日本のカーボンニュートラル宣言企業一覧と最新動向を解説

日本のカーボンニュートラル宣言企業一覧と最新動向を解説
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2020年10月26日、菅内閣総理大臣は所信表明演説において、日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。以降、国内でも多くの企業が次々とカーボンニュートラルに向けた計画や取り組みを発表しカーボンニュートラル宣言を行うことで、その流れが拡大している状況です。

しかし、その一方で2024年1月、海外における最新の動向として、EUにより新たな規制を伴う指令が採択されました。それは、カーボンオフセットのスキームを利用した「カーボンニュートラル」や「排出削減」、「環境にポジティブな影響」といった主張が全面的に禁止することを定めるものです。この指令は、消費者が環境や耐久性にとって適切であると考えるサステナブルな選択を行う際に誤解や混乱を招くことを防ぐ、というグリーンウォッシュ防止の観点から消費者を守ることを目的としています。

そこで本コンテンツでは、まずはカーボンニュートラル宣言に関する理解を深めるために、カーボンニュートラルの概要について振り返り、カーボンオフセットとの違いについても併せて確認していきます。その後、国内企業におけるカーボンニュートラル宣言の実態やカーボンニュートラル宣言企業の実例について、順を追って解説していきます。

カーボンニュートラルの概要について

まずここでは、カーボンニュートラルについて簡単に振り返っていきます。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするというものです。2015年に「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された、気候変動問題に関する枠組みであるパリ協定の中で、カーボンニュートラルの達成目標は締結されました。この中で、「2050年」にカーボンニュートラルが事実上の国際目標として認識されている理由は、IPCCの評価報告書にあります。今後人類が安全に暮らしていくにあたっては、気温上昇を1.5℃/年程度に抑えることが必要とされているためです。そのため、現在温室効果ガスの削減目標としては、日本では中期目標として2030年までに現状の26%、2050年までにゼロにするという目標を立てており、EUや英国、米国、さらに中国もそれぞれ目標を掲げています。しかし、現実的には温室効果ガスの排出量を完全にゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去することで、その差し引きをゼロ(ニュートラル)にすることが目指されています。

また、カーボンニュートラルとカーボンオフセットの大きな違いは、排出された温室効果ガスをどのような形で差し引くか、又は相殺するかにあります。カーボンオフセットの場合、どうしても排出される温室効果ガスについては、排出量に見合った削減活動に投資することにより削減目標の達成を目指します。具体的には、「クレジット」と呼ばれる市場取

引が可能な商品を用い、クレジットを購入することで温室効果ガスの排出量を差し引く(オフセット)ことを行います。クレジットの購入で支払われた資金は、緑化や再生可能エネルギー活用・省エネ効果の高い機器の導入に充てられ、温暖化対策の取り組みに活用されます。
しかし、オフセットに頼ることで国内の削減行動が現実的には遅れることや、オフセットするための削減活動が実質的な温室効果ガスの削減に結びついていない事例が一部問題視されています。その点、カーボンニュートラルは、自社の活動により排出した温室効果ガスは自らが削減しなければならず、カーボンオフセットの欠点を補う考え方となっています。

より詳しいカーボンニュートラルに関する情報につきましては、CARBONIX MEDIA内にある「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルについて理解を深める」も併せてご覧ください。

国内企業におけるカーボンニュートラル宣言の実態について

株式会社日経リサーチが行った「日経SDGs経営調査」のレポートによると、カーボンニュートラル宣言(※1)を行った企業は、2021年調査から2022年調査に掛けて大幅に増加しており、既に調査対象(※2)の過半数が宣言済みであることが明らかになっています。また、経済産業省 産業技術環境局 環境経済室よるデータ(※3)においても、国内におけるカーボンニュートラル宣言企業数は109社であることが公表されています。

このように多くの企業によるカーボンニュートラル宣言が進む一方で、現実的には各社から発表されている宣言内容にばらつきが出ている状況も見受けられます。特に、カーボンニュートラルを目指す目標年とScopeの開示範囲の2つの項目においては、業態や業種の特性に影響されることもあり、なかなか一律に定めることが難しいことが伺えます。

(※1)カーボンゼロ宣言、カーボンマイナス宣言のいずれも含む。
(※2)国内のすべての上場企業と、一部従業員100人以上の非上場企業を含む。
(※3)2024年10月7日時点。

カーボンニュートラル宣言企業の実例の紹介について

以下ではカーボンニュートラル宣言を行っている複数の企業の事例を見ていきます。2章でお伝えしたように、似たような業態や業種の中でもどのような宣言の違いが表れているのか、是非参考にしてみてください。

例1)パナソニック(グループ)とSHARPの場合

同じ業種、似たような規模観の企業間でも、目標年の段階で目指すScopeの開示範囲については異なっています。

業種企業名目標年Scopeの開示範囲
電機パナソニック(グループ)2030年Scope1, Scope2, Scope3
電機SHARP2050年Scope1, Scope2,( Scope3)
パナソニック(グループ)
目標Scope1、22030年に90%削減(2019年度比) 2019年:2,311kt
Scope32030年に30%削減(2019年度比) 2019年:83,978kt
目標進捗率Scope1、238%
Scope3算出対象製品拡大による排出量増加のため進捗率は算出せ
SHARP
気候変動に対する、目標としては、以下の2つを掲げている。
・自社活動のCO2排出量をネットゼロへ
・サプライチェーン全体で消費するエネルギーを上回るクリーンエネルギーを創出
また、バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量は、自社活動による排出(Scope1+2)が5%、素材調達や輸送、販売した製品の使用に伴う排出など自社活動範囲外での間接的な排出(Scope3)が95%を占める。また、TCFDに基づく情報開示によると、カーボンプライシングの導入により直接操業コストの増加し、自社が排出するScope1,2の排出量に応じて炭素税が導入され、支払コストが増加することが予測される。
参照資料:パナソニック サステナビリティ データブック2024

(URL:https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/pdf/sdb2024j.pdf

参照資料:シャープ サステナビリティレポート2024
(URL:https://corporate.jp.sharp/eco/report/pdf/ssr2024_j.pdf

例2)花王とライオンの場合

花王のように、自社独自の目標年を設定しているケースも存在します。

業種企業名目標年Scopeの開示範囲
消費財花王2040年Scope1, Scope2, Scope3
消費財ライオン2050年Scope1, Scope2, Scope3
花王
脱炭素に関するコミットメントとしては、2040年カーボンゼロ達成に向けた脱炭素対応策と緩和・適応のビジネス機会を一元的に議論し、迅速な脱炭素活動を推進している。一方で、ESG外部アドバイザリーボードからのメッセージによると、Scope3について開示は行っているものの、CO2 排出量を削減する取り組みについては遅れている状況。
ライオン
2020年に「2℃を十分に下回る目標(Well-below2℃)」としてSBTiより認定を取得し、更に2023年3月に「1.5℃に抑える目標」のSBT認定を取得。
目標(2030年)Scope1+2GHG排出量(絶対量)を55%削減(基準年2018年)
Scope3GHG排出量(絶対量)を30%削減(基準年2018年)
再生可能電力年間調達を100%に増加(2018年0%)

参照資料:花王 サステナビリティレポート 2024
(URL:https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/sustainability2024-all.pdf

参照資料:ライオン サステナビリティWebサイト2024
(URL:https://www.lion.co.jp/ja/sustainability/report/pdf/2024-web-archive/sus-2024-all.pdf#page=1

例3)日本製鉄と神戸製鉄の場合

業態の特性上、サプライチェーンが他のものより長く、Scoop3まで含めたカーボンニュートラルの実現が難しい状況が推察されます。

業種企業名目標年Scopeの開示範囲
鉄鋼日本製鉄2050年Scope1, Scope2(, Scope3)
鉄鋼神戸製鉄2050年Scope1, Scope2(, Scope3)
日本製鉄
2030年までにCO2総排出量を対2013年比30%削減し、2050年にカーボンニュートラルを目指す「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」を掲げ、「社会全体のCO2排出量削減に寄与する高機能鋼材とソリューションの提供」および「鉄鋼製造プロセスの脱炭素化によるカーボンニュートラルスチールの提供」という2つの価値を提供することを目指している。また、シナリオの範囲は、①国内、②Scope1+2(原料受入~製品出荷 + 購入電力製造時CO2)とされている。
神戸製鉄
中期経営計画(2024~2026年度)における最重要課題の一つを2050年に向けた「カーボンニュートラルへの挑戦」としており、2030年30~40%削減(2013 年度比)の達成に向けて取り組みを進めている(目標開始年:2019年度)。なお、ここでの削減対象の範囲は、Scope1+2の合計となっている。

参照資料:日本製鉄 2023年度 サステナビリティレポート
(URL:https://www.nipponsteel.com/csr/report/pdf/report2023.pdf

参照資料:神戸製鉄 ESGデータブック2024
(URL:https://www.kobelco.co.jp/about_kobelco/outline/integrated-reports/files/esg-databook2024.pdf

まとめ

本コンテンツでは、カーボンニュートラル宣言と国内におけるその実態について理解を深めるためにカーボンニュートラルの概要から実際にカーボンニュートラル宣言を行っている企業の実例について紹介してきました。

こちらのシリーズでは次回以降、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、より地域に即したカーボンニュートラルを目指す上での活動についてお伝えしていく予定となっています。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。