CSRDとは?企業が知っておくべき適用基準とNFRD/CSDDDの違いを解説

CO2算定

2024年6月、アメリカの大手金融テクノロジー企業の一つであるBloombergは、企業サステナビリティ報告指令、つまりCSRDに基づく情報開示のための新たな金融機関向けのサービスとして、「Bloomberg Terminal」の提供を発表しました。CSRDは、EUが採択したサステナビリティ開示に関する規制となっており、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する情報を報告する手法を規定しています。今回Bloombergが提供する「Bloomberg Terminal」は、CSRDに基づき企業が報告するデータに、金融機関が簡単にアクセスできるようにするためのプラットフォームとなっています。そのため、このサービスにより、金融機関や投資家、資産運用を行う企業は、ESGに関して各社がどのような取り組みを透明性高く取り組もうとしているのか、評価を行うための情報を入手しやすくなることが期待されています。

このように、サステナビリティに関する報告方法に一貫性を持たせ、サステナビリティ情報そのものの信頼性を高める本取り組みは、一見EUを中心に進められているように考えられがちですが、CSRDによる開示対象は、EU内での売上高が大きい場合、EU域外の企業も含まれています。無論、条件を満たす日系企業も対象となってきます。欧州委員会の推計によると、CSRDが適用になる企業は約5万社にのぼると推定されており、EU域外の企業への適用も約1万社を超えるとみられ、そのうち約3000社は米国企業が占めるという結果も報告されています。

そこで本コンテンツでは、CSRDに関する理解を深めるために、CSRDの概要や適用対象となる企業の基準や適用開始時期を確認していきながら、NFRDやCSDDDとの違いについても解説していきます。

CSRDについて

Corporate Sustainability Reporting Directiveの略で、2023年1月にEU域内の大企業および上場企業を対象に発効された、サステナビリティの情報開示に関する指令を表しています。このCSRDの導入は、2021年4月の欧州委員会による欧州Green Deal政策と関係しています。欧州Green Deal政策とは、2050年までに欧州において温室効果ガスの排出を実質ゼロとする気候中立の状態を目指す取り組みとなっており、CSRDは欧州Green Deal政策の一環として欧州委員会によって提案されました。CSRDの目標としては、投資家や顧客、その他ステークホルダーにサステナビリティに関する信頼できるデータを提供し、十分な情報に基づいた意思決定を行うことができる姿を目指しています。そして結果的には、企業の脱炭素化への取り組みを後押しし、欧州全体の気候中立を実現させていくことが狙いです。

従前のEU域内では三章で詳しく紹介する非財務情報開示指令(NFRD)が施行されている状況でした。しかし、この指令における報告対象や開示範囲は限定であったため、より内容の拡充を図り影響範囲を広げるべく、CSRDが新たな指令として発行されました。EUの加盟国においては、2023年1月のCSRDの発効から18か月以内にあたる2024年7月には、国内での法制化が求められています。実際に、CSRDへの違反に対する罰則は、関連する国の法律に基づいて個々の加盟国ごとに決定されています。そのため、報告の対象となる企業は、自国の法制度に準じ、適宜必要な情報収集やデータ開示の準備を進めることが求められています。

具体的な開示基準は、以下の通りです。CSRDでは、EUサステナビリティ開示基準(以降、ESRSと記載)という開示基準を設けており、企業はESRSの基準に沿った情報開示が義務化されています。少しややこしいですが、CSRDはサステナビリティの情報開示に関する制度の枠組みを定めたもの、ESRSは具体的な開示項目や基準を制定したものとなっています。

現在この開示基準は、大きく4項目に分かれており、さらにその中で12の基準に分かれています。今後は、業界によらず適応される横断的な基準とESGの要素ごとに開示項目を規定されたトピック別基準に加えて、セクター別の基準や上場中小企業の基準、第三国企業の基準の追加が予定されています。

 

▷ダブル・マテリアリティとは

開示の基準として、「気候変動が企業に与える影響」だけでなく「企業が気候変動に与える影響」という双方向の影響に着目している点がポイントです。投資家の投資判断の材料として、気候変動が企業に与える影響だけの視点で捉えるのではなく、社会や環境といったより広範囲なステークホルダーにとって有用な情報を開示することが狙いとなっています。

また、ここでいう「ダブル(・マテリアリティ)」は、インパクト・マテリアリティと金融マテリアリティの二つを指しています。インパクト・マテリアリティは、企業活動の中でサステナビリティの関連項目(例:CO2の排出量、労働力の多様性、人権の尊重など)に与える可能性のある影響、またはサステナビリティの関連項目が企業活動に与える可能性のある影響を表しています。一方、金融マテリアリティは、サステナビリティの関連項目が組織の財務(キャッシュ・フロー、リスク、資金へのアクセスなど)に与える可能性のある影響、又は組織の財務がサステナビリティの関連項目に与える可能性のある影響を表しています。

2023年11月には、このESRSを策定しているEFRAG(欧州財務報告諮問グループ)とCDPが、企業のCSRD対応を促進すべく協力する旨の発表がありました。特に、両者はCDPを通じてESRSのデータポイントの報告を行う企業を支援するための情報提供を行うなど、CDPの開示内容と連携してESRSの環境テーマの報告を準備することを推奨しています。これは、既に企業が取り組んでいる情報開示内容とESRSで求められている開示項目が重なる部分もあることを示唆しており、CSRDの報告で扱う膨大で複雑な気候データを効率的に収集するための一助となることが期待されています。

CSRDの適用対象企業および適用開始時期について

まず、CSRDの適用対象企業は主にEU域内の大企業および上場企業となっており、2024年の会計年度から段階的に適用されています。また、第三国企業と呼ばれるEU域外の企業も一部対象となっています。第三国企業が対象となるケースは、以下の2つが挙げられます。

①EU域外の親会社がEU域内における純売上高が2会計年度1億5000万ユーロ以上であり、EU子会社が大企業または上場企業に該当する場合

②EU域外の親会社がEU域内における純売上高が2会計年度1億5000万ユーロ以上であり、EU子会社の純売上高が4000万ユーロを超える場合

但し、第三国企業においては、欧州委員会がCSRDと同等とみなすサステナビリティ報告基準に基づく報告を行い、第三者認証を受けている場合には、EU域内での子会社と支店によるCSRD報告を免除することができるとされています。

このような適用対象範囲が定められた結果、NFRDでは約1.1万社が報告対象の企業となっていましたが、CSRDではそれが約5万社に拡大されることになることが欧州委員会の発表により明らかとなっています。日本企業も、EU域内に大企業に該当する子会社があった場合は2025年の会計年度から、第三国企業に該当する場合は2028年以降の会計年度から対象となります。そのため、まずは自社のEU域内の子会社がCSRDに該当するか否か、また該当する場合は適用が開始する年度を確認する必要があります。

次に、CSRDの適用開始時期は、以下の通りです。

▷会計年度:2024年 / 報告年度2025年
-約11,000社が対象
・既にNFRDへの準拠が義務付けられている組織
・EUが規制する市場に上場している、従業員が500名以上のすべての組織

▷会計年度:2026年 / 報告年度2027年
・EUが規制する市場に上場している中小企業(SME)

▷会計年度:2028年 / 報告年度2029年
・EU域内での純売上高が1億5,000万ユーロ超のEU域外企業(第三国企業)で、
1. EU子会社が大企業
2. EU子会社が上場企業(零細企業を除く)
3. EU域内の支店がEU域内で純売上4,000万ユーロ超
のいずれかに該当する子会社や支店が1つ以上ある親会社

NFRDやCSDDDとの違いについて

CSRDは、NFRDよりも情報の開示項目や対象企業が拡大しており、また第三者認証による保証も義務化されるなど、情報における信頼性の高さが大きな特徴の一つです。例えば、従前のNFRDでは統一された開示基準がなく、企業が国際的な規準から任意で選択することができる状況でした。しかし、CSRDでは二章でも紹介したように、ESRSに適合した開示が義務化されてます。また、これまで任意だった第三者認証についても、いわゆるグリーンウォッシュを防ぐために義務化することで、まずは限定的保証を求め、段階的に保証レベルを高めるよう定められています。

▷開示項目

・NFRD:
● 環境問題
● 社会問題と従業員の待遇
● 人権の尊重
● 汚職と贈収賄防止
● 取締役の多様性に関する方針、目的、実施方法、結果

・CSRD:
● 企業がサステナビリティ事項に与える、又はサステナビリティ事項が企業に与える影響
● 無形資産に関する情報や開示した情報を特定するプロセス

▷開示基準

・NFRD:
● 任意のガイドライン(特定の基準の利用は義務づけられておらず、国際基準等から自由に選択が可能)

・CSRD:
● ESRSに規定(本基準に基づく開示が義務)

▷対象企業

・NFRD:
● 約1.1万社

・CSRD:
● 約5万社

▷第三者保証

・NFRD:
● 任意

・CSRD:
● 限定的保証から、監査人、認証機関による段階的な保証の義務化

一方CSDDDとは、Corporate Sustainability Due Diligence Directiveの略で、2024年4月、欧州議会において採択されたコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令を表しています。具体的には、EU域内の大企業を対象に、自社の活動が人権や環境に及ぼす悪影響をデューデリジェンス(特定・予防・緩和)することを義務付けるものとなっています。

▷対象企業

・CSDDD:
● EU企業:従業員数平均1,000 人超、かつ、直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高4億5,000 万ユーロ超
EU域外企業(第三国企業):EU域内での年間純売上高4億5,000 万ユーロ超

● EU企業:連結財務諸表を採用した、または、採用すべきであった直近事業年度に、連結ベースで上記(従業員数平均1,000人超、かつ、直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高4億5,000万ユーロ超)の閾値を満たす企業グループの最終親会社
EU域外企業(第三国企業):直近事業年度の前の事業年度において、連結ベースで上記(EU域内での年間純売上高4億5,000 万ユーロ超)の閾値を満たす企業グループの最終親会社

上記のいずれかの要件を2年連続で満たすことが必須条件

▷適用開始時期

・CSDDD:
•EU企適用対象の企業の規模に応じて、3年後から順次適用が開始

また、CSDDDの対象企業には、以下の6つの内容が義務化されています。
1. デューデリジェンスに関する方針とリスク管理体制の構築
2. 現実的・潜在的な負の影響の特定と評価
3. 潜在的な負の影響の防止、現実的な負の影響の停止・最小化
4. 苦情処理メカニズムの構築・運用
5. デューデリジェンスの方針および各措置の有効性についてのモニタリング
6. デューデリジェンスの結果の公表

このように、CSDDDは6つの項目を通して、人権や環境に対する悪影響への軽減の取り組みを義務化する一方で、CSRDはあくまでも報告用のフレームワークであり、情報開示の義務化と開示する情報の透明性の担保を求めている点が異なります。また、CSDDDとCSRDは補完関係にあるものとして捉えられています。具体的には、一章で紹介したCSRDのESRS1では、バリューチェーン全体でのデューデリジェンスを重要視していますが、詳細なガイダンスが欠けているため、CSDDDの指針や方法論で内容の一部を補っているとされています。

まとめ

本コンテンツでは、CSRDの制度概要や開示基準、情報の報告対象となる企業の条件や制度の適用開始時期を確認していきながら、NFRDやCSDDDとの違いについても解説してきました。

今回取り上げたCSRDの報告義務を果たすうえで、企業が直面するであろう大きな問題の一つは、膨大で複雑な気候データを、いかに情報の質を保ちながら正しくレポートしていくかにあるでしょう。実際にCSRDは、Scope3の排出量の報告を義務付けているだけでなく、すべてのサステナビリティ情報に対しても第三者保証認証を義務化しています。これらをクリアするためにも、情報開示に際し使用する気候データの信頼性やトレーサビリティ、透明性をしっかりと担保していく必要があります。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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