「地球沸騰化」により世界的な異常気象と気候変動に伴う健康被害の現状
「0.74」と「1.30」。
この数字がそれぞれ何を示すか、皆様お分かりになりますでしょうか。
前者は、過去100年あたりで上昇した世界の年平均気温(2023年現在)を、後者もまた、過去100年あたりで上昇した日本の年平均気温(2023年現在)を示しています。地球の温暖化とは騒がれていても、意外と1℃くらいしか上がっていないのだな、と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、このわずか1℃と思われる気温上昇も、世界全体、ないしは日本全体で考えると、非常に深刻な問題となってきます。過去には、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)における「1.5℃特別報告書(*1)」(第3、4、5章)の中では、以下のような報告もあがっています。
(*1)1.5℃の気温上昇に着目して、2℃の気温上昇との影響の違いや、気温上昇を1.5℃に抑えるための道筋等について取りまとめたIPCCの特別報告書(2018年10月IPCC第48回総会にて承認・受諾)。
そのような中、昨今では「地球沸騰化」という言葉がささやかれるようになってきました。地球温暖化を超え、何故「地球沸騰化」という言葉が出てきたのでしょうか。
本コンテンツでは、「地球沸騰化」の起源とその概要を理解し、事業者が今後取り組むべきアクションを具体的にイメージしていただく機会となれば幸いです。
地球沸騰化とは
2023年7月27日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ニューヨークの国連本部での記者会見において「地球沸騰化の時代が到来した」と発言しました。この会見の同日、世界気象機関(WMO)と欧州委員会の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が、同年7月が人類史上最も暑い月となることを裏付ける公式データを発表したことがきっかけです。
@https://www.ncei.noaa.gov/access/monitoring/ghcn-gridded-products/#global-maps-select
会見の中で、グテーレス事務総長は、各国の指導者たちに向けて3つのキーワードを元に、強いメッセ―ジを発信しています。
①「排出量削減」…G20加盟国からの新しい野心的な温室効果ガス削減目標の提出や、先進国は2035年まで、その他の国は2040年までの電力セクターのネットゼロ(*2)達成を求めています。
②「適応」…先進国は、気候変動対策の資金の少なくとも半分を適応(*3)に充てるための第一歩として、2025年までに適応資金を倍増させるための明確で信頼できるロードマップを提示するよう求めました。
③「金融」…先進国が、気候変動対策支援のために途上国に年間1000億ドルを提供し、緑の気候基金を全額補充するという約束を遵守することや、炭素価格を設定し、世界銀行やアジア開発銀行などといった国際開発金融機関にビジネスモデルとリスクへのアプローチを徹底的に見直すよう促しています。
(*2)ネットゼロ…温室効果ガスの排出と除去のバランスが取れた状態を指します。国際エネルギー機関の「2050年までのネットゼロ」報告書は、日本を含むすべての先進国が2030年までに電力セクターを完全に脱炭素化するべきだとしています。
(*3)適応…気候変化に対して自然生態系や社会・経済システムを調整することにより気候変動の悪影響を軽減する(または気候変動の好影響を増長させる)ことを表しています。気候変動対策における「緩和」と「適応」の違いは、以下の通りです。
出典:国立研究開発法人 国立環境研究所
©https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/index.html
このように、地球沸騰化のスピードを少しでも和らげ、化石燃料から再生可能エネルギーへの迅速な移行に向けた様々な取り組みが、世界各国のリーダー達だけではなく、企業や自治体、地域、そして私たち一人一人の日々の行動に求められています。
地球沸騰化がもたらす被害について
「温暖化」よりもさらに急激な気温上昇を想起させる「沸騰化」ですが、2023年を振り返ってもやはり国内外で多くの自然災害が起こっています。グテーレス事務総長が地球沸騰化に言及した7月までの7か月間だけでも、ほぼ毎月のように、世界のいずれかの地域では温暖化による自然災害が生じた状況が伺えます。
>1月:南スーダン 歴史的洪水被害で47,700平方キロメートルが浸水
> 1月-2月:チリ 10年続く「メガ干ばつ」により広がる火災
> 2月-3月:南東アフリカを襲ったサイクロンが1,000人の命を奪う
> 4月:インド・バングラデシュ・タイ 「アジア史上最悪」の熱波
> 5月:少数民族ロヒンギャの人々を襲ったサイクロン・モカ
> 5月:イタリア 1日半の間に降った6カ月相当の大雨
> 5月:ルワンダ 災害死者数が史上最多となった洪水
> 6月:日本 台風2号で49名が死傷
> 7月:カナダの森林火災900万ヘクタールが焼失
> 7月:島根県、九州北部、秋田県で記録的大雨
出典:「【2023年の異常気象】数字と写真で見る、上半期に世界を襲った洪水・干ばつ・猛暑・森林火災」より一部抜粋
@https://www.env.go.jp/content/900442437.pdf
また、気候変動に伴う健康被害が増えてきている現状もあります。
昨今、猛烈な熱波による死亡が増えてきている中、Lancet Countdown(気候変動による健康への影響を分析する国際共同プロジェクト)の2022年のレポートによると、65歳以上の人口の熱関連死亡は2000-2004年と、2007-2021年の間で比較すると、約68%増加したと報告されています。
加えて、WHOの研究においても、世界で36億人が気候変動の影響を受けやすい地域に住み、2030-2050年の間に、気候変動関連死(気候変動に伴う栄養失調、マラリア、下痢、熱中症等)により死亡者が約25万人に上る試算も報告されています。
このような健康被害は、日本でも同様の報告として上がってきている状況です。国内においても2023年の夏、連日のように熱中症警戒アラートが発表されていたことが皆様のご記憶にも新しいのではないでしょうか。実際に熱中症による死亡者数は総じて増えており、2017-2021年の5年間の平均死亡者数は1134人で、20年前と比べ5倍近くまで増加していると言われております。
© https://www.env.go.jp/press/110903/mat01.pdf
民間企業が取り組む”気候変動適応”について
このような環境被害や健康被害を受け、企業側にも様々な取り組みが求められます。皆様もイメージしやすい取り組みの一つとしては、温室効果ガスを排出しない環境に優しい再生可能エネルギーへの切り替えが挙げられるのではないでしょうか。再生可能エネルギーに関する詳細につきましては、『【2024年版速報】 日本における発電の割合は?再エネ発電の現状とあわせて解説』でもまとめておりますので併せてご参照ください。
ここでは、1章でも少し触れました”適応”という対策にフォーカスし、環境省から発出されている『民間企業の気候変動適応ガイドー気候リスクに備え、勝ち残るためにー』の内容について、一部ご紹介いたします。
同ガイドの中で気候変動適応は、持続可能な企業となるための経営戦略と位置付けられており、気候関連リスクによる以下のような財務的な影響と、適応策が述べられています。ここでは、4つのベネフィットに応じた各企業による事例も記載がありますので、自社が目指したいベネフィットの先駆け事例等、ご参考いただけますと幸いです。
上記4データ、いずれも『民間企業の気候変動適応ガイドー気候リスクに備え、勝ち残るためにー(環境省)』より抜粋
@https://www.env.go.jp/content/900442437.pdf
まとめ
温暖化対策の国際的な枠組みとされている「パリ協定」にて定められている目標を達成する上では、産業革命からの気温上昇を1.5℃に抑える必要があります。しかし、2023年9月の国連環境計画(UNEP)において、現状報告として1.8℃という数値が発表されています。加えて今世紀末には、この気温上昇の値は2.5-2.9℃にまで達する可能性が高いとも言われており、更なるCO2排出削減の取り組みの強化が求められてきます。そのため、繰り返しとなりますが地球沸騰化のスピードを少しでも和らげるためには、世界各国のリーダー達だけではなく、企業や自治体、地域、そして私たち一人一人の日々の行動を変えていくことが必要です。
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