埼玉県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

このシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、地域に即したカーボンニュートラルを目指す活動についてお伝えしています。今回取り上げる都県府県は、首都圏に近接しつつも、都市型産業と近郊農業が密接に関わり合う埼玉県です。
そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、埼玉県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在であるさいたま市が目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に県内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。
(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報、並びにライターによるインタビューを元に作成しております。)
埼玉県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について
県のHPには、カーボンニュートラル単体にフォーカスし、直接的に温室効果ガス及びCO2削減にアプローチしていくための取り組みだけではなく、エネルギー政策や温暖化対策といった少し間口を広げたところから、それらの排出削減にアプローチしていく取り組みも紹介されています。
2025年1月末時点で最新のデータとして公表されている「2023年度埼玉県温室効果ガス排出量算定報告書(2021年度算定値)」によると、2021年度の埼玉県における全温室効果ガス排出量は 38,820千tCO2であり、前年度比で0.3%増加していますが、基準年度としている2013年度と比較すると17.2%減少しています。前年度に比べて排出量が増加している要因としては、新型コロナウイルスが原因で落ち込んでいた経済の回復等によるエネルギー消費量の増加等が考えられています。
埼玉県環境部温暖化対策課 埼玉県環境科学国際センター:2024年度埼玉県温室効果ガス排出量算定報告書(2022年度算定値)
© https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/25672/2021prefghgresult.pdf
また、エネルギー起源CO2排出量の部門別内訳を見ると、2022年度の産業部門、業務その他部門、家庭部門、運輸部門の排出量は、それぞれ全体の23%、25.2%、25.2%、25.1%を占めており、業務その他部門の排出量が最も多いものの、全体的にほぼ同じ位の排出割合を占めていることが分かります。加えて、基準年度の排出量と比較すると産業部門、業務その他部門、家庭部門はそれぞれ 26.9%、21.9%、27.1%と減少していますが、運輸部門の減少率は13.2 %にとどまっており、他の部門と比べて排出削減が遅れている状況が明らかになっています。
埼玉県環境部温暖化対策課 埼玉県環境科学国際センター:2024年度埼玉県温室効果ガス排出量算定報告書(2022年度算定値)
© https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/25672/2022prefghgresult.pdf
埼玉県としては、2020年3月に「埼玉県地球温暖化対策実行計画(第2期)」を策定し、2030 年度の県内温室効果ガス排出量を2013 年度比で26%削減する目標設定を行いましたが、後に国内外の動向を踏まえて実行計画の見直しを進めた結果、2023年3月の改正時には、2030 年度の削減目標を2013年度比で46%に引き上げています。そのため、埼玉県の今後の排出削減計画に関する方向性としては、他の都道府県同様に新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化による影響で増加した排出量を徐々に抑え、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みが、今後も引き続き求められることになります。
さいたま市が目指すべき姿や排出削減における目標値について
県の中心都市であるさいたま市では、2050年のカーボンニュートラル及び2030年度の排出削減目標の実現に向けた取り組みを加速化させることを目的に、2023年9月6日にデコ活宣言を行いました。デコ活の「デコ」とは、CO2を減らす脱炭素(Decarbonization)と環境に良いエコ(Eco)を組み合わせた造語で、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動を表しており、さいたま市では次の宣言が行われています。
【宣言1】製品、サービス、取組展開を通じてデコ活を後押しします!
【宣⾔2】⽣活・仕事の中で、デコ活を実践します!
【宣⾔文】
さいたま市では、令和2年にゼロカーボンシティを目指していくことを表明し、令和3年に「さいたま市気候非常事態宣言」を行い、「みんなでアクション ともに未来へ」を合言葉に、脱炭素先行地域に選定されるなど、脱炭素社会に向けた持続可能な都市の実現を目指しています。
地球温暖化という切迫した全人類の課題解決に向けて、今後も市民の皆様と英知を結集させ、次世代に良好な環境を引き継ぐために、「デコ活」宣言を行います。
(但し、宣言1、2については環境省が作成した定型文となっています。)
さいたま市HP:「デコ活」宣言をしました(「デコ活」宣言〔令和5年9月6日〕)より引用
その上で、ゼロカーボンシティの実現に向けて、さいたま市では「さいたま市地球温暖化対策実行計画」を策定(2021年3月に改訂)し、複数の指標から目指すべき目標の値について定めています。改訂の全体像としては、「電力使用に伴うCO2排出実質0」を実現すべく、事務事業編(※1)の中では①再エネ電力調達方針、②環境配慮型公共設整備方針を政策の柱とし、区域施策編(※2)の中では、一般廃棄物処理基本計画との連携により、 ごみの削減やプラスチックの分別等の取り組みを促進することで、トータルで2030年度事務事業編の削除目標である「温室効果ガス削減目標2013年度比51%」を目指していく枠組みになっています。因みに、「51%」という値は、区域施策編・事務事業編それぞれで登場しますので、混同しないように整理して見ていきましょう。
- 目標(区域施策編)
【温室効果ガス削減目標】
2030年度温室効果ガス削減目標2013年度比51%
2030年度温室効果ガス排出量目標(市民1人当たり) 2.8t-CO2以下
第2次さいたま市 環境基本計画/さいたま市 地球温暖化対策実行計画 (区域施策編·事務事業編/概要版)
© https://www.city.saitama.lg.jp/001/009/015/013/001/p113505_d/fil/gaiyoubann.pdf
【再生可能エネルギー等の導入目標】
市域の2030年度再生可能エネルギー等の導入量2013年度比 1.9倍(7,971TJ以上)
【目指すべき将来像(将来目標)】
2050年度温室効果ガス排出実質ゼロ
- 目標(事務事業編)
【温室効果ガス総排出量の削減目標】
2030年度温室効果ガス総排出量削減目標2013年度比51%以上
※廃棄物起源の温室効果ガス排出量、ごみ焼却施設で発電した電力の地産地消による削減量を含む削減目標
【エネルギー起源CO2の削減目標】
2030年度CO2排出量削減目標2013年度比80%以上
※ごみ焼却施設で発電した電力の地産地消による削減量を含む削減目標
現状のさいたま市の事務事業における温室効果ガス排出量の推計を見てみますと、2025年1月末時点で2022年度実績が最新のデータとして公表されており、事務事業全体の温室効果ガス排出量は、基準年度比で10.0%増加、前年度比で7.1%減少となっています。資料によると、増加の原因は2点想定されており、
①石炭コークスの使用による影響
②一般廃棄物の焼却による影響
が考えられています。①石炭コークスの使用に関しては、基準年度である2013年には使用されていない燃料であったため必然的にこの排出量分は上乗せされてしまう状況ですが、②一般廃棄物の焼却に関しては、特に廃プラスチックや合成繊維の償却による排出量が基準年に比べて大幅に増加している状況です。これは、新型コロナウイルスの蔓延によるマスクの着用や、料理のテイクアウト、宅配などによるものが一因として挙げられています。その結果、さいたま市の事務事業における温室効果ガス排出量において、廃棄物起源 CO2が最も多くの割合を占めており、その中でも特に、一般廃棄物焼の焼却による排出が多くなっている状況です。
そのため、2030年度の排出目標を達成するために、以下の5つの重点推進施策が設けられています。
① 市役所業務における省エネルギーの取組推進
② 公共施設の省エネルギー化の推進
③ 市有施設における再生可能エネルギー等の利用の推進
④ エネルギーの地産地消の推進
⑤ 廃棄物の循環利用の推進及び計画的な施設の整備・更新
第2次さいたま市 環境基本計画/さいたま市 地球温暖化対策実行計画 (区域施策編·事務事業編/概要版)より引用
(※1)さいたま市役所などの事務事業における温室効果ガスの排出削減に取り組むための計画。本計画の対象範囲は、市が行うすべての事務事業とし、出先機関を含めたすべての組織及び施設を対象とする。また、廃棄物の焼却に伴うCO2排出についても対象とすると定めている。
第2次さいたま市 環境基本計画/さいたま市 地球温暖化対策実行計画 (区域施策編·事務事業編/概要版)
© https://www.city.saitama.lg.jp/001/009/015/013/001/p113505_d/fil/gaiyoubann.pdf
(※2)地球温暖化対策の推進に関する法律の第21条第3項に基づく計画。
県内における取り組みの実態について
県内では、再生可能エネルギーの推進から環境行動への促進まで、様々な項目においてカーボンニュートラルに向けた取り組みが行われています。ここでは、埼玉県内で現在進行している(又は、既に終了済みの)具体的な取り組み事例の一部について、紹介いたします。
項目 | 取り組み事例(具体的な活動内容) | 市町村 |
再生可能エネルギーの推進 | 株式会社昭和技研工業:太陽光発電を利用したカーポートの設置で脱炭素を推進し、人材採用の強化を図っている。 | 入間市 |
株式会社十万石ふくさや:工場において自家消費型太陽光発電を導入し、再生可能エネルギーの利用を促進している。 | 行田市 | |
環境負荷の低減 | 株式会社晃新製作所:省エネ対策として、レーザー加工機2台を更新し、製造過程でのCO2排出を削減に寄与している。 | 川口市 |
株式会社ライト製作所:エアコンプレッサーの更新とインバーター化でエネルギー効率向上を目指し、CO2排出を削減に寄与している。 | 坂戸市 | |
株式会社マミーマート:全店舗のエネルギーの見える化システムを導入し、省エネ巡回指導も行って、環境負荷の低減に貢献している。 | 所沢市 など | |
循環型社会の構築 | 中村産業株式会社:「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」に会員として属し、循環型社会の構築を目指している。 | 熊谷市 |
環境行動への促進 | NTTコミュニケーションズ株式会社:環境意識の向上と行動変容を促進するアプリケーションの「Green Program® for Employee」を活用し、実証実験を実施。CO2削減と環境意識の向上、環境行動の増加に寄与した。(既に実証実験は終了。) | 埼玉県内4市(所沢市、飯能市、狭山市、日高市) |
まとめ
本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からの関わり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。
次回は、千葉県に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

