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再エネ一のポテンシャル?「離島への浮体式洋上風力発電導入検討の手引」の公表について

基礎知識

先日6月6日、環境省より「離島への浮体式洋上風力発電導入検討の手引き」が公表されました。

実は、現在国内のほとんどの離島では、温室効果ガスの排出量が最も多い内燃力発電を中心とした電力が供給されているのです。燃料そのものの高騰と、本州よりも燃料輸送コストがかかる分、エネルギーは近年特に高コスト化。加えて、台風や津波等の災害による停電リスクも抱えており、エネルギー供給にさまざまな課題があるのが現状です。

さらに、多くの離島では、地域産業の活性化や雇用対策、高齢化対策など、地域社会の問題もあります。

そこで、浮体式洋上風力発電の導入が推奨されることになりました。
再エネの導入は、このような離島の環境・社会・経済の問題解決に役立つと言われており、具体的には、次のようなメリットがあります。

  • 再エネの導入により脱炭素化が進み、温室効果ガスの排出を削減できる
  • エネルギーを自給自足できるようになることで、社会情勢や災害によりエネルギー供給が滞るリスクが減る
  • エネルギーコストを低減できる
  • エネルギー事業を行うことで、地域の雇用創出や経済の活性化にもつながる

また、離島の再エネの導入を進めることは、日本全体の再エネや脱炭素化を促進することにもつながると言われています。
なぜなら、離島地域は意思決定が比較的早いため、それを導入モデルとすれば、より多くの地域にスムーズに展開していくことができると考えられているためです。実際に、他国では既に再エネ100%を達成している離島は数多くあります。

海に囲まれた島国である日本。
もし、離島での浮体式洋上風力発電の導入が順調に進めば、再エネ100%を早期に達成する足掛かりになるかもしれません。

導入を検討する離島の自治体や離島の脱炭素化に取り組む発電事業者等関係者の方だけではなく、発電方法や再エネ設備の導入に興味のある一般の方も、エネルギー分野への理解を深めるためにぜひ読んでみてください。

なぜ「浮体式洋上風力発電」なのか?

では、なぜ数ある再生可能エネルギーの中で、浮体式洋上風力発電の導入が推奨されているのでしょうか。理由は3つあります。

理由①導入に適した環境だから

浮体式洋上風力発電は、水深の深い地域で導入が可能です。沿岸から水深が深くなり、陸上や沿岸部よりも強く安定した風力資源を得られるため、効率よく発電できます。
また、離島は未利用地が限られており、太陽光や陸上風力発電設備の設置が難しいことも、浮体式洋上風力発電が最適な理由です。

理由②比較的安全性の高い発電方法だから

設備を海底に固定しないので、海底の自然環境や生態系への影響が少ないです。また、遠洋に設置されるため、風力発電と比べて低周波音などは聞こえにくく、住民への直接的な影響はほとんどありません。設備の設計や技術、運用において対策を講じることで、比較的安全に運用が可能です。そして、万が一想定外の事態が起きても簡単に撤去できることも特徴です。

理由③事業規模が大きいから

浮体式洋上風力発電事業規模が大きいことも理由の一つです。浮体式洋上風力発電導入して運用していくには、太陽光発電などと比べてさまざまな技術や人材が必要となるため、地域の活性化や雇用創出につながります。再エネの中でも導入費用がかかる傾向にありますが、大規模発電ができれば発電コストが火力発電並みでるため経済性は確保しやすくなります。

「浮体式洋上風力発電」のしくみ

そもそも、浮体式洋上風力発電はどのようなしくみになっているのでしょうか。
浮体式洋上風力発電は、名称の通り、海中に浮かぶ浮体に風力発電機を搭載し、風の力を利用して風車を回して発電を行う方法です。

浮体にはいくつかの形式があります。

水深や海底の低質によって、適した形式の浮体を使用します。

浮体の位置を固定するために海底に基礎を設置しますが、係留を解けば撤去して現状回復することも比較的容易です。

離島で「浮体式洋上風力発電」を導入する手順5STEP

導入手順は大きく5つのステップに分けられます。

ビジョンの明確化

島の課題などから、自治体としてどのような選択肢が取れるかを考え、浮体式洋上風力発電が必要な理由や浮体式洋上風力発電設備が島に最適な理由、どのように課題解決に貢献するのかを整理します。導入事例(五島市)なども参考にできます。
そのうえで、都道府県との連携やビジョンの公表を進めます。

理解醸成

地域住民はもちろんのこと、浮体式洋上風力発電は漁業者からも発電設備設置への理解を得る必要があります。勉強会などを設けて理解を深めながら、関係者の声を聴いてすり合わせを行っていきます。

机上調査~実地調査

海底の地盤や生態系、海象など、候補海域を選定するための調査を行います。法令や規制などを把握し、海域の利用実態の聞き取りなどを行ったり、景観の観点も確認します。

風況観測(洋上観測)

実際に浮体を設置して観測するため、導入前に浮体がある状況を経験することができます。観測データは、精度を確保するため、1年以上行う必要があります。

施設導入

電力需要量を検証し、発電電力量の予測を行った上で設備の台数や規模等を検討します。負荷率や設備利用率を計算して売電単価を決めたり、活用できる補助金や交付金などを検討して事業化への方針を固めたら、いよいよ設計・製造し、設備の設置を行います。

このように、周囲の理解を得て検証を重ねてようやく運用を開始できます。

参照:環境省資料:離島への浮体式洋上風力発電導入検討の手引 2024年6月
2024年度夏季の電力需給対策について|資源エネルギー庁

まとめ

今回は、「離島への浮体式洋上風力発電導入検討の手引」の公表についてご紹介しました。手引きには、先駆けて設備の導入を行った五島市などの事例とともに、手順や留意事項、事業化や資金調達などについて幅広く掲載されているため、より詳しく知りたい方は手引きを確認してみてください。

浮体式洋上風力発電は、昼夜問わず運用可能なこと、陸地のように設置場所が限られていないことなど、他の再生可能エネルギーと比べて高いポテンシャルを持っていることからも、今後普及が拡大してくことが予想されます。
この度導入の手引きが公表されたことで、技術開発が進み、政策支援が強化される可能性もあります。今後の動向にも注目です。

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