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カーボンクレジットの質を保証する基準Gold Standardとは?概要から事例まで解説

基礎知識

Gold Standardとは、企業の持続可能プロジェクト等が環境と社会に良い影響をもたらすかを評価し、その効果を証明するための国際的な基準のひとつです。カーボンクレジット取引においては、クレジットのCO2削減価値の「質」を保証します。

世界的な脱炭素化推進に向けてカーボンクレジット取引は活発化しており、日本においても政府が閣議決定したGX計画において、将来的に排出権取引が導入されることが決定しました。カーボンクレジットに関わる基準について学ぶことは重要です。

今回は、クレジットの質を保証するための評価基準、Gold Standardについて学びましょう。

Gold Standardは、プロジェクトの質を保証する認証基準

それでは早速、Gold Standardについて、概要や策定された背景を解説していきます。

Gold Standardとは

CO2排出量を削減するプロジェクトが最高レベルの環境保全性を備え、なおかつ持続可能な社会構築への貢献を保証するための制度がGold Standardです。WWF とその他の国際 NGO によって2003 年に設立され、スイスのバーゼルに本部があります。

Gold Standardは、京都議定書に基づいた気候変動対策のクリーン開発メカニズム(CDM)と共同実施(JI)が確実に実行され、環境保全上の利益を生み出すための基準として策定されました。当初はCO2排出量削減プロジェクトのみが対象のプラットフォームでしたが、2006年にGS-VER(The Gold Standard Voluntary Emmission Reductions )を策定し、2015年に国連が定めたSDGs目標に対しての評価・認証も行われています。

Gold Standardはボランタリークレジットのひとつ

カーボンクレジットとは、温室効果ガス削減対策を実施する場合、その排出量の見通しに対して実際の排出量が下回った場合、差分をクレジットとして認証し発行するものです。それらの取引はカーボンクレジット取引と呼ばれます。

カーボンクレジット市場には、政府や自治体が主導しているコンプライアンス市場(義務)と、民間組織が主導しているボランタリー市場(任意)があります。ボランタリークレジットは、カーボンクレジットを自由に取引できるため、世界の脱炭素の潮流に乗り、投資家からも注目され投資額が拡大している市場です。Gold Standardは国際的なボランタリークレジットのひとつになります。

Gold Standardのメリット

Gold Standardは、WWFによって開発されたという経緯があるため、国際的な環境NGOから高い支持を受けています。そのため、企業の環境プロジェクトがGold Standardの認証を得ると、社会的信頼感が向上しESG投資家からの資金調達がしやすくなるという点が大きなメリットと言えるでしょう。さらにクレジットの質を保証するという点では、クレジットにプレミアムがつき、より高い価格で販売できるという可能性があります。

Gold Standardの主な認証プログラム6つ

ここからはGold Standardの代表的な認証プログラムを6つご紹介していきます。環境保全及び持続可能な開発の分野とSDGs達成への影響に関わる分野があります。

再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは脱炭素化の時代に最も推進されるべき分野であり、Gold Standardでは、以下の再生可能エネルギーに対して評価・認証を行っています。特に気候の安定しない開発途上国への再生可能エネルギー開発に対してクレジットを発行し、支援を実施しています。

□ 太陽光
□ 太陽熱(電力・熱)
□ 環境的に信頼できるバイオマス・バイオガス ・液体バイオ燃料等
□ 風力発電
□ 地熱発電
□ 小型低インパクト水力発電(15MWを上限として世界ダム会議WCDガイドラインに適合しているもの)

【実際のプロジェクト例】
ベトナムでは化石燃料エネルギーが主に使用されているため、再生可能エネルギー普及のためのプロジェクトに対して支援を実施しました。ダクーポンの川沿いに水力発電所を2つ設置し、推定年間総発電69,100MWhを可能にするとともに、プロジェクトにより地元住民に水力発電所の運営や管理の仕事が生まれました。

地域のエネルギー効率向上

Gold Standardの認定のエネルギー効率化プロジェクトは、地域をベースとした活動で、気候変動の最前線にいる人々に生計を改善し、持続可能な道に沿って発展を支援するもので、対象部門は以下になります。

□ 産業部門
□ 家庭部門
□ 運輸部門
□ 公共部門
□ 農業部門
□ 業務部門のエネルギー効率

【実際のプロジェクト例】
インドの田舎では調理用の薪を集めるため森林を伐採してしまいます。またオープンストーブは大量の煙を排出し、健康に悪影響を及ぼします。これらを解決するための地域のエネルギーソリューションとして、エネルギー効率の高い調理を可能にした SARALA ストーブを提供するプロジェクトが実施され支援しました。

森林・土地利用

CO2を隔離したり回避したりするための土地利用活動は、気候変動に関する目標を達成するためにも重要な要素です。そのためGold Standardは「森林およびその他の陸上生態系の保全と回復」「持続可能な農業と食料システム」のほか、独自のアプローチを採用しさまざまな支援を実施しています。

また環境保全性への懸念から、REDD+プロジェクトに対してカーボンクレジットクレジットを発行していません。

【実際のプロジェクト例】
パナマにおいて、熱帯雨林の大幅な減少を回避するために、荒廃した土地を再植林しながら持続可能な木材生産の支援を実施。森林が増加することで在来の動植物に生息地を提供し、土壌が保護されることで水が浄化され、気候変動の緩和に繋がっています。

水資源管理

水資源プロジェクトが社会経済にプラスの影響を与えることを証明するための要件を策定し、企業が行う水資源プロジェクトをサポートします。Gold Standardが発行する「水利益証明書」は、持続的に供給、浄化、または保存された水資源についての情報の評価が可能です。

【実際のプロジェクト例】
ウガンダ農村部において綺麗な水源の確立と維持、衛生促進を地元の水道サービス事業者と契約し、安全な水を提供するプロジェクト開発実施を支援。60,000人以上の人々の生活を改善し、衛生レベルは、現在の時点で年間 10% 増加しています。

廃棄物管理

プラスチックや金属、紙等の廃棄物が環境を脅かすものではなく、持続可能な経済成長を促進するエネルギー源となる可能性を秘めるものです。Gold Standardは、廃棄物の堆肥化、嫌気性消化、さらには焼却などの革新的なプロセスを支援し、地域のエネルギーの自給自足を実現していきます。さらに、これらの廃棄物の削減は、地球規模のCO2排出量の削減にも寄与が可能です。

【実際のプロジェクト例】
タイのでんぷん工場の排水から発生したメタンガスを回収し、エネルギーに変換。環境の汚染を防ぐとともに、年間数千トンの化石燃料の燃焼による温室効果ガスの排出を削減しました。

ソーシャルインパクト

Gold StandardはSDGsに関連するソーシャルインパクトにおいてもさまざまな支援を行っています。例えばジェンダー問題においては、「ジェンダー対応」フレームワークを開発しており、SDGs 目標に対して以下のような項目を評価し、認証することが可能です。

□ ジェンダー問題への取り組みにおいてリーダーシップを発揮する
□ SDGsの優先事項に対して目に見える貢献をする
□ 投資がもたらした成果について信頼性の高いレポートを作成する
□ ジェンダー問題への高いパフォーマンスを認証することで、より多くの女性と女児がジェンダーギャップを縮めることができるようにする

さらに健康面では、家庭の大気汚染を軽減する介入による健康上の利点を定量化する、この種では初の方法論を開発するなど、あらゆる年齢層のすべての人々の健康的な生活を確保し、幸福を促進する支援を行っています。

【実際のプロジェクト例】
プロジェクトで1,000 時間の無給家事労働の削減に資金を提供し、20 人の女性に新たな永久雇用を確保して SDGの目標に貢献しました。

参照:Gold Standard

企業がGold Standardの認証を受ける流れ

ここからは企業がGold Standardの認証を受けるための流れを詳しく解説します。

STEP1:申請

まずはGold Standardの公式サイトから申請書をダウンロードし、必要情報を記入しましょう。認証を得るためには、通常のプロジェクト・デザイン・ドキュメント(PDD)に加えて、ゴールド・スタンダード・パスポート(Gold Standard Passport)という文書を提出する必要があります。

STEP2:評価

実施するプロジェクトに対して、独立した第三者機関により基準を満たしているかどうか評価されます。CDM の認証・検証に加えて、以下の3つの選定基準を満たす必要があります。

1.プロジェクトの適格性
2.追加性およびベースライン
3.持続可能な開発への貢献
4.ステーク・ホルダー・コンサルテーション

STEP3:認証

基準を満たしていれば認証を取得可能です。認証されたプロジェクトは、Gold Standardの公式サイトにて公表されます。取得した場合の認証期限は5年間になり、以降は再評価が必要となります。実際の認証の取得までにかかる期間は数か月から1年程度です。

まとめ

カーボンクレジットの質を保証するために重要なGold Standardについて解説しました。企業がSDGsやカーボンオフセット等の環境プロジェクトを行うことは、当然の時代を迎えています。産業活動のグローバル化が加速する中、企業に対する環境評価はますます重要になっていくでしょう。

本記事を参考にGold Standardについての知見を深め、ぜひ自社の環境プロジェクト導入へと繋げてください。

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