排出権取引をわかりやすく解説!海外事例や制度導入の流れも紹介!
カーボンニュートラルをはじめとした脱炭素化が推進されるにつれ、排出権取引が注目されるようになりました。排出権取引とは、簡単にいうとCO2排出量を取り引きするための制度で「ETS(Emission Trading Scheme)」とも呼称されます。
現在日本で排出権取引は一部の自治体以外は実施されていない状況ですが、政府は2026年度の本格稼働に向けて準備を進めています。
本コンテンツは排出権取引についてわかりやすく解説しており、自社への導入をスムーズに行うための手立てとなります。ぜひ参考にしてください。
目次
排出権取引は企業が無理なくCO2を削減できる手段
脱炭素化推進といっても、企業が自社努力だけでCO2を削減することは非常に困難であり、限界があります。しかし、排出権取引を活用すれば無理なくCO2削減達成が可能です。
ここでは企業が無理をすることなく、CO2排出量を削減できる排出権取引について、具体的な事例を挙げ、わかりやすく解説していきます。
排出権取引とはCO2の排出量を売買すること
まず、排出権とは温室効果ガス削減を促進するために、1997年に開催された地球温暖化防止京都会議で策定された京都議定書に伴う権利のことです。排出権取引とは、国がCO2をはじめとした温室効果ガスを排出する企業や組織に対して「排出枠」を策定し削減するための施策で、海外ではすでに多くの国が導入しています。
よりわかりやすく排出権取引を解説すると次のようになります。
1. A社は「排出枠」として設定されたCO2排出量の上限を超えてしまった。
2.そのためA社は排出枠を下回ったB社から超過分を購入しなくてはいけない。
3. B社は余った排出枠をA社に売ることで利益を得ることができる。
4. A社の超過分排出量は、B社から購入した排出枠により削減されたとみなされ、環境貢献につながる。
このように大量のCO2排出量があった場合に、排出枠を超えた企業にペナルティを課し、CO2排出量を金銭的に取引し売買することで、産業界の経済効果を落とさずに温室効果ガス削減を推し進める仕組みです。
排出権取引の成果は各国が証明済み
海外では排出権取引はすでに多く導入されていることは前述しました。ここでは各国の事例と現在の日本の状況を表にまとめましたので、参考にご覧ください。
アメリカ | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
カリフォルニア州等で実施されている制度では、国 内クレジットを対象に、上限付きで利用可 | 大手EVメーカーテスラが世界の貴重な排出権の売り手となり、カーボンクレジット市場を活性化 | 2050年ネットゼロ目標を設定 |
中国 | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
政府が認証したカーボンクレジット(CCER)が対象・排出量の5%が利用の上限 | 2013年から2015年の間で北京市は歴史排出水準比で3%~4%削減達成・今後は年間2.6万トン以上CO2を排出する火力発電所を対象として国内排出量の40%程度をカバー予定 | 2030年までにカーボンピークアウト、2060年までに実質的なカーボンニュートラル達成 |
インドネシア | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
政府が認証、適格と判断したカーボンクレ ジットが対象・利用の上限はなし | 世界的な排出権取引市場 (IDXCarbon)を開業し世界的な石油会社との排出権取引が実施され、約292億ルピアの取引総額をあげている | 2060年までにカーボンニュートラル達成 |
ドイツ | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
2021年度から国内を対象に導入・運輸、建築物等熱利用(カバー率38%)カーボンクレジットは利用不可 | 64億EUR (9,664億円)の収入達成 | 2045年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ達成 |
EU | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
EUはこれまで世界の排出権取引で約9割を占めたが、新たな排出量取引制度の導入を実施し制度の厳格化を予定 | 2020年のEU域内の温室効果ガス排出量は、1990年比で31%減達成 | 2050年までにカーボンニュートラル達成 |
日本 | ||
概要 | 成果 | 削減目標 |
東京都と埼玉県が排出権取引制度を導入 | 東京都は令和3(2021)年度の対象事業所の排出量は合計1,111万トンで基準排出量から33%削減達成 | 2050年までにカーボンニュートラル達成 |
排出権取引の方法は2種類ある
排出権取引には次の2つのタイプがあります。
● ベースライン&クレジット方式
● キャップ&トレード方式の2つの方式
日本ではキャップ&トレード方式が採用される予定です。それぞれを解説していきましょう。
ベースライン&クレジット方式
国や企業が「ベースラインの排出量と実際の排出量の差分を取引可能にしたもの」がベースライン&クレジット制度です。排出量を削減する事業が実施された場合、その事業が実施されなかった場合(ベースライン)を想定し比較して取引する方式です。
キャップ&トレード方式
環境省が掲げるキャップ&トレード方式の定義は以下のようになります。
● 公正で可視化されたルールの下、国が排出量に限度(キャップ)を設けることで、削減の取り組みを担保する。
● 排出枠の取引(トレード)等を可能にし、柔軟性のある義務履行を行えるようにする。
● 炭素の価格設定をすることにより、効率よく経済的に炭素の削減を推し進めることができる。
上記のようにキャップ&トレード方式は、公的機関が企業や事業者に対して「CO2の排出枠を一定量割り当てる制度」です。国が削減目標を実現するために、温室効果ガス排出量にキャップ(限度)を設け、その枠内に収まるようにトレード(取引)することから、「キャップ・アンド・トレード」と呼ばれています。
さらにわかりやすくキャップ&トレード方式を解説しましょう。
1.企業は定められた排出枠よりCO2排出量削減を実施した場合、余った排出枠をクレジット等に変換し、他社に売却することが可能。
2.売却することで資金を得ることができる。
3.売却せずに残しておくことで、翌年以降の排出量の相殺に使用することも可能。
4.排出量が定められた上限を超えた場合は、必ず他社からクレジット購入をしなくてはならない。
5.キャップ&トレード方式の最大の特徴は排出枠に上限があり、達成される目標が明確で、なおかつ余剰分に関しては金銭的な取引が可能であること。
企業が排出権取引を進める4STEP
ここからは企業が排出権取引を進める流れを、排出枠の分配方法の種類も含めてわかりやすく解説していきます。
STEP①CO2削減目標に合わせた「排出枠」が割り当てられる
まずは、国がCO2削減の目標設定を行います。100%から設定された排出目標の%を引いた値が排出枠となり、そこから各企業へ分配されます。
排出枠の分配方法は3種類
排出枠の分配方法には、次の3つの種類があります。それぞれを簡単に解説しましょう。
【ベンチマーク方式】
ベンチマーク方式のベンチマークとは、各事業者の排出枠を総量方式で設定する場合に定められた「望ましい原単位水準」のことです。事業活動の生産物や技術に着目し決定される「ベンチマーク」をもとに、排出枠を分配する方式で、事業者の過去の削減努力を鑑みた公平な排出枠を設定することが可能です。
【グランドファザリング方式】
各事業者の排出枠を総量方式で設定する場合に過去の排出実績を基準として算定する方式です。ただし、過去の排出削減努力等や各生産者の状況を反映させるためには、過去排出量や削減率に対して臨機応変な対応が必要という課題があります。
【オークション方式】
各事業者の排出枠を総量方式で設定する場合にオークションを実施して、必要な分だけの排出枠を落札し獲得する方式です。排出枠をオークションによって設定する場合は、オークションに必要な、参加要件や頻度、使途、買い占め等の制度を設計しなくてはいけません。
STEP②排出枠内に収まるよう企業内でCO2削減を進める
排出枠が定められたら、できるだけ排出枠内に収まるように企業内でCO2削減の努力を行いましょう。以下の事例のように、社内で対応策をよく検討し継続的に実践できることを始めることが大切です。
● 自社の使用燃料や電気の使用量を削減・リサイクルの実施
● 公共交通機関の利用推進活動等
● 製造・配送方法の無駄の見直し
● 自社や取引先での再生可能エネルギー由来電力の調達と活用
● 環境ラベルの取得・活用
● 植林や森林保護等の環境活動の促進
STEP③(排出枠を超えた場合)排出枠を購入する
できる限りのCO2削減努力を行っても排出枠の上限を超えてしまう場合は、排出枠が余っている他企業から排出枠の余剰分を購入する手立てを取りましょう。CO2削減には新たな設備導入やイノベーション促進等、どうしてもコストがかかることが多くあります。そのため、余剰分を購入する方がコスト的には安く済む場合もあります。
STEP③(排出枠が余った場合)排出枠を販売する
上限を超えずにCO2の削減が順調に進み排出枠に余剰分できた場合は、排出枠の上限を超えた企業に対して排出枠を売却し資金調達とすることが可能です。
STEP④排出枠と実際の排出量を確認される
排出権取引の最終ステップとして、各企業・事業所の排出枠と実際の排出量を確認する「マッチング」という作業が行われます。このマッチング作業で企業が排出枠の上限を超えたことが判明した場合はペナルティが生じます。
反対に、マッチング作業で定められた排出枠内でCO2排出量を収めた企業や事業所は、排出権取引のルールを遵守したことになります。
日本で排出権取引が導入される2033年までにやっておきたいこと3つ
日本では2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。GXとは排出削減と経済活動の双方を実現するための方策で、排出権取引の実施がすでに決定しています。そのため先行して取り組んでおくことで自社の脱炭素施策に非常に有利になる可能性があります。
排出権取引導入前に取り組んでおきたい事柄を3つご紹介しましょう。
①自社の現状のCO2排出量を調査・把握する
CO2排出量を調査・把握するためには、LCA(ライフサイクルアセスメント)を通して、考慮することが重要であり、さらにエネルギー利用以外にも間接的・直接的に発生するため、専門的な知識が必要です。
そのため、以下のようなツールを使用して排出量を算定することがおすすめです。
CO2排出量算定ツール「CARBONIX」
②CO2の削減方法を検討する
①の調査結果をもとに、自社でCO2削減を進める方法を検討しましょう。これまでの製造・販売の方法や工程を変えることは容易ではないので、どのような対策を取ることができるのかしっかりと社内で検討することが重要です。
③先行して脱炭素の推進に努める
新たな設備導入や事業の方法を変えるには時間もコストもかかります。そのため、先行してできることは進めておくことが重要です。例えば、どのような事業活動にも欠かすことのできない「電力」を、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー由来に変更することは大変有効と言えるでしょう。再エネ活用は大幅なCO2削減を達成することが可能な方法のひとつです。
まとめ
排出権取引について種類や海外事例、導入の流れまでくわしく解説しました。日本では将来的に排出権取引導入が決定しているため、いざというときに慌てずに対応できるように対策を講じておくことが重要です。
自社で排出権取引を導入する際にはスムーズな導入を行えるように、本コンテンツを参考にしっかりと知見を深めていただければ幸いです。