ブレンデッド・ファイナンスとは?仕組み・活用事例・メリットを徹底解説

気候変動対策に向けた資金需要が世界的に高まる中、新たな資金調達手法として「ブレンデッドファイナンス」が注目を集めています。これは、公的資金と民間資金を組み合わせることで、投資リスクを軽減し、より多くの民間投資を呼び込む革新的な手法です。特に、新興国や途上国での環境プロジェクトにおいて、その効果を発揮しています。世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関も、この手法を積極的に活用し始めており、企業にとっても新たなビジネス機会の創出につながる可能性を秘めています。本稿では、ブレンデッドファイナンスの基本的な仕組みと、企業が活用できる具体的な方法について解説します。
目次
ブレンデッド・ファイナンスとは?
ブレンデッド・ファイナンス(Blended Finance) とは、民間資金と公的資金、あるいは慈善資金を組み合わせることで、社会的課題の解決や持続可能な開発目標(SDGs)の達成を支援する投融資手法です。特にリスクの高い分野や途上国の開発プロジェクトにおいて、民間資金の動員を促進するために導入されます。
ブレンデッド・ファイナンスのポイント
- 公的機関や国際機関が一定のリスクを引き受けることで、民間企業や投資家が参入しやすい環境を整える。
- 社会的インパクトの高いプロジェクト(再生可能エネルギー、医療、教育、インフラ整備など)に資金を投入。
- 持続可能な経済成長や社会課題の解決に貢献する。
ブレンデッド・ファイナンスは、SDGsの達成や脱炭素社会実現のための重要な資金調達手法として注目されています。
ブレンデッド・ファイナンスが求められる背景と重要性
社会的課題解決の資金不足
世界中で、貧困削減、インフラ整備、クリーンエネルギー導入などの社会的課題の解決が求められていますが、そのための資金が大幅に不足しています。
- SDGs達成には年間約2.5兆ドルの資金が必要とされています。
- 公的資金や慈善資金だけではこのギャップを埋めることができません。
民間投資の重要性
民間資金は膨大な量が存在する一方、リスクの高い途上国やインパクト投資分野への資金投入は限定的です。ブレンデッド・ファイナンスは、公的資金が「呼び水」となり、民間投資のリスクを軽減することで、資金動員を促進する仕組みです。
気候変動対策と持続可能な成長
脱炭素社会や持続可能な成長を実現するためには、再生可能エネルギーやインフラ、教育・医療分野への大規模な投資が不可欠です。ブレンデッド・ファイナンスは、こうした分野での資金調達手段として重要な役割を果たします。
ブレンデッド・ファイナンスの仕組みと特徴
ブレンデッド・ファイナンスの構造
ブレンデッド・ファイナンスは、主に以下の6つの資金が組み合わせられます。
クレジットライン
公的金融機関が民間金融機関に対して設定する与信枠です。以下の特徴があります
- 特定の開発目的(例中小企業支援、気候変動対策)に向けた融資枠の設定
- 民間金融機関はこの与信枠を活用して最終受益者に融資
- リスクシェアリングにより、民間金融機関の融資を促進
- 通常、優遇的な条件(低金利、長期)で提供
直接投資
企業や特別目的事業体(SPV)への直接的な資金提供を行います
- 株式投資やメザニン投資の形態
- プロジェクトファイナンスにおけるSPVへの出資
- 公的機関が先導投資家として参加することで、民間投資を誘引
- 開発効果の高いプロジェクトへの長期的なコミットメント
保証
民間投資家のリスクを軽減するための保証を提供します
- 信用リスクの部分的または全面的なカバー
- ファーストロス保証による劣後部分のリスク負担
- 政治リスクや為替リスクなど特定リスクの保証
- 保証料を徴収しながら、民間投資を促進
CIV(集合投資ビークル)出資
投資ファンドなどの集合投資スキームへの参加形態です
- インパクト投資ファンドや開発ファンドへの出資
- 複数投資家の資金をプールして効率的な運用を実現
- リスク分散効果により民間投資家の参加を促進
- ファンドマネージャーの専門性を活用した投資実行
シンプルな協調融資
複数の金融機関が直接的に協調して融資を行います
- 公的機関と民間金融機関が並列的に融資参加
- 各機関が独自の審査・意思決定に基づき参加
- 融資条件は機関ごとに設定可能
- プロジェクトリスクを分散しながら大型案件に対応
シンジケートローン
幹事行が主導して組成する協調融資の形態です
- 幹事行が融資条件をまとめて交渉・設定
- 参加金融機関間で同一の融資条件を適用
- 標準化された契約により事務負担を軽減
- 二次市場での売買も可能な流動性の確保
引用・参考 OECD公式HP
https://www.oecd.org/en/topics/leveraging-private-finance-for-development.html
これらの配分は、以下の点を考慮することが重要です。
- プロジェクトの進み具合
- 費用対効果
- 支援の目的
- 市場形成への貢献
それぞれの資金は、プロジェクトの特性や開発目的に応じて、単独または組み合わせて活用されます。
ブレンデッド・ファイナンスの4つのアプローチ法
譲許的資本
公的機関や慈善投資家が、全体の資本コストを下げるため、または民間投資家に追加的な保護層を提供するために、資本構造の中で市場より有利な条件で資金を提供します。
保証/リスク保険
公的機関や慈善投資家が、市場より有利な条件で保証や保険を通じて信用補完を提供します
技術支援資金
取引は、商業的な実行可能性と開発インパクトを強化するために投資前後に活用できる、補助金で資金提供される技術支援ファシリティと関連付けられています(。
設計段階補助金
取引の設計や準備が補助金で資金提供されます(プロジェクトの準備や設計段階の補助金を含む)。
ブレンデッド・ファイナンスのメリットと課題
ブレンデッド・ファイナンスのメリット
- 民間資金の動員・・・リスク軽減により、民間投資を促進。
- 持続可能な開発の加速・・・SDGsや気候変動対策への資金投入が進む。
- 効率的な資金活用・・・公的資金と民間資金の連携により、より多くの資金を確保。
ブレンデッド・ファイナンスの課題
- 透明性の確保・・・資金の流れや効果測定が不透明になりがち。
- リスク管理・・・プロジェクトのリスクや運営管理が難しい場合がある。
- 成果の可視化・・・社会的・環境的インパクトの評価が難しい。
日本と世界の動向
日本の取り組み
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世界の取り組み
2023年に行われたドバイでのCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)では、世界の平均気温上昇を1.5度に抑制するため、化石燃料からの「移行」について初めて言及し、歴史的な合意が成立しました。当会議では、シンガポール金融管理局(MAS)による気候変動に関する取り組みにおける先進的なファイナンス制度の展開を発表しました。以下がその内容です。
シンガポール金融管理局(MAS)は、気候変動対策とサステナブルファイナンスの推進に向けて、複数の重要な施策を展開しています。まず、「シンガポール・アジア・タクソノミー」を発表し、トランジション・ファイナンスを推進するための枠組みを確立しました。
次に、石炭火力発電所の早期閉鎖を促進するため、国際連合「Transition Credits Coalition(Traction)」を立ち上げ、新たな炭素クレジット基準の策定に着手しています。
さらに、アジア地域のグリーン投資とトランジション投資の促進を目的として、少なくとも50億米ドル規模の「ブレンデッド・ファイナンス・プラットフォーム」の設立を計画しています。COP28で設立された「損失と損害」基金については、シンガポールは資金援助を受けることも、基金への拠出も行わない方針を示しています。その代わりに、小島嶼国連合(Aosis)の加盟国として、他の加盟国による基金からの資金受領を支援する役割を担う方針を表明しています。
参考 『NGFS highlights three areas to be covered in its Blended Finance Handbook』
https://www.ngfs.net/sites/default/files/medias/documents/
ngfs_publishes_conceptual_note_for_the_blended_finance_handbook.pdf
そのほかにも、アフリカ開発銀行(AfDB)では、それぞれの銀行グループで取り組みを行なっております。
アフリカ開発銀行 (AfDB)
1964年設立。現在の加盟国は81ヵ国 (域内国54ヵ国、域外国27ヵ国) で、中所得国及び民間セクター事業を対象に非譲許的な (準商業ベースまたは商業ベースの) 融資を行っています。2,090億米ドルの授権資本と堅実なリスク管理等により、主要格付機関から最優良の信用格付を受けています。
アフリカ開発基金 (ADF)
1972年設立。域内加盟国のうち後発開発途上国を対象に、貧困削減と経済的・社会的発展の促進を目的とするプロジェクト・プログラムへの譲許的融資や無償資金供与、研究・能力開発への技術支援を行っています。32 ヵ国 (域外国 28 ヵ国、 域内国4ヵ国) のドナー国及びアフリカ開発銀行から拠出金を得ており、3 年毎に増資を行っています。
ナイジェリア信託基金 (NTF)
AfDBグループとナイジェリア政府の合意により、1976年に設立された信託基金。経済、社会情勢、今後の見通しを考慮して譲許的融資が必要と判断される域内の低所得加盟国に対して、開発努力への支援を行っています。
引用 アフリカ開発銀行グループ
https://afdb-org.jp
まとめ
ブレンデッド・ファイナンスは、公的資金と民間資金を組み合わせることで、資金不足が課題となる分野や途上国への投資を加速させる仕組みです。SDGsや脱炭素社会の実現に向け、今後ますます重要性が高まることが予想されます。
持続可能な成長と社会的インパクトを同時に追求するブレンデッド・ファイナンスは、企業や投資家にとって新たなビジネスチャンスとなり、世界全体での課題解決に貢献する力強い手段となるでしょう。

