電気機器の製造業がサプライチェーン排出量を算定する際のポイント

基礎知識

環境省のホームページ「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」に公開されている業種別のサプライチェーン排出量の算定事例を参考に、電気機器を製造する企業が排出量算定を行う際に重要となってくるScopeやカテゴリ、算定のポイントなどをまとめています。

継続して算定を実施している企業の取り組みを確認すれば、自社で算定していくために必要なヒントが見つかるはずです。ぜひご参考ください。

製品の使用、原料の製造での排出量が多くなりやすい

電気機器を製造する事業者は、消費者が製品を使用する際の温室効果ガス排出量を算定するScope3カテゴリ11や、製品の原料などが製造される段階での排出量を算定するScope3カテゴリ1の割合が多くなりやすいようです。

例えば、家電の製造・販売をしているパナソニック株式会社の温室効果ガス排出量は、カテゴリ11が一番多く8593万トン、次いでカテゴリ1の1656万トンです。
3番目に多いカテゴリ12が105万トンであることから、カテゴリ11とカテゴリ4が非常に大きなウェイトを占めていることがわかります(詳しくは次の章をご確認ください)。

カテゴリ11の割合が大きくなる理由ですが、カテゴリ11では販売した年に使用が見込まれる年数分の温室効果ガス排出量をまとめて算出します。
そのため、ユーザーが何年間も使用する電気機器を多数販売していると、必然とカテゴリ11の割合が大きくなると考えられます。

なお、Scope3カテゴリ11とScope3カテゴリ1の詳細は以下でご説明していますので、ご参考ください。


電気機器製造業のサプライチェーン排出量算定結果を確認

環境省のホームページ「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」で公表されている、パナソニック株式会社(2021年度)、⽇本電気株式会社(2022年度)、株式会社明電舎(2022年度)、京セラ株式会社(2017年度)のサプライチェーン排出量の算定結果をご紹介します。

パナソニック株式会社

カテゴリ2020年度排出量
(万トン)
スコープ139
スコープ2187
スコープ31. 購⼊した製品・サービス1,656
2.資本財343.9
3.スコープ1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動23
4.輸送、配送(上流)81.5
5.事業から出る廃棄物1.5
6.出張1.2
7.雇用者の通勤2.0
8.リース資産(上流)2.4
9.輸送、配送(下流)1.7
10.販売した製品の加工
11.販売した製品の使用8,593
12.販売した製品の廃棄105
13.リース資産(下流)
14.フランチャイズ
15.投資

参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「パナソニック株式会社」

前の章でもご説明した通り、パナソニック株式会社の場合は、カテゴリ11(販売した製品の使用)とカテゴリ1(購入した製品・サービス)での排出量が圧倒的に多くなっています。

家電製品は電気などのエネルギーを使用することがほとんどで何年間も使用します。
そのような製品をたくさん製造・販売している企業の場合は、パナソニック株式会社のようにカテゴリ11の割合が大きくなることが予想されます。

また、製品数ごとにカテゴリ11の排出量を算定していく必要があるため、製品数が多い事業者は算定には労力がかかるでしょう。

⽇本電気株式会社(NEC)

Scope12.2
Scope230.2
Scope3653.5
カテゴリー1:購入した製品・サービス343.9
カテゴリー2:資本財15.2
カテゴリー3:Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動5.6
カテゴリー4:輸送、配送(上流)35.3
カテゴリー5:事業から出る廃棄物0.9
カテゴリー6:出張1.5
カテゴリー7:雇用者の通勤0.4
カテゴリー8:リース資産(上流)0.2
カテゴリー9:輸送、配送(下流)0.001
カテゴリー10:販売した製品の加工0.02
カテゴリー11:販売した製品の使用250.4
カテゴリー12:販売した製品の廃棄0.03
カテゴリー13:リース資産(下流)
カテゴリー14:フランチャイズ
カテゴリー15:その他

参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「日本電気株式会社」

NECもパナソニックと同じようにカテゴリ1とカテゴリ11が中心ですが、NECはカテゴリ11よりカテゴリ1の方が排出量は多くなっています。

また、カテゴリ12(販売した製品の廃棄)がパナソニックと比べて極めて低い数値になっています。
NECは法人向け製品や社会インフラ製品が多いことが関係しているのかもしれません。

このように同じ電気機器の製造業でも製品やお客さまの違いによって、カテゴリ1とカテゴリ11以外で排出量の多いカテゴリは変わってきそうです。

株式会社明電舎

※以下の表はスクロールして全体をご覧いただけます。

カテゴリ算定方法排出量
(t-CO2eq)
活動量原単位
カテゴリ1
「購入した製品・サービス」
購入金額(原材料、消耗品・サービス等)環境省原単位DB859,081
カテゴリ2
「資本財」
固定資産の投資金額28,480
カテゴリ3
「Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動」
エネルギー使用量(電力等)3,425
カテゴリ4
「輸送、配送(上流)」
輸送費用(運賃、保管、荷造等)1,442
カテゴリ5
「事業から出る廃棄物」
廃棄物の種類別排出量1,645
カテゴリ6
「出張」
交通費支給額(旅費等)2,160
カテゴリ7
「雇用者の通勤」
交通費支給額(交通手当等)1,182
カテゴリ8
「リース資産(上流)」
貸借料(リース品等)2,079
カテゴリ9
「輸送、配送(下流)」
販売代理店等における活動量1,168
カテゴリ10
「販売した製品の加工」
当社製品は成形品が多いため除外
カテゴリ11
「販売した製品の使用」
当社製品の仕様や運用条件をもとに算定製品別電力・燃料使用量あたりの原単位5,922,573
カテゴリ12
「販売した製品の廃棄」
販売した製品の想定廃棄費用環境省原単位DB5,976
カテゴリ13
「リース資産(下流)」
賃貸不動産におけるエネルギー使用量20,030
カテゴリ14
フランチャイズ
当社の事業範囲外であるため除外
カテゴリ15
「投資」
当社保有株は投資目的でないため除外
「その他」オプションのため算定範囲から除外
合計6,849,240

参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「株式会社明電舎」

社会インフラに関わる製品を広く製造している株式会社明電舎もカテゴリ11が一番多く、次いでカテゴリ1が多くなっています。

また、株式会社明電舎では、カテゴリ11での温室効果ガス排出量を2030年度までに2019年度と比べて15%削減することを目標にしているそうです。
サプライチェーン排出量を算定し、排出量の多いカテゴリや実際の排出量を見える化することで、自社の環境問題への取り組み・目標を明確にできるメリットがあります。

京セラ株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「京セラ株式会社」

京セラ株式会社の算定結果は他社と異なり、円グラフと%で公表されており、カテゴリ1が62.4%を占めています。
カテゴリ11は10.7%と他社に比べて明らかに低めです。
個人のお客さま向けの製品も販売していますが、法人向けに電気機器のパーツなども多く製造している会社のため、使用した際のエネルギー排出量であるカテゴリ11は低いことが考えられます。

また、他社に比べるとScope2の割合が大きくなっている点も特徴的です。
このように、電気機器のパーツなどを製造している会社の場合は、カテゴリ11よりもカテゴリ1の重要度が増すと考えられます。

大手4社のサプライチェーン排出量の算定方法を比較

ここでは、各社の算定結果をもとに製造業(電子機器)のサプライチェーン排出量の算定についてもう少し深堀していきます。
カテゴリごとに活動量や排出原単位をどのように設定しているか確認し、算定のヒントを探っていきたいと思います。

カテゴリ11:消費電力や製品寿命を把握して活動量を決める

企業活動量排出原単位
パナソニック株式会社消費電⼒量、寿命、販売台数社内で運⽤している地域別原単位
日本電気株式会社資材の調達量(⾦額)、LCAデータエネルギー量当たり原単位(排出原単位データベース)
株式会社明電舎当社製品の仕様や運用条件をもとに算定製品別電力・燃料使用量当たりの原単位
京セラ株式会社消費電力x製品寿命x販売個数

カテゴリ11は、製品の消費電力、寿命、販売台数を把握した上で活動量を算定する形が基本となりそうです。
個人向けの電化製品を多く販売するパナソニック株式会社では、社内で地域別の排出原単位のリストを作成して運用しているようです。

また、日本電気株式会社と株式会社明電舎は、製品ごとに電力や燃料などの排出原単位を確認して算定しています。
事業者によっては製品が何百種類もあると思います。
カテゴリ11では、これを一つひとつ算定する必要があり、製品数が多いと算定に労力がかかります。
そのため、早い段階でカテゴリ11の算定フローを確立させ、少しでも算定の負担を減らすことが大切になってくるでしょう。

製品数が多い場合は、まずはいくつかの製品群に分類しましょう。各製品群のなかで最も売上額が高い・売上数が多いものを代表製品としてピックアップしてその生涯排出量を計算します。それを製品群の代表値として、製品群のほかの製品も全て代表製品であるものと仮定して推計するのです。
製品ごとに計算するよりも簡易的な算定にはなりますが、算定にかかる時間や労力を省略できます。

カテゴリ1:購入した原材料や資材を金額や量から算出

企業活動量排出原単位
パナソニック株式会社原材料・資材の調達量(⾦額及び物量ベース)排出原単位データベース
日本電気株式会社原材料・資材の調達額調達額当たり原単位(排出原単位データベース)
株式会社明電舎購入金額(原材料、消耗品・サービス等)排出源単位データーベース
京セラ株式会社購入した原材料・資材の購入金額排出原単位データーベース

カテゴリ1の算定に関しては、どの企業も大きな違いはありませんでした。
自社製品の製造・販売等のために購入した原材料、資材の種類と金額、物量を把握して、それを排出原単位データーベースを使いながら算定しています。

パナソニック株式会社の記載を見る限り、金額ベースで算出するか、物量ベースで算出するかは、原材料や資材ごとに把握できるほうで問題なさそうなので、自社でルールを決めて取り組みましょう。

購入した原材料、資材の量が膨大な場合は、計算よりもカテゴリ1に当てはまる物品のリストアップや情報収集に手間がかかることが考えられます。

カテゴリ12:自社製品が処分される際の温室効果ガス

企業活動量排出原単位
パナソニック株式会社原材料・資材の調達量(⾦額及び物量ベース)排出原単位データベース
日本電気株式会社原材料・資材の調達額調達額当たり原単位(排出原単位データベース)
株式会社明電舎購入金額(原材料、消耗品・サービス等)排出源単位データーベース
京セラ株式会社購入した原材料・資材の購入金額排出原単位データーベース

販売した製品が廃棄される際の温室効果ガス排出量を算定するカテゴリ12は、Scope3全体で見れば割合は小さいですが、製造業にとっては算定が不可欠のカテゴリと言えるでしょう。

算定方法は、製品の重量で算定している事業者と、製品の廃棄費用を想定して算定している事業者に分かれました。

量は、燃え殻、汚泥、紙くずといった廃棄物の種類別に分けて量を算定する算定方法と、分けてないで算定する簡易の計算式があり、廃棄物の種類別に分けるのが難しいのであれば、最初のうちは簡易計算式で算定しても問題ないでしょう。

カテゴリ2:製品を製造する工場などの建設・修繕での排出量

企業活動量排出原単位
パナソニック株式会社設備投資⾦額排出原単位データベース
日本電気株式会社資本財の調達額調達額当たり原単位(排出原単位データベース)
株式会社明電舎固定資産の投資金額排出源単位データーベース
京セラ株式会社資本財の調達金額排出原単位データーベース

電気機器を製造する事業者の多くは、自社製品を製造する工場を国内外各地に所有していることでしょう。
これら自社のビルや工場などの建設や修繕で排出した温室効果ガスはカテゴリ2で算定する必要があります。

自社の施設に大きな変化がない年の排出量は少ないですが、自社工場を新設した年などは活動量が大きく変わることが予想されます。
施設の建築や大きな修繕があった年は例年よりカテゴリ2の算定に労力を必要とすることを頭の中に入れておきましょう。

製造業(電気機器)のサプライチェーン排出量算定体制

企業体制
パナソニック株式会社製造事業場、調達部⾨(カテゴリ1)、物流部⾨(カテゴリ4)、⼈事部⾨(カテゴリ7)などから活動量データを⼊⼿し、環境部⾨が全体の取りまとめを⾏う。
日本電気株式会社NECグループの環境部⾨から環境情報を収集。また、経理、調達、物流部⾨等から情報を⼊⼿。
株式会社明電舎環境管理部門にて、各部門(経理、情報システム、開発・設計等)から一次データを収集し、二次データ(原単位DB)を活用し集計している。Scope3算定結果は、社内で他部門を含めたレビューを行っている。2021年度は、カテゴリ1、11の第三者検証を受審し、認証を取得している
京セラ株式会社海外を含むグループ全体から情報を収集し、本社環境部門が算定を実施している。算定量の正確性確保のため、Scope1、2に続き、Scope3の第三者検証を行う。

取組事例に掲載されている各社の算定体制をまとめました。
ポイントは2つで、1つは社内で情報収集する体制がしっかりと確立されていること、もう1つは第三者検証を行っていることです。

まず、社内での情報収集は、カテゴリ1やカテゴリ4はもちろん、Scope1とScope2を算定する際に欠かせません。
今回ピックアップした企業はいずれも担当部門が各部署に必要なデータを取集するフローが確立されているようです。
株式会社明電舎は、算定結果を社内でレビューしており、このような対応は、社内でサプライチェーン排出量算定の理解が深まっていくことに繋がるでしょう。

また、株式会社明電舎と京セラ株式会社では第三者検証を受けています。
算定する体制を構築することはもちろんですが、算定結果の正確性を担保することも担当者が考えなければいけない対応と言えるでしょう。

まとめ

電気機器を製造する製造業がサプライチェーン排出量を算定する際のポイントを、環境省のホームページで公開されている大手各社の取組事例をもとに解説していきました。

電気機器の製造業者は、家庭用家電から社会インフラ製品まで事業者によって製品が異なりますが、サプライチェーン排出量の算定においては、Scope3のカテゴリ1とカテゴリ11の割合が大きくなる企業が多いようです。
製品数が何百、何千とある企業も少なくないと思います。
そのような企業にとっては、カテゴリ11を算定する際には製品一つずつの算定が求められ、それをアナログで行うと莫大な労力を必要とする可能性があります。サプライチェーン排出量の算定ツールを使用するなどして算定の効率性を高めることも検討していきましょう。

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