メタネーションとは?カーボンニュートラルを支える技術を徹底解説

基礎知識

「メタネーション」という言葉を、皆様はご存じでしょうか。これは、CO2と水素(H2)からメタン(CH4)を合成する技術を表しており、各地のガス会社を中心にガスの脱炭素化に向けた活動の一環として、実用化に向けた研究開発が進められています。

直近では2024年5月に、大阪市此花区にあるごみ焼却工場(以降、舞洲工場と記載)の敷地内にて大阪ガスによりメタネーションの実証設備の竣工式が執り行われ、ニュースに取り上げられました。この取り組みでは、エネルギーの地産地消型モデルの構築を目指し、再生可能エネルギー由来の水素と地域のまだ利用されていないバイオマスを活用して製造した合成メタンによりCO2の排出量の低減を図ることとされています。加えて、舞洲工場内で実証を行った後に、メタネ-ション実証設備の移設作業や試運転を経て、2025年4月から大阪・関西万博の会場内で実証を行うことが予定されています。

このように、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、ガスの領域でも脱炭素化に向けた動きが活発化してきています。しかし、それらの取り組みの主軸となるメタネーションにおいても、実用化に至るまでには今しばらく年月を要する状況です。

そこで本コンテンツでは、まずはメタネーションの概要から理解を深め、メタネーションの取り組みが活発化する背景や行政、企業の動向他、メタネーションと熱需要の低炭素化の関係性や今後の課題についても解説していきます。

メタネーション(Methanation)の概要について

メタン(Methan)とラテン語で「生まれ」を意味するnatioに由来する概念(nation)の造語となっており、発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、水素と反応させてメタンを合成する技術を表しています。

メタネーションは、フランスの化学者のポール・サバティエによる1911年の発見が始まりとなっており、ニッケルを触媒にしてCO2と水素を高温で反応させると、メタンと水を得られることが明らかになりました。メタンを人工的に合成する技術としてこのサバティエによる発見は「サバティエ反応」と名付けられ、更なる研究開発が進められた結果、1995年に、日本が世界で初めてメタネーションによる合成メタンの生成に成功しています。

因みに、メタネーションの過程で活用される水素は、CO2を排出しない再生可能エネルギー由来の電気を用いた水の電気分解などから生成されているため、メタンの合成と利用(燃焼)によりCO2の排出量は増やさず、むしろ大気中のCO2とオフセット(相殺)することで、実質的な排出量をゼロにする仕組みとなっています。

メタネーションによって合成されたメタンは「カーボンニュートラルメタン」、または「合成メタン(e-methane)」と呼ばれています。そこで、本コンテンツでは便宜上、メタネーションによって合成されたメタンは「合成メタン」として記載します。

メタネーションによるCO2の排出削減の具体的なスキームは、以下のようになっています。天然ガスの主成分であるメタン自体の成分が、メタネーションによる合成メタンとほぼ同等であるため、メタネーションにより生成されるガスは従来の都市ガスと燃焼性は大きく変わらないと言われています。

経済産業省 資源エネルギー庁:ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/methanation.html

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  1. 発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、水素と反応させて、メタンを合成。
  2. 都市ガスの導管を利用し、①で作った合成メタンを一般家庭、商業施設やビル、工場などに供給。
  3. 合成メタンの利用により排出されたCO2は、①とオフセット。

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ここまでの流れを踏まえ、改めて冒頭で取り上げた、国内最大規模の「バイオメタネーション」の実験施設である舞洲工場の事例を確認してみます。このケースにおいては、生ごみを発酵させて発生するCO2を水素と反応させ、微生物の働きで合成メタンを生成する仕組みとなっています。

そして、万博会場では会場内で発生する生ごみ由来のバイオガスに含まれるCO2他、DAC実証装置やCO2回収装置で回収される予定のCO2と、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を反応させることでメタネーション装置により合成メタンを製造し、迎賓館厨房やガスコージェネレーション設備など、会場内の都市ガス消費機器に供給することで、実証実験を行う予定となっています。

メタネーションの取り組みが活発化する背景や行政/企業の動向について

脱炭素化に向けた様々な取り組みの中で、エネルギー関連で想起されやすい施策には、

  1. 発電に際し、CO2の排出量が多いとされる化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えるもの
  2. ガソリンや灯油などで動く機器類を、電動式に切り替えるもの

などがあります。このように、電力需要に着目した取り組みがしばしば取り上げられる傾向にありますが、実際には日本における消費エネルギーの約6割は、工場などの「産業部門」における蒸気加熱や、家庭・業務などの「民生部門」における給湯や暖房といった熱需要が占めています。そのため、この熱需要を脱炭素化にシフトさせるためにも、メタネーションは今後注目される取り組みの一つとなることが伺えます。メタネーションと熱需要の低炭素化の関係性については、三章で更に詳しく説明していきます。

また、昨今メタネーションの取り組みが注目されるようになったきっかけの一つに、一般社団法人日本ガス協会が2020年11⽉に策定した「カーボンニュートラルチャレンジ2050」があります。このアクションプランの中では「メタネーション実装への挑戦」が掲げられており、3本柱の1つとして位置づけられています。これらの施策は、内閣官房や経済産業省 資源エネルギー庁が掲げている第6次エネルギー基本計画やグリーン成長戦略における目標とリンクする形で定められています。

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▶ガス業界が目指す姿

2030年:

・ガスのカーボンニュートラル化率5%以上を実現
・メタネーションの実用化を図る(カーボンニュートラルメタンの都市ガス導管への注入1%以上)

2050年:

・複数の手段を活用し、ガスのカーボンニュートラル化の実現を目指す
・合成メタンの価格を、現在のLNG価格と同水準に揃えることを目指す(※1)

▶アクションプラン ~3つのAction~

Action 1  2030年NDC(※2)達成への貢献
Action 2  メタネーション実装への挑戦
Action 3  水素直接供給への挑戦

経済産業省:カーボンニュートラルチャレンジ2050 アクションプラン(2021年6月28日 一般社団法人 日本ガス協会)より引用

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一方で、ガス会社を中心にメタネーションの取り組みに対する直近のロードマップも公開されています。これらの資料からもわかるように、事業化や商業化の見通しとしては、2030年が一つのメルクマールとなっています。

経済産業省:メタネーション取組マップ2023
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/009_04_02.pdf
(3スライドいずれも該当)

(※1)本内容は、資源エネルギー庁:合成メタンに関する最近の取組と今後の方向性(2022年4月)を元に作成。

資源エネルギー庁:合成メタンに関する最近の取組と今後の方向性(2022年4月)
© https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/methanation_suishin/pdf/007_03_01.pdf

(※2)我が国の温室効果ガス削減目標を指す。

メタネーションと熱需要の低炭素化の関係性/今後の課題について

ここまでの説明では、メタネーションを導入するメリットとして、実質的なCO2の排出量をオフセットできることなどからも、環境負荷の軽減やカーボンニュートラル化への貢献が挙げられることをお伝えしてきました。加えて、メタネーションの導入に際しては都市ガスのインフラを活用することが可能であるため、追加でかかるコストを抑えながらカーボンニュートラルを推し進めることもメリットの一つとなっております。

具体的には、既存の天然ガスから合成メタンへの置き換え・供給は、従来のガス機器やガス導管などの都市ガスのインフラをそのまま活用し、メタネーション設備への投資のみを行うことが必要となってきます。

そこで、ここでは二章でもお伝えしたように、メタネーションと熱需要の低炭素化の関係性について、更に理解を深めていきます。

エネルギー白書のデータによると、燃焼時のCO2排出量について、化石燃料の中でもその排出量が大きいとされる石炭を100とした時に、石油は80、液化天然ガス(以降、天然ガスと記載)は57となっています。つまり、天然ガスはこれらの化石燃料の中でCO2の排出量が最も少ないため、熱需要の低炭素化のためには、

・需要家サイドにおける石炭・石油から天然ガスへの燃料転換
・高効率機器の導入

が有効であると考えられています。

前者で掲げた燃料転換に関しては、1章でもお伝えしたように、成分面からもその燃焼性からも、合成メタンは天然ガスと代替することができ、加えて需要家サイドの設備や機器も継続して利用することが可能となっています。

そのため、石炭や石油等から天然ガスへ、その後天然ガスから合成メタンへと燃料の転換を計画的に実施することが物理的には可能となっており、需要家サイドにおいても追加で必要な設備等の投資コストを抑制しつつ、合成メタンの利用による脱炭素化を実現することが可能であるため、燃料転換を図るための有効な手段としてメタネーションは注目が集まっている状況です。

また、後者で掲げた高効率機器の導入に関しては、水電解反応とメタン合成反応を一体的に行うことでその排熱を利用し、高効率にメタンを合成することを可能にするメタネーションの技術開発が進められている状況です。

いずれにせよ、日本における消費エネルギーの約6割を占める熱需要に対し、どのようなアプローチで低炭素化及び脱炭素化に取り組んでいくべきかを検討した際に、燃料転換の重要性を踏まえると、メタネーションが有効な手段となってくることがお分かりいただけると思います。

一方で、メタネーションの実用化に際しては、以下のような課題もあります。

・合成メタンを生成する過程で用いられる原料の調達にかかるコストが高い

⇒合成メタンの生成に必要なグリーン水素は再生可能エネルギー由来の電力を用いるため、大量に安定調達を行うことが難しく、コストがかさみやすくなる欠点があります。また、ベースとなるCO2の調達に際しても設備等の環境整備が必要となってくるため、ある程度の初期投資は必要となってきます。そのためメタネーションを進めるにあたっては、実質的には大容量で安価なCO2、水素、(水素を生成するための)再生可能エネルギーの3つの原料確保と、安定した供給体制の確立が必要となってきます。

・メタネーションに必要な設備の大型化が求められる

⇒合成メタンの商用化に際しては、10,000-60,000 Nm3/hを製造できるメタネーションの設備が必要と考えられていますが、現状では世界最大いわれる規模の装置でも500Nm3/hの製造能力しかないと言われています。

・環境付加価値を客観的に評価できる仕組みや制度の整備が整っていない

⇒多少のコスト増が見込まれても、メタネーション設備の導入を検討企業にとって相当のメリットを示すことができれば、合成メタンの需要は高めることが可能であると考えられています。現段階では、まだ、LCAなどを活用した制度設計は十分でなく、グリーンイノベーション基金などの補助金などにそのサポートが留まっている状況です。そのため、コスト面のデメリットを超えて合成メタンを普及させるためには、環境付加価値の可視化が重要な課題となってきます。

まとめ

本コンテンツでは、メタネーションについてその概要をふまえた上で、国内の熱需要に対する燃料転換の重要性や今後の課題などについて、幅広い視点から解説してきました。

過去にカーボニクスメディア内でも取り上げたアンモニア専焼水素還元製鉄のように、今回のメタネーションも、脱炭素化に繋がる技術として注目を集め始めてはいるものの、まだまだ課題も多く実用化や商用化に時間がかかる技術の一つとなっています。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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