岡山県のカーボンニュートラル戦略|企業の脱炭素取り組み事例

このシリーズでは、実際に日本各地で企業により行われている脱炭素やカーボンニュートラルに関連する取り組みを取り上げ、地域に即したカーボンニュートラルを目指す活動についてお伝えしています。今回取り上げる都道府県は、積極的な太陽光発電に関する取り組みが見られる、晴れの国として有名な岡山県です。
「ゼロカーボンシティ岡山」の実現に向けて、岡山市は現状と課題をふまえ、基盤となる2つの項目と柱となる4つの項目を課題解決に必要な取り組みと捉えて活動を展開しています。
▶基盤となる項目
市⺠・事業者の⾏動変容の促進 |
市の率先⾏動 |
▶柱となる項目
再生可能エネルギーの導入促進 |
省エネルギーの推進 |
スマートムーブの推進 |
地域連携の推進 |
そこで本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みへの理解を深めるために、まずは、岡山県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について確認していきます。その後、県庁所在である岡山市が目指すべき姿や排出削減における目標値をお伝えし、最後に県内における取り組みの実態について順を追って解説していきます。
(本シリーズは、各自治体や行政機関から公表されている情報、並びにライターによるインタビューを元に作成しております。)
岡山県の温室効果ガスの排出状況と排出構造、今後の方向性について
地球温暖化対策を進めるにあたり、岡山県ではまず、地球温暖化対策を実施しなかった場合に2030年度において県内でどの程度の温室効果ガスの排出量が見込まれるのかを推計しています。「岡山県地球温暖化対策実行計画(2023(令和5)年3月 改定)」の中で公表されているデータによると、推計の結果では、2030年度の温室効果ガス排出量は4,902万トン(CO2換算)と なり、基準年度である2013年度に対して6.0%減少する見通しとなっています。加えて、その経過となる2019年度の温室効果ガスの排出量は4,228万トン(CO2換算)であり、既に2013年度比で19.0%の減少が見られている状況です。これは全国的な温室効果ガス排出量の経年変化に比べ大きな数字となっており、同期間における全国的な温室効果ガス排出量の減少比は-14.0%となっています。因みに、県内の温室効果ガス排出量の96.6%を占めるCO2についても、2013年度から2019年度にかけて19.9%減少しています。
そこで、これらの温室効果ガス排出量の減少要因を①産業部門(製造業)、②家庭部門、③業務部門、④運輸部門(自動車)の4つの切り口から見たところ、いずれもエネルギー消費原単位要因が最も大きな要因として挙げられています。以下には、主要4部門における、増減要因の上位4つをお示ししています。
(単位:千t-CO2)
増減要因 1位 | 増減要因 2位 | 増減要因 3位 | 増減要因 4位 | |
①産業部門 (製造業) | エネルギー消費原単位 (-5,569) | 経済活動 (-1,879) | CO2 排出原単位 (-1,171) | 付加価値 (+1,973) |
②家庭部門 | エネルギー 消費原単位 (-861) | CO2 排出原単位 (-687) | 気候 (-338) | 世帯当たり人員 (-268) |
③業務部門 | エネルギー 消費原単位 (-627) | CO2 排出原単位 (-466) | 生産性 (3) | 業務床面積 (22) |
④運輸部門 (自動車) | エネルギー 消費原単位 (-337) | CO2 排出原単位 (5) | 走行距離 (137) | ― |
岡山県地球温暖化対策実行計画(第4章 岡山県の温室効果ガスの排出量等の将来推計と現況)をもとに、筆者作成。
このように、エネルギー消費原単位、すなわち省エネを目指した事業者による取り組み(産業部門、業務部門)や省エネ家電の普及(家庭部門)、燃費の向上(運輸部門)が大きな起因となり、県全体の温室効果ガスの排出量は減少しています。
また、県内におけるエネルギーの排出構造を見てみると、2019年度のエネルギー消費量を部門別にみると産業部門が全体の6割を超えており(62.7%)、次いでエネルギー転換部門(14.3%)、運輸部門(13.2%)、業務部門(5.3%)、家庭部門(4.5%)の順となっています。 これらのエネルギー消費量のうち、電力の割合は約15%前後を推移しています。
岡山県HP:岡山県地球温暖化対策実行計画
© https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/971862_9357842_misc.pdf
その上で今後の方向性としては、2050年のカーボンニュートラルを目指して、岡山県の温室効果ガス排出量の削減目標は以下のように定められています。
中期目標 2030(令和 12)年度:2013(平成 25)年度比 39.3%削減
長期目標 2050(令和 32)年 :カーボンニュートラル
岡山県HP:岡山県地球温暖化対策実行計画
© https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/971862_9357842_misc.pdf
岡山市が目指すべき姿や排出削減における目標値について
県の中心都市である岡山市では、カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、以下のような取り組みに参画してきました。
日時 | 取り組み | 概要 |
2017年5月 | 国民運動「COOL CHOICE」に賛同 | 省エネ・低炭素型の製品・サービス・行動など温暖化対策に資するあらゆる「賢い選択」を促す国民運動「COOL CHOICE」に賛同することを宣言。 |
2020年7月 | 「世界首長誓約/日本」に署名 | パリ協定に地域から貢献すると共に、持続可能でレジリエントな地域づくりを目指すことを首長が誓約するもの。岡山市は国内24番目の誓約自治体となる。 |
2021年2月 | 岡山連携中枢都市圏(※1)による共同宣言(CO2排出実質ゼロを目指す取組を実施) | 啓発事業や好取り組み事例の共有、再生可能エネルギー推進の検討などに加え各市町による独自の取り組み等、2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す取り組みを行うことを共同で宣言。 |
2021年7月 | 「再エネ100宣言 RE Action(※2)」に参加、アンバサダーに就任 | アンバサダーとして、以下の活動を実施。 (1)再エネ100宣言RE Actionへの賛同支援の表明 (2) 管轄地域内団体等への参加推奨・PR等 (3) 自らの再エネ100%化宣言へ向けた検討 |
その上で、岡山市の目指す温室効果ガスの削減目標は、以下の通りです。この値は、2021年4月に国が掲げた新たな温室効果ガスの削減目標を反映し、同年6月に岡山市により⾒直しが⾏われた目標値となります。
▶岡山市の温室効果ガス削減目標
2013年度(基準年度)の岡山市の温室効果ガス総排出量に対し、
- 短期目標(2020年度目標):9.7%削減
- 中期目標(2025年度目標):27.9%削減
(2030年度目標):46.0%削減 - 長期目標(2050年度目標):実質排出量ゼロ
このように、岡山市の温室効果ガスの排出構成は国の排出構成と類似しており、また国の目標と同様に、2030年度に2013年度⽐で46%以上の削減、2050年度に実質排出量ゼロの目標を掲げています。
(※1)岡山市、津山市、玉野市、総社市、備前市、瀬戸内市、赤磐市、真庭市、和気町、早島町、久米南町、美咲町、吉備中央町の13市町で構成されています。
(※2)企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する枠組み。2019年10月に設立され、参加に際し複数の要件が設けられています。
県内における取り組みの実態について
岡山県独自の取り組みとして、「水島コンビナート発展推進協議会カーボンニュートラルネットワーク会議」や「地域脱炭素創生・岡山コンソーシアム」は、企業や事業者自身も携わる形で活動が展開されています。
例えば、「水島コンビナート発展推進協議会カーボンニュートラルネットワーク会議」は、水島コンビナートのカーボンニュートラルの取り組みを推進することを目的として2022年11月に設立されており、これまでに計6回、関連する会議が開催されています。水島コンビナート発展推進協議会カーボンニュートラルネットワーク会議に参加している企業や団体は以下の通りとなっており、カーボンニュートラルに関する情報共有と課題解決、またその他目的の達成のため必要な事項を検討しています。
旭化成(株)製造統括本部水島製造所
岩谷瓦斯(株)西日本事業部水島工場
ENEOS(株)水島製油所
(株)クラレ倉敷事業所
JFEスチール(株)西日本製鉄所
中国電力(株)水島発電所
日本ゼオン(株) 水島工場
水島ガス(株)
三菱ガス化学(株)水島工場
三菱ケミカル(株) 岡山事業所
三菱自動車工業(株)水島製作所
(株)日本政策投資銀行
(株)中国銀行
(株)トマト銀行
国立大学法人岡山大学
化学工学会地域連携カーボンニュートラル推進委員会
国土交通省中国地方整備局
岡山県
倉敷市
経済産業省中国経済産業局(オブザーバー)
(一社)中国経済連合会(オブザーバー)
岡山県HP:水島コンビナート発展推進協議会カーボンニュートラルネットワーク会議についてより引用
また、産学官金として取り組みが進められている「地域脱炭素創生・岡山コンソーシアム」においても、岡山大学や地場の金融機関が参加することで、その先でサポートを待つ企業や事業者に向けた活動が検討されています。事務局機関である中国四国地方環境事務所(環境省)のご担当者にインタビューを実施したところ、具体的な活動の枠組みは今後固まっていく予定とのことですが、既に岡山大学にて展開された活動をご紹介いただいております。こちらは、株式会社ホリグチ(※3)との連携によって実現した、企業のCO2排出量可視化に取り組むワークショップとなります。このワークショップでは、実際に学生たちが製造現場を確認したうえで必要となるデータを収集し、同社製品の原材料調達から廃棄・リサイクルまでのCO2総排出量を示すカーボンフットプリント(CFP)の算定を行う予定となっています。
このように、岡山県の中では様々な角度から地球温暖化、並びに脱炭素に関する取り組みが展開されており、2050年のカーボンニュートラルを目指して、温室効果ガス排出量の削減を目指しています。
- 取組事例の紹介
(岡山大学HP:本学学生が企業と製品のCO2排出量可視化にチャレンジする取り組みを開始)
URL:https://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id12264.html
(※3)岡山県商工会連合会の会員企業。
まとめ
本コンテンツでは、地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する施策、またそこで展開されている企業の取り組みへの理解を深めるために、県全体⇒市全体⇒企業単位の順に、カーボンニュートラルに対するそれぞれの立場からのかかわり方について、具体的な目標や取り組み事例をもとにお伝えしてきました。
次回は、埼玉県に関する地方都市の脱炭素やカーボンニュートラルに関する取り組み、またそこで展開されている企業の具体的な取り組みを紹介していく予定です。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

