減を実現するシナリオでは、2040年度の電源構成について、他機関による分析においてもRITEによる分析結果と概ね同等の水準が見通されている。
7. 電力需要の感度分析
― DX進展等による電力需要拡大は将来の不確実性が大きく、データセンター等の電力需
要の大幅な拡大に伴い、発電電力量を大きく増加させる必要性が生じうる。(感度分析では、データセンター・ネットワークの電力需要について、革新技術拡大シナリオにおける想定と比較してより大幅な需要増加を想定した高位ケースと、過去とほぼ同程度の伸び率を想定した低位ケースを適用。)
まとめ
本コンテンツでは、第7次エネルギー基本計画に関する理解を深めるにあたり、エネルギー基本計画の概要を捉え、その後第7次エネルギー基本計画のポイントについて確認していきながら、最後に2040年度におけるエネルギー需給の見通しついて紹介してきました。
まずは今回の第7次エネルギー計画が、発電電力量の増加を前提に作られている点を、必ず押さえておく必要があります。私たちの日常における生活の中でも、生成AIやデータセンター需要の増加など、電力需要が拡大していることは、読者の皆様も実感があるのではないでしょうか。計画の原案では、2040年における発電電力量は1.1兆-1.2兆kWhとし、2022年度実績より1-2割増えるとされています。その上で、2章でもお伝えしたように、いかに太陽光をはじめとする再エネをうまく活用できるのかが、今後の脱炭素の実現に向けて重要な課題になってきます。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

