排出量・吸収量報告の対象になる「ブルーカーボン」について解説

基礎知識

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、日本でも政府や各企業が一丸となって脱炭素に向けた様々な取り組みを始めているところかと思います。その中では、CO2の排出量そのものを減らしていこうとするゼロ・エミッションの取り組みだけではなく、既に大気中に蓄積している温室効果ガスを回収・除去するネガティブ・エミッションへの取り組みも重要となってきます。

ネガティブ・エミッションの手法としては、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)やCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)が注目を集めており、大手企業においては、例えばMicrosoft社のようにカーボンネガティブでの目標達成を掲げている企業もあります。その中で、今回取り上げるブルーカーボンもそのようなネガティブ・エミッションへの取り組みの一つとなります。但し、ブルーカーボンの定義には幅があり、全ての海藻や海洋植物が対象となるわけではありません

そこで、本コンテンツを通してブルーカーボンへのご理解を深めていただき、自社の温室効果ガス対策に活用できる部分がありそうか、ご検討いただく機会にしていただければ幸いです。

© https://www.jfa.maff.go.jp/j/seibi/attach/pdf/R2_isoyake_kyogikai-14.pdf

ブルーカーボンとは

2009年10月、国連環境計画(UNEP)の報告書において、「藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた(captured)炭素」を示すものとして、ブルーカーボンは命名されました。つまり、ブルーカーボンとは、空気中に排出されたCO2のうち、海藻や海洋生物によって一旦吸収され、貯蓄された炭素のことを示しており、CO2削減対策のうち吸収源対策の新たな選択肢として注目されるようになりました。

その中で、ブルーカーボンが国内でも関心が高まっている理由の一つとしては、島国である日本の地形的な特徴が挙げられます。CO2を吸収する海洋植物の多くは、沿岸から遠くない水深の浅い海域に生息しています。そのため、海岸線の距離は海洋植物の多さにほぼ比例すると言われており、海岸線の長さが世界第6位を誇る日本においては、活用できる海洋資源が豊富に存在することが見込まれています。

加えて、国内では林業の停滞もあり、人工林の成熟期もピークが過ぎているため、CO₂吸収量は長期的には減少することが予測されています。国土交通省の試算によると、国内の森林のCO₂吸収量が大きく落ち込む一方で、CO₂吸収量全体に占めるブルーカーボンの割合(上限値)は相対的に大きくなり、2030年には最大12%に上るとみられています。

また元来、地球上の炭素の多くは海洋にあると言われており、その量は大気の50倍ほどになっています。近年では、下図のように年間で排出されているCO2全体の約1/4が海洋中に吸収されている状況です。一部調査によると、陸上の森林が行う光合成に比べ、海藻や海洋植物によるCO2の吸収量は単位面積あたり2倍以上という結果も出ています*。
*但し、環境省地球環境局の調査報告(令和5年7月)によると、国内の調査結果に関しては、以下のような見込みが出ております。

日本のブルーカーボンの吸収量の規模は、森林の純吸収量(条約インベントリ報告による森林全体の吸収量は2021年度に約5,800万t-CO2)を踏まえた際に、面積比と同等のレベル感に収まる見込み。

出典: 国土交通省「ブルーカーボンー沿岸生態系の二酸化炭素隔離機能ー」
© https://www.pari.go.jp/unit/ekanky/research/bluecarbon2/

このような地形的特徴や環境変化もふまえ、2013年に作成されたIPCC湿地ガイドラインを元に、国内でもブルーカーボン生態系の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討が進められています。その過程で、2023年の4月国連でのインベントリにおいては、日本としても初めて、ブルーカーボン生態系の一つであるマングローブ林による吸収量2,300トンを計上しました。

 

ブルーカーボンの種類と吸収のメカニズムについて

ブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生態系として、海草藻場、海藻藻場、湿地・干潟、マングローブ林が挙げられており、これらは「ブルーカーボン生態系」と呼ばれています。それぞれの生態系の特徴は、以下のようになっています。

(以下、令和5年7月環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室作成「ブルーカーボン」より抜粋)
1.海草藻場
・海草や、その葉に付着する微細な藻類は、光合成でCO2を吸収して成長する。
・海草の藻場の海底では、「ブルーカーボン」としての巨大な炭素貯留庫となる。
・瀬戸内海の海底の調査では、3千年前の層からもアマモ由来の炭素が見つかった。

2.海藻藻場
・海藻は、ちぎれると海面を漂う「流れ藻」となる。
・根から栄養をとらない海藻は、ちぎれてもすぐには枯れず、一部は寿命を終えて深い海に沈み堆積する。
・深海の海底に貯留された海藻由来の炭素も「ブルーカーボン」。

© https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001394943.pdf

3.湿地・干潟
・湿地・干潟には、ヨシなどが繁り、光合成によってCO2を吸収する。
・海水中や地表の微細な藻類を基盤に、食物連鎖でつながる多様な生き物が生息し、それらの遺骸は海底に溜まり、「ブルーカーボン」として炭素を貯留。

4.マングローブ林
・マングローブ林は、成長とともに樹木に炭素を貯留する上、海底の泥の中には、枯れた枝や根が堆積し、炭素を貯留。
・日本では、鹿児島県と沖縄県の沿岸に分布。

© https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001394943.pdf

このように、ブルーカーボン生態系に属する海洋植物や海洋資源は様々ですが、以下の表でお示ししているように、全てのブルーカーボンが排出量・吸収量報告の対象になるわけではありません。

ブルーカーボンについて(令和5年 7月環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室)より抜粋

また、ブルーカーボン生態系による隔離・貯留のメカニズムは、大きく分けて3つに分かれています。

1. 光合成による「CO2の取り込み」
大気中のCO2が光合成によって浅海域に生息するブルーカーボン生態系に取り込まれ、CO2を有機物として隔離・貯留します。

2. 分解を伴う「深海輸送」
岩礁に生育するコンブやワカメなどの海藻においては、葉状部が潮流の影響により外洋に流され、その後、水深が深い中深層に移送され、海藻が分解されながらも長期間、中深層などに留まることによって、ブルーカーボンとしての炭素は隔離・貯留されます。

3. 有機炭素としての「蓄積・貯留」
枯死したブルーカーボン生態系が海底に堆積するとともに、底泥へ埋没し続けることにより、ブルーカーボンとしての炭素は蓄積されます。

© https://www.jfa.maff.go.jp/j/seibi/attach/pdf/R2_isoyake_kyogikai-14.pdf

政府・自治体・企業それぞれの具体的な取り組み事例について

<政府>
近年まで温室効果ガスインベントリへの組み込みが行われている国は、アメリカ、オーストラリアの2か国に留まっていた状況ですが、昨今では加えてイギリス、マルタの4か国がブルーカーボンに該当する推計値をGHGインベントリに反映しています。ただし、イギリス(海外領土のマングローブ)、マルタ(沿岸湿地)の推計値はごく少量に留まっている状況です。1章でもお伝えしたように、日本は2023年の4月国連でのインベントリにおいて初めて、マングローブ林による吸収量を計上しています。

<自治体>
早期よりブルーカーボンに着目し、独自の取り組みを進めている市町村が複数存在しています。
このように、日本では海洋に接する自治体が多いため、自治体起点でのブルーカーボンの関連活動により、基礎的な統計の早期収集や地域毎の海洋価値の特徴の把握が期待されます。

例1. 横浜市(2014年)
独自のブルーカーボンを対象としたクレジット認証制度を日本で最初に立ち上げています。

例2. 福岡市(2020年)
「福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度」が始まり、ブルーカーボン・クレジット取引の売上や企業からの寄付金、入港料の一部などを市民、漁業関係者、企業など複数の主体からなる藻場の保全活動に活用しています。

例3. 大阪府阪南市
大阪湾に有するアマモの自生地を活用して、地元の小学校の学習プログラムでアマモの再生・保全活動等を取り入れています。

<企業>
ブルーカーボンとセットで事業者の皆様の関心が高いところとしては、カーボン・オフセット*取引があるのではないでしょうか。海洋の炭素吸収量が陸域の吸収量よりも多いことが予測されていることからも、ブルーカーボンを活用したオフセット・クレジット取引の潜在的なポテンシャルは大きいことが見込まれます。

既に、海外では、VerraやThe Gold Standard等、民間企業やNGOのカーボン・オフセット基準管理団体を中心にカーボン・オフセット・クレジットが取引されています。実際に、Verraでは2021年に「ブルーカーボン保護プロジェクト」が初めて正式に登録されています。

一方、日本では、政府の認可法人であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合が、海洋、沿岸の環境保全を行うプロジェクト等によって大気中から吸収されたCO2量を「Jブルークレジット®*」として認証し、企業へ販売する取り組みを行っています。既に、4つのプロジェクトが認証を受け、それぞれに対してクレジットの購入の公募が行われています。これらのプロジェクトの中には、J-POWERが自社事業所の近海で藻場を造成したものもあり、民間事業者単独での取り組みも行われ始めています。

*参照:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 ( https://www.blueeconomy.jp/credit/ )

*カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等(例:植林・森林保護・クリーンエネルギー事業としての排出権購入)により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。

例1. Apple社
2018年に環境保護団体が主導するマングローブ林再生プロジェクトに資金を提供し、100万トンのCO2削減プロジェクトに参画、また2021年には、このプロジェクトから販売されたブルーカーボン・クレジットを自社で購入しています。

例2. 株式会社セブン‐イレブン・ジャパン
2011年より東京湾のアマモ場作りに参画、2021年には横浜港が発行するJブルークレジットを購入し、藻場作りの活性化に取り組んでいます。

例3. 日本製鉄株式会社
鉄鋼スラグ利用の技術を応用させてブルーカーボンの評価の研究をしています。具体的には、鉄鋼スラグを利用して藻場などを作り、二酸化炭素の固定量を評価する取り組みとなっています。

 

まとめ

本コンテンツでは、世界全体で2億8千万t-CO2弱の気候変動を緩和するポテンシャルがある、と言われているブルーカーボンについて、関係各所の具体的な取り組み等を用いてご紹介させていただきました。ブルーカーボンは今後期待される気候変動対策の一つであるとともに、まだまだ算定に直接活用できる統計情報がないことや、海草・海藻の計算方法においても国際的に認められるようなロジック・エビデンスが不足している点等、課題も多いのが現状です。

今後もこのような生態系を守るための施策の一つとして、特に事業者間では、上述のJブルークレジットを含むカーボン・オフセット取引や環境保全活動は引き続き注目され続けることが予想されます。

本コンテンツへのご質問、並びにJブルークレジットの購入に関するサポートのご依頼等ございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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