LEAPアプローチとは? 持続可能な成長を支える革新的な方法論を徹底解説

気候変動や生物多様性の損失といった環境課題が深刻化する中、企業や金融機関には、自然との関係性を定量的かつ戦略的に把握し、持続可能な意思決定へと結びつける取り組みが求められています。こうした背景のもと、注目を集めているのがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が提唱するLEAPアプローチです。
LEAPは、Locate(特定)・Evaluate(評価)・Assess(査定)・Prepare(準備)という4つのステップから構成され、企業のバリューチェーン全体における自然資本への依存と影響を見える化し、リスクと機会を包括的に分析・開示するためのフレームワークです。
本コンテンツでは、LEAPアプローチの意義と活用方法、他の環境アセスメント手法との違い、国内外での具体的事例を紹介しながら、企業のサステナビリティ戦略にどのように貢献するのかをわかりやすく解説します。自然と調和した経営の第一歩を、このアプローチから始めてみませんか?
目次
LEAPアプローチとは?
TNFDは「自然関連財務情報開示タスクフォース」として、企業や金融機関の自然資本への影響と依存度を評価・開示するためのフレームワークを提供しています。その中核となるのが、自然関連リスクと機会を体系的に評価するためのLEAPアプローチです。LEAPは、Locate(特定)、Evaluate(評価)、Assess(査定)、Prepare(準備)の4つのフェーズの頭文字を取ったものです。
なぜ今、LEAPアプローチが重要なのか
企業活動と自然資本の関係が注目を集める背景には、以下のような要因があります
生物多様性の損失加速
自然資本の劣化が加速する中、企業活動が自然環境に与える影響の把握と管理が急務となっています。LEAPアプローチは、この課題に対する体系的な評価・管理の枠組みを提供します。
投資家からの要請
ESG投資の拡大に伴い、自然資本リスクに関する情報開示の要求が高まっています。LEAPアプローチは、投資家の意思決定に必要な情報を体系的に提供する手法として注目されています。
規制強化の動き
世界各国で自然資本関連の規制強化が進む中、企業には自然環境への影響評価と対応が求められています。LEAPアプローチは、こうした規制要件への対応を支援します。
従来のアプローチとの違い
LEAPアプローチには、従来の環境アセスメントと比較して以下のような特徴があります
包括的な視点
– 従来手法:個別の環境影響評価が中心
– LEAPアプローチ:依存度と影響の双方を評価し、リスクと機会を包括的に分析
ステークホルダーの考慮
– 従来手法:直接的な環境影響に焦点
– LEAPアプローチ:バリューチェーン全体を通じた影響とステークホルダーの期待を考慮
戦略的アプローチ
– 従来手法:コンプライアンス重視
– LEAPアプローチ:事業戦略との統合を重視
このように、LEAPアプローチは自然資本に関するリスクと機会を戦略的に評価・管理するための新しい枠組みを提供します。次章では、LEAPアプローチを構成する4つのフェーズについて、より詳細に解説していきます。
LEAPアプローチとは、「環境・社会・経済の持続可能性を目指す包括的なフレームワーク」であり、特に気候変動、資源管理、持続可能な開発に関連する意思決定を支援するために設計されています。
LEAPアプローチの特徴と構成要素
特徴
- シナリオベースの分析
将来のエネルギー需要や環境影響を予測し、複数のシナリオを比較検討します。 - 多分野の統合
エネルギー、環境、経済、社会の要素を包括的に考慮するため、バランスの取れた政策立案が可能です。 - 柔軟性のある適用範囲
地域、国、グローバル規模での活用が可能。特に政策評価や企業戦略策定に適しています。
構成要素
LEAPアプローチは、以下の4つのステップで構成されます
LEAPアプローチでは、スコーピングを経て、
- Locate(発見する)
- Evaluate(診断する)
- Assess(評価する)
- Prepare(準備する)
のステップを踏み、TNFD情報開示に向けた準備を行います。次の章では、手順の詳細まで説明していきます。
LEAPアプローチの手順
スコーピング
仮説立案
- 組織の自然関連の依存関係、インパクト、リスク、機会について、素早い予備調査を行う
- セクター、活動、バリューチェーン、地域などの観点から重要な領域を特定
- ただし、この段階で詳細な調査やデータ収集に時間をかけすぎないことが重要
目標・リソースの調整
- LEAPプロジェクトチームと経営層との間で明確な合意形成を行う
- 必要な人材、予算、データなどのリソース要件を特定
- タイムラインや期待される成果について共通認識を持つ
このフェーズは、本格的なLEAP評価に入る前の準備段階として位置づけられ、効率的かつ効果的な実施のための土台作りを行います。
Locate
Locateフェーズは、組織の自然関連課題を特定・優先順位付けするため、セクター、バリューチェーン、地理的位置という3つのフィルターを用います。特に自然との関係性は場所に大きく依存するため、立地特性の分析が重視されます。
L1 ビジネスモデルとバリューチェーンの範囲 | 発見する(Locate) 自然との接点 セクター別およびバリューチェーン別の自社組織の活動は何か。直接的操業している拠点はどこか。 |
L2 依存とインパクトのスクリーニング | これらのセクター、バリューチェーン、直接的操業のうち、自然への依存やインパクトが中程度または高い可能性のあるものはどれか 。 |
L3 自然との接点 | 中程度または高い依存とインパクトを持つ可能性のあるセクター、バリューチェーン、直接的操業はどこにあるか。 直接的操業や、依存が中程度でインパクトの大きいバリューチェーンやセクターは、どの生物群系や特定の生態系と接点を持っているか。 |
L4 インパクトを受けやすい 地域との接点 | バリューチェーンやセクターにおいて、依存やインパクトが中程度または高い組織の活動のうち、生態学的に影響を受けやすい場所はどれか。 また、直接的操業のうち、どの拠点が生態学的に影響を受けやすい場所にあるか。 |
このプロセスを通じて、組織は自然への依存度や影響度を評価し、生態学的に脆弱な地域を特定します。さらに、ビジネスモデル全体における自然との接点を定量的に把握することで、効果的な対応策を検討するための基盤を構築します。
使用するデータについて
一次データ優先の原則について
データ分析においては、直接測定によって得られた一次データを優先的に使用することが望ましいとされています。これには実際の測定値や現場レベルのデータ、また企業の内部データやサプライヤー、顧客から直接収集したデータなどが含まれます。一次データは最も信頼性が高く、分析の正確性を確保する上で重要な役割を果たします。
二次データの位置づけについて
二次データは、一次データの収集が困難な場合や分析の初期段階における過渡的な手段として位置づけられています。これには公表された文献やデータベースなどが含まれます。ただし、二次データの使用は暫定的なものとし、最終的には一次データへの移行を目指すべきとされています。
二次データ利用の評価基準について
二次データを使用する場合は、5つの重要な基準に基づいて評価する必要があります。具体的には、対象に特化した具体性、科学的な測定可能性、信頼性の高いソースを採用する野心性、データの限界を理解した現実性、そして適切な期間のデータを定期的に更新する時間的妥当性が求められます。
継続的な改善について
データの質と信頼性を確保するためには、継続的な改善が不可欠です。これには、データの精度を段階的に向上させること、トレーサビリティを確保すること、そして定期的な見直しと更新を行うことが含まれます。このプロセスを通じて、より正確で信頼性の高い分析結果を得ることが可能となります。
LEAPアプローチの具体的な活用事例
事例1:エネルギー政策の策定
LEAPアプローチは、エネルギー需要予測や再生可能エネルギー導入シナリオの評価に用いられています。例えば、アフリカ諸国では、再生可能エネルギーの普及と経済発展の両立を図るための政策立案に活用されています。
事例2:排出削減目標の達成
企業や政府が、カーボンニュートラルを目指す計画を立てる際にLEAPアプローチを利用。排出削減量やコストをシナリオ別に比較することで、最適な削減戦略を導き出しています。
事例3:都市計画
都市部でのエネルギー需要管理や交通システムの改善に役立てられています。例えば、スマートシティ構築プロジェクトでは、LEAPアプローチを通じて環境負荷の低減と住民の生活向上を両立しています。
LEAPアプローチのメリットと課題
メリット
- 長期的視野での意思決定
将来を見据えた計画が可能になるため、持続可能な開発を推進できます。 - 多様なシナリオ分析
現状だけでなく、未来の選択肢を可視化できるため、柔軟な対応が可能です。 - 統合的な視点
環境、経済、社会のバランスを考慮した計画策定が可能です。
課題
- データの精度
シナリオ分析には高品質なデータが必要であり、データ収集と精度管理が課題となります。 - 実行力の確保
長期的な計画を実現するには、政府や企業、地域社会の協力が不可欠です。 - コストとリソースの制約
モデリングや分析には専門知識やリソースが必要で、導入にハードルがあります。
日本企業におけるLEAPアプローチの取り組み
三井物産の森
LEAPアプローチの主な分析項目
Locate
自然との接点の発見
- 全75山林の中で、ユニークな森林管理を実施している北海道/石井山林を選択
Evaluate
依存/インパクトの診断
1. 自然の状態
- 生物多様性評価
- 森林管理による生物多様性へのインパクト
2. 生態系サービス
- 炭素貯留効果
- 水源涵養効果
- 土壌流出抑制効果
Assess
重要なリスク/機会の評価
石井山林を含む、社有林における機会側面
- 生物多様性
- 土壌流出
- 水源涵養
- 炭素固定/流出抑制
Prepare
開示/報告に向けた準備
石井山林及び社有林における取り組み実績例
三井物産株式会社:「三井物産の森」におけるLEAPアプローチ
https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/environment/natural_capital/biodiversity/leap/index.html
LEAPアプローチの未来と展望
LEAPアプローチは、気候変動や持続可能な開発といった現代の課題に対応するための重要な方法論です。今後、以下の点でさらなる発展が期待されます
- デジタル技術との融合
AIやIoTを活用し、リアルタイムのデータを基にした高度なシナリオ分析が可能に。 - グローバルな普及
発展途上国や新興国での活用が進むことで、世界全体での持続可能な発展が加速。 - 多分野への応用
エネルギーだけでなく、農業、交通、都市計画といった他の分野への応用が拡大。
まとめ:LEAPアプローチが描く持続可能な未来
LEAPアプローチは、長期的な視野で持続可能な社会の実現を目指す包括的なフレームワークです。エネルギー政策、都市計画、気候変動対策など、多岐にわたる分野で活用されており、未来の課題に対応する重要な手段として注目されています。
データの精度向上やデジタル技術の活用によって、さらに実効性の高いアプローチへと進化することが期待されます。LEAPアプローチを通じて、持続可能な未来を実現する道筋が描かれるでしょう。

