カーボンオフセットとは何かを解説!企業が導入する流れまで紹介
脱炭素化の施策の一つである「カーボンオフセット」という言葉を聞いたことはないでしょうか。カーボンオフセットは、日本で2050年に実現を目指しているカーボンニュートラルにおいても重要な取り組みです。
しかし、そもそも「カーボンオフセット」の意味や内容、そして取り組み方法がわからない方が多いのではないでしょうか。
本記事では「カーボンオフセット」について意味や方法、企業として進める流れまでわかりやすく解説します。カーボンオフセットへの理解が深まる内容ですので、ぜひご一読ください。
目次
カーボンオフセットとはCO2排出量削減を目指す上での考え方のひとつ
まずは、カーボンオフセットとは何かについて解説しましょう。また、なぜCO2を削減しなくてはいけないのか、さらにカーボンニュートラルや排出権取引との違いもご紹介します。
カーボンオフセットとは
カーボンオフセット(carbon offset)とは、直訳するとカーボンは“炭素”、オフセットは“相殺・埋め合わせ”。つまり排出することが避けらない温室効果ガス=“炭素を埋めあわせる”という意味になります。より分かりやすく解説しましょう。
人間は日常生活や経済活動において多くのCO2を含む温室効果ガス(カーボン)を排出しています。それらの温室効果ガスをできるだけは減らすような削減努力を行いながら、やむを得ず排出される温室効果ガスについては、排出量に見合った削減活動に対して投資等を実施します。それにより排出される分を埋め合わせる(オフセット)方法がカーボンオフセットです。
また、カーボンオフセットとよく似た意味や取り組みに「カーボンニュートラル」や「排出権取引」があります。これらについては後述します。
CO2排出量削減は地球温暖化抑制のため
それではなぜ、カーボンオフセットのような施策が必要なのでしょうか。以下にカーボンオフセットの必要性について解説します。
人間が生活するためには多くのエネルギーを使用し、資源を活用します。それらの活動からは二酸化炭素(CO2)をはじめとする大量の温室効果ガスが発生します。これらの温室効果ガスは大量発生すると、地球温暖化を招き気候変動につながります。気候変動は重大な異常気象を発生させ、世界中で豪雨による洪水、気温上昇による干ばつや森林火災が頻発しており、多くの被害を生み出しています。
これらの被害を減らすためには地球温暖化を抑制せねばなりません。そのため、原因である温室効果ガス排出量削減の重要性が叫ばれているのです。
カーボンニュートラルや排出権取引との違いとは
ここではカーボンオフセットとよく似た言葉である「カーボンニュートラル」と、よく似た取り組みである「排出権取引」について、それぞれ簡単に解説します。違いを理解しておきましょう。
【カーボンニュートラル】
カーボンニュートラルとは、人間の活動による温室効果ガスの発生と排出を森林保護等の環境活動で吸収する除去量でバランスを取り、温室効果ガスの合計を実質ゼロにする取り組みのことです。日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を宣言しています。
【排出権取引】
排出権取引は「キャップ・アンド・トレード方式」とも呼ばれる制度です。企業は国が策定したCO2排出枠に対して削減する努力を行い、「排出枠」の上限を超えた場合は排出枠を下回る他企業から超過分を購入します。国や自治体が運営するペナルティの発生する「義務的」な取引制度と言えます。
企業がカーボンオフセットを進める流れ
それではここからは、企業がカーボンオフセットに取り組むための流れをわかりやすく解説します。
STEP1:社内で体制を整える
まずはカーボンオフセットを行う目的を定めることが何より重要です。自社のリソースに合わせた予算や担当者を決めて管理体制を整えます。特に重要なのは目的を明確化することです。
「取引先に言われたから」
「同業者が環境問題に取り組んでいるから」
上記のような曖昧な考え方では、カーボンオフセットの導入そのものが消極的にならざるを得ません。例えば、次のようなしっかりとした目的を持つことで、自社にとって有効なカーボンオフセット導入の道筋が見えてくるでしょう。
● 企業として温室効果ガス 排出削減に責任をもって取り組み、社会に貢献する
● カーボンオフセットを行うことで企業の環境価値を高めていく
● 商品やサービスにオフセット価値を付与し差別化することで、企業のブランディングを向上する
STEP2:現状のCO2排出量を調査し把握する
カーボンオフセット対象となる自社のCO2排出量を調査し、把握することが必要です。以下の流れで実施します。
1.排出活動の把握
2.算定対象の範囲の決定
3.算定ツール活用でCO2排出量を算出する
CO2排出の算定対象は、製品やサービスの場合にはライフサイクル全体、企業活動においてはサプライチェーンやバリューチェーンまで考慮して具体的に把握し決定することが重要です。
CO2の排出は、エネルギー利用以外にも水の使用や廃棄物の排出・処理などさまざまであり、間接的・直接的に発生します。さらに業種によっては特有の排出活動も存在するため、CO2の算定には専門的な知識が必要です。
以下のようなツールを使用して排出量を算定することがおすすめです。
CO2排出量算定ツール「CARBONIX」
STEP3:CO2排出量の削減を進める
自社のCO2排出量が算定出来たら削減に対する取り組みを進めていきます。カーボンオフセットの対象によって取り組み方は異なるため、以下に排出削減取り組みの例をまとめました。自社取り組みの参考としてください。
● 自社全体のCO2排出量の削減目標となる基準を策定する
● 社内設備に対しての省エネ化やコピー用紙等のリサイクルの実施、リサイクル用品の活用、公共交通機関の利用推進活動等
● 自社や取引先での再生可能エネルギー由来電力の調達と活用
● サプライチェーンやバリューチェーンにおける環境負荷の低減
● 製品のライフサイクル全体から排出されるCO2排出量の削減
● 環境ラベルの取得やライフサイクル手法への取り組み計画
● 環境保護活動の実施
STEP4:CO2排出量を削減できない部分をオフセットする
カーボンオフセットとは、CO2排出削減努力を行ったうえで、できなかった分を埋めあわせ(オフセット)するものです。オフセットするにはクレジット購入が有効です。
クレジットとは、再生可能エネルギーの利用や森林保護活動によるCO2削減・吸収量を「クレジット」として国が認証する制度であり、国内のクレジットは主に次の3つです。
● J-クレジット
J-クレジットは、国が運営している国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度を統合したものになります。J-クレジットの特徴は、経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成など、さまざまな用途に活用できることです。
● Jブルークレジット
藻や水草、マングローブなどの海洋生物や海洋生態系が吸収するCO2のことをブルーカーボンといいます。それらを対象とした制度が「Jブルークレジット」が2020年から国内で開始されジャパンブルーエコノミー技術研究組合が運営しています。
● 地域版Jークレジット制度
各自治体、地方公共団体はJ-クレジット制度に則り、CO2排出削減・吸収量をクレジットとして認証する「地域版J-クレジット制度」を運営できます。地域版J-クレジット制度は、国が認証したJ-クレジットと同様に活用が可能です。
STEP5:情報を公開する
次に自社のカーボンオフセットへの取り組みに対する情報公開を行います。信頼性が高くわかりやすい情報を伝えるために、関連法に遵守した以下の内容の情報提供が必須です。
情報提供項目一覧 | |
全般 | ● カーボンオフセットの対象活動の内容 ● オフセット主体 |
排出量の認識 | ● カーボンオフセットの対象とする活動の範囲 ● 対象活動内の温室効果ガス排出源 ● 算定対象範囲 ● 算定方法(算定式及び算定方法の根拠とした文書) ● 算定排出量 |
排出削減・埋め合わせ | ● 温室効果ガス排出削減の取組内容 ● 温室効果ガス排出削減を促す取組 ● オフセット量又は算定排出量に対するオフセット比率 ● クレジットを認証した認証制度名とクレジットの種類 ● クレジットのプロジェクト名(プロジェクト実施国・実施地域等の属地的情報を含む) ● クレジットのプロジェクトタイプ(風力発電、木質バイオマス燃料転換、森林管理等) ● クレジットの無効化(予定)日・無効化方法 |
その他必要事項 | ● 商品・サービス、又は会議・イベントのチケット等の販売価格 ● 消費者の価格負担(料金への上乗せ)の有無 ● その他支払いに関する事項(申込みの有効期限、不良品のキャンセル対応、販売 ● 数量、引渡し時期、送料、支払い方法、返品期限、返品送料等) ● 販売事業者情報(販売事業者名、運営統括責任者名、連絡先(所在地、電話番号、e-mail)、ウェブサイトリンク先) |
引用:資源エネルギー庁「カーボン・オフセットガイドラインVer.3.0」
カーボンオフセットの方法は5つ
カーボンオフセットには主に次の5つの方法があります。
1.オフセット製品・サービス
2.会議やイベントによるオフセット
3.自己活動オフセット
4.クレジット付製品・サービス
5.寄付型オフセット
それぞれを具体的にご紹介しましょう。
オフセット製品・サービス
製品やサービスの提供者が、製品・サービスのライフサイクルを通じて排出されるCO2排出量をオフセットする取り組み方法です。ライフサイクルとは製品の資源調達から製造、輸送、販売、使用、廃棄からリサイクルまで含めた製品の一生のことです。具体的な事例は以下になります。
・商品の原料から製造、廃棄までのライフサイクル全体のCO2排出量をオフセットする
・名刺や封筒の製造過程の一部で発生したCO2排出量をオフセットする
・食パンや菓子パンの製造にかかるCO2排出量一部をオフセットする
会議やイベントによるオフセット
多くの人が集まるコンサートや大会、会議等の開催に伴って排出されるCO2排出量を、主催者や会議運営者がオフセットする方法で、具体的には以下のようなものがあります。
・会場内で電力を使用した際に排出されるCO2をできるだけオフセットしたコンサートを実施する
・イベント開催で使用する印刷物の製造から廃棄までにかかるCO2排出量をオフセットする
・大規模な国際会議や大会の移動や宿泊にかかる排出をオフセットする
自己活動オフセット
企業が自社の事業活動に伴い排出するCO2の削減をオフセットする方法です。業界によってさまざまですが、以下のような事例が該当します。
・多くの電気を使用する大規模設備のCO2排出をオフセットする
・再生可能エネルギークレジット等を活用し、環境負荷低減の推進を国際イニシアチブに報告する
・建造物建築から引き渡しまで、現場事務所で電気・ガス等の消費するエネルギーから 発生するCO2排出量をオフセットする
クレジット付製品・サービス
オフセットの対象を、製品やサービスを購入する消費者の日常生活から排出されるCO2排出量で設定するのがクレジット付製品・サービスです。製品・サービス提供者、またはイベントの主催者等が、製品・サービスやチケット等にクレジットを付し、CO2排出量を埋め合わせします。
消費者の日常生活から排出されるCO2排出量の目安は、「全国地球温暖化防止活動推進センター」が「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」から提供している「家庭からの二酸化炭素排出量」をもとに決定することが一般的です。また「カーボンオフセット宣言」では、1製品・サービスあたりに付加するクレジット量を 1kgCO2 以上とすることが決められています。
寄付型オフセット
寄付型オフセットとは、製品やサービスを提供する事業者が消費者に対し、地球温暖化防止活動貢献や資金提供等を目的として参加者を募集して、オフセットを実施するもので以下のような取り組みや特徴があります。
● 製品売り上げの一部をクレジット購入にあてる、またはキャンペーンへのアクセス数に応じてクレジットを購入する
● 消費者とコミュニケーションをとりながら多彩な方法が可能
企業でカーボンオフセットを進めるべき理由3つ
企業がカーボンオフセットを進めることには大きなメリットがあります。具体的にメリット内容をご紹介しましょう。
企業イメージの向上が期待できるため
SDGsへの取り組みをはじめとして消費者の環境への関心は高まっています。カーボンオフセットを行うことは脱炭素に積極的に取り組み、環境経営を実施している企業としてイメージ向上となり、消費者の確かな信頼感へとつながります。
消費者や取引先に自社の商品やサービスを選んでもらうきっかけになり得るため
環境意識の高い消費者や取引先企業は、商品やサービスを選択する際に“環境に配慮されているか”を注視しています。近年はフェアトレード商品や自然由来の製品が積極的に購入されるなど、環境に配慮されて製品の重要は高まっています。
カーボンオフセットに取り組み、製品やサービスのオフセット化を行うことは、そのような環境意識の高い消費者に対して大きなアピールになります。
近年中に排出権取引が本格的に始動するため
経済産業省は開かれた審議会で、排出量を削減した分を市場で売買する「排出量取引」を2026年度に本格稼働させる計画です。排出権取引市場は政府の「グリーン成長戦略」の要ともなるため、今後拡大が予測されます。取引市場が本格化する前にカーボンオフセット取引を実施していれば、市場参入がしやすく出遅れることがありません。
まとめ
カーボンオフセットについて意味や方法についてわかりやすく解説しました。脱炭素化推進は世界的な流れであり、国内での取り組みも今後はますます加速するでしょう。企業は取引先からカーボンオフセットを求められても、慌てずに対応できるようカーボンオフセットについての知識を得る必要があります。
本記事を参考にカーボンオフセットを理解して、自社の環境価値を向上させるきっかけとしてください。