2024年夏の電力は足りている? 資源エネルギー庁による見通しと対策内容
東日本大震災以降、原子力発電所の停止により日本全体の発電量が大幅に下がったこと等を受け、電力の需要が高まる夏と冬の前に電力需給の検証が実施されるようになりました。
これは、発電所などの供給力に対し、厳しい暑さ・寒さを想定した場合の需要量とのバランスを見るものです。
今年度は5月22日に需給の見通しが評価され、先日6月3日に資源エネルギー庁によってその確認と対策が検討されました。
今回は、その内容をご紹介します。
目次
今夏の電力需給の見通し
電力需給は、“厳気象H1需要に対する最小予備率”という数値で評価されます。これは、10年に一度の猛暑などが発生した場合の電力需要を想定しても、安定した電力供給が行える必要最低限な予備電力率のことです。
この予備率は、最低限3%以上が確保できていることが目標とされていますが、2024年度夏季(7~8月)は全エリアで目標値の3%を+1%以上も上回っているため、見通しは良好であると言えるでしょう。
参考までに、過去9年の予備率見通しを見ると、エリアによっては目標値である3%代ギリギリの予備率(黄色字部分)が見受けられます。2016~2021年頃にニュースなどで積極的な省エネや節電の呼びかけがされていたのは記憶に新しいですが、その当時と比べると、とりわけひっ迫した状況ではないことが分かります。
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年度 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | ||
7月 | 8月 | 7月 | 8月 | |||||||||
北海道 | 8.7% | 20.2% | 14.7% | 17.6% | 4.7% | 9.7% | 23.9% | 12.5% | 5.2% | 7.6% | 4.4% | 9.7% |
東北 | 5.5% | 7.3% | 11.5% | 3.8% | 6.4% | 3.8% | 4.4% | 7.9% | 9.4% | |||
東京 | 11.0% | 8.1% | 3.5% | 3.1% | 4.8% | 4.9% | ||||||
中部 | 4.9% | 6.7% | 3.0% | 8.4% | 5.0% | 8.1% | 9.8% | 11.7% | 10.9% | 12.4% | ||
北陸 | 6.4% | 11.1% | 4.3% | 11.9% | ||||||||
関西 | 3.0% | 8.2% | 8.1% | |||||||||
中国 | 7.9% | 13.0% | 23.0% | |||||||||
四国 | 12.1% | 5.8% | 19.2% | 11.2% | 14.4% | |||||||
九州 | 3.0% | 13.9% | 9.3% | 6.8% | 9.8% | 11.9% | 18.1% | 18.3% |
ただし、安心はできません。予備率はあくまでも現在稼働中の発電設備が正常に稼働した場合の話であり、設備停止のリスクは常に存在します。予期せぬ自然災害や設備の老朽化、発電設備の補修に伴う設備停止等は十分にあり得ます。
特に、東京エリアでは老朽化した火力発電所が増えてきていることが問題視されています。今年の夏は、事前の節電要請などは実施されないものの、現状確保している電力量には複数の老朽化している発電所の供給量も含まれているため、設備トラブル等のリスクも踏まえ、引き続き節電や省エネを積極的に行っていくことが必要です。
参照:資源エネルギー庁資料:2024年度夏季の電力需給対策について2024年6月3日
電力需給検証の詳細データ
前述した電力需給の詳細について紹介します。
2024年夏季の気温見通しと猛暑Hi想定
気象庁発表の3か月予報によると、今夏は全国的に気温が高くなる見込みで、特に西日本や沖縄・奄美では湿った空気の影響を受けやすくなるようです。各家庭や事業所で冷房を使用する機会は多そうですね。
しかし、東京エリアでは、2016年度から猛暑H1想定値と最大需要実績値は上がり続けていましたが、2023年は最大需要実績がその想定値を大幅に下回る結果となりました。このように、猛暑と想定されていても需要実績が予想に満たないケースもあるため、参考程度に捕らえておきましょう。
※猛暑H1想定値とは、電力会社が夏の電力需要のピーク時に備えて予測する最大電力需要量のことです。「猛暑日が1日だけ発生した場合」を想定し、過去のデータや社会経済動向を分析して算出されます。この予測値は、電力の安定供給を確保するための重要な指標となります。電力会社は、猛暑H1想定値を基に、電源の確保や設備の点検・整備を行い、夏の電力需要に備えます。また、一般家庭や企業に対してもピーク時の節電を呼びかけ、電力需給のバランスを保つよう努めています。
国内の供給力と需要見通しの数値
こちらは、今年度と昨年度の各電力エリアの供給力と需要量の数値データです。北海道・東京・九州・沖縄の4つのエリアでは供給できる電力量が増えており、北海道を除くすべてのエリアでは需要量が減っていることが分かります。2023年と比較すると供給量が増え、需要量が減っているため、昨年よりも電力量に余裕が生まれたと言えるでしょう。
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●供給力
単位【万kW】 | 北海道 | 東北 | 東京 | 中部 | 北陸 | 関西 | 中国 | 四国 | 九州 | 沖縄 |
2023年7月の供給力 | 493 | 1,469 | 6,114 | 2,868 | 571 | 3,189 | 1,201 | 588 | 1,807 | 209 |
2024年7月の供給力 | 507 | 1,458 | 6,177 | 2,832 | 550 | 3,110 | 1,188 | 566 | 1,908 | 217 |
増減 | +14 | ▲11 | +63 | ▲36 | ▲21 | ▲79 | ▲13 | ▲22 | +101 | +8 |
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●需要
単位【万kW】 | 北海道 | 東北 | 東京 | 中部 | 北陸 | 関西 | 中国 | 四国 | 九州 | 沖縄 |
2023年7月のH1需要見通し | 469 | 1,397 | 5,931 | 2,612 | 520 | 2,905 | 1,094 | 529 | 1,646 | 171 |
2024年7月のH1需要見通し | 486 | 1,351 | 5,891 | 2,554 | 496 | 2,804 | 1,071 | 510 | 1,615 | 170 |
増減 | +17 | ▲46 | ▲40 | ▲58 | ▲24 | ▲101 | ▲23 | ▲19 | ▲31 | ▲1 |
2024年夏季、電力需給対策の内容
今夏は現時点での見通しでは深刻な電力不足は避けられそうであるものの、さまざまなリスクが考慮され、電力需給対策が講じられます。内容としては、大きく次の3つに分けられます。
①供給力対策
夏季の電力需要ピークに備えるため、発電所の計画外停止を防止することが重要です。発電事業者は、通常、夏季(7~9月)と冬季(12~3月)の高需要期を避けて補修点検を実施していますが、2024年はその直前の6月と11月も点検を回避することで、供給力の確保に努めます。
また、電力広域的運営推進機関が、定期的にkW(キロワット)とkWh(キロワット時)のモニタリングを行います。これにより、需給バランスを予備率で評価・公表し、不足が生じた際に速やかに対応できる体制を整えます。
さらに、再生可能エネルギーや原子力など、脱炭素電源を最大限活用することも重要な対策です。現在、10基の原子炉について、断層・地震・津波などによる影響を審査中であり、安全性が確認された原子力発電所は積極的に活用される見込みです。これらの取り組みにより、夏季の電力需要に対応し、安定的な電力供給を確保します。
②需要対策
エネルギーコストの上昇に強い省エネ型の経済・社会構造へ転換するため、企業や家庭に対する省エネ支援策が実施されます。事業者や家庭向けに、省エネに関する各種支援策やメニューが提供され、エネルギー効率の向上が図られます。
また、ディマンド・リスポンス(DR)の普及拡大も重要な対策です。DRとは、電力需要のピーク時に需要家側が電力消費を抑制・調整することで、電力需給バランスの維持に貢献する取り組みです。2024年度から、大規模需要家はDRの実施状況について、上げDRと下げDRに区分した最大供給容量実績やDR実施量、DR実施に活用した設備等の詳細な報告が可能となります。これにより、工場等におけるDRの促進が期待されます。さらに、家庭用蓄電池等の導入支援も行われ、需要側の調整力が強化されます。
加えて、産業界や自治体等と連携し、電力需給ひっ迫時の体制を整備することも重要です。需給ひっ迫時に備えた連絡体制を確立し、迅速かつ適切な対応を可能にします。これらの需要対策により、電力需要のピークを抑制し、安定的な電力供給の実現を目指します。
③構造的対策
電力需給の安定化を図るためには、中長期的な視点に立った構造的対策が不可欠です。その一つが、連系線の増強等による系統対策の推進です。全国的な送電ネットワークの強化により、例えば首都直下地震などで首都圏のエネルギーインフラが機能不全に陥った場合にも、他地域からのバックアップ供給を可能にします。
また、容量市場や長期脱炭素電源オークションの着実な運用により、必要な供給力を確保します。容量市場は、将来の一定期間に発電可能な電源を確保するための市場メカニズムであり、長期脱炭素電源オークションは、脱炭素電源の導入を促進するための制度です。これらの制度を通じて、電力供給の安定性と環境性の両立を目指します。
大規模災害等に備えた予備電源制度の検討も進められています。この制度では、一定期間内に稼働可能な休止電源を維持することで、緊急時の供給力を確保します。電源のトラブルによる需給ひっ迫時には、まず公募による調達を行いますが、必要量が確保できない場合は、公募を経ない随意契約による追加供給力の調達も検討されています。
さらに、揚水発電の維持・強化や蓄電池等の分散型電源の活用も重要な対策です。揚水発電は、電力需要の低い時間帯に水を汲み上げ、需要が高まる時間帯に発電することで、電力需給の調整に貢献します。また、蓄電池等の分散型電源を活用することで、再生可能エネルギーの変動性を補完し、電力システムの柔軟性を高めることができます。
加えて、原燃料の調達・管理の強化も欠かせません。安定的かつ経済的な燃料調達を実現するとともに、燃料の備蓄・管理体制を整備することで、危機的状況下でも電力供給を維持できるようにします。
これらの構造的対策を総合的に推進することで、2024年夏季だけでなく、中長期的な電力需給の安定化と脱炭素化を両立させ、持続可能な電力システムの構築を目指します。
まとめ
今回は、2024年夏季の電力需給の見通しと対策についてご紹介しました。
今年の夏は例年よりも需給バランスに余裕がある見通しではありますが、災害や設備リスク等によっては電力不足にもなり得るという油断ができない状況です。
政府によりさまざまな対策は講じられますが、それに頼らずに私たちも家庭や企業で引き続き節電・省エネを心がけられると良いですね。
また、電力不足に備えて家庭や自社で太陽光パネルなどの再エネ電源を設置しておくと、不測の事態にも安定的にエネルギーを確保できるため安心です。
再エネが、各家庭や企業で導入され、いつか広く普及すれば、国内全体の電力不足の解消にもつながるかもしれません…。