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アグロフォレストリーとは?森林農業の仕組みと世界の導入事例を徹底解説!

アグロフォレストリーとは?森林農業の仕組みと世界の導入事例を徹底解説!
基礎知識

2024年3月、世界最大の食品飲料会社であるネスレは、同社のサプライヤーであるアメリカの食品大手会社のカーギルとExport Trading Group(※1)が展開するサステナビリティ・プロジェクトの「ETG | Beyond Beans」と協働し、カカオのサプライチェーン上での温室効果ガスの削減、並びに除去における5年間のプロジェクトを新たに発足したことを発表しました。このプロジェクトの具体的な取り組み内容としては、アグロフォレストリーを推進し、リジェネラティブ農業(※2)への移行を加速させ、カカオ農家コミュニティ周辺の荒廃した土地の再植林を支援するものとなっています。また、約2万人のガーナとコートジボワールの農家が管理する土地に200万本以上のシェードツリー(※3)を植えることを目的としており、今後20年間で50万トン以上の炭素除去と削減が見込まれています。

このように、昨今では持続可能な開発目標 (SDGs) とより広範な目標に貢献しながら、農家のニーズを満たす取り組みの一つとしてアグロフォレストリーは注目を集めています。

そこで本コンテンツでは、アグロフォレストリーに関する理解を深めるにあたり、アグロフォレストリーの概要から世界各地での導入事例について解説していきます。

(※1)ドバイを本拠地とし、東アフリカ・環インド洋地域を中心に36ヶ国・約330か所に拠点を有する印僑系企業。農産物取引(集荷・保管・輸出入・加工)や農業資材(肥料・農薬・種子など)販売、食品製造販売などの事業を幅広く展開している。
(※2)環境再生型農業とも呼ばれており、収穫が終わった作物の切り株や根を残し農地を耕さずに行う栽培方法。 農作業の軽減やコスト削減ができる点がメリットとなる。
(※3)コーヒーの木を直射日光から守るため、日傘のような役割をさせるために植えている木のこと。

アグロフォレストリー(Agroforestry)の概要について

Agriculture(農業)とForestry(森林)を掛け合わせた造語で、森林農法(又は、森林農業)を指しています。世界の多くの地域で用いられている複合的な土地利用のシステムを表しており、植林と農業、又は畜産を組み合わせ、食料の確保及び所得の向上に貢献しています。加えて、アグロフォレストリーのシステムは多面的な機能を持つため、農民の生活のレジリエンスと食料安全保障を向上させ、土壌の健全性や水管理の改善など重要な生態系サービスを提供し、気候変動の緩和と適応に貢献することができる取り組みとして、国際連合食糧農業機関のHP上でも取り上げられています。

アグロフォレストリーには、以下のような種類があります。かなりニッチな内容も含んでいますので、より詳細な情報を確認する場合は、注釈も合わせて参考にしてみてください。

樹木と作物の組み合わせパターン
シェードツリー農法(Shade-grown system)コーヒー豆やカカオを栽培する方法として有名ですが、シェードツリーの下では他の作物や果物も育てることも可能となっています。
アレイ・クロッピング(Alley cropping)樹木の列間に作物を植え、樹木が成熟するまでの間、収入を得るために作物を栽培する方法です。
タウンヤ農法(Taungya system)東南アジアで古くから行われている混農林の一種で、農民が樹木の種子あるいは苗木を植栽し、その保育を行う造林法です。農民は初めの数年間、苗木の間で作物を栽培することが許可されています。
樹木と家畜の組み合わせパターン
シルボパストラル農法(Silvopasture)植林と放牧を組み合わせ、家畜の飼料や木材、果実の収穫などを行う方法です。
リパリアン・フォレスト・バッファー(Riparian Forest Buffer)水辺に植生帯を作り、家畜の侵食防止や水質改善に寄与する方法です。
※一般的な検索方法では調べにくい内容となっていますが、アメリカ合衆国農務省(USDA)やアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)のサイトなどに、詳細の記載があります。
樹木・作物・家畜の組み合わせパターン
ホームガーデン(Home garden)自給用の野菜、果樹、家畜を組み合わせた伝統的な家庭菜園で、特に熱帯地域で見られています。
※アグロフォレストリー入門(財団法人 国際緑化推進センター)を参照
森林放牧(Forest grazing)森林内で家畜を放牧し、木の実や下草を利用する方法を指しています。
その他
防風林(Windbreaks)農地の境界に樹木を植え、風害を防ぐ方法です。
土壌保全林(Soil conservation hedges)斜面農業で樹木を植え、土壌浸食を防ぐ方法です。
水田(Paddy field)水田と周囲の樹木(マングローブや果樹など)を組み合わせる方法です。

アグロフォレストリーが及ぼす様々な影響について

1章でもお伝えしたように、アグロフォレストリーのシステムは多面的な機能を持ち合わせています。そのため、環境面だけに留まらず、経済的にも社会的にもプラスの効果がもたらされると考えられています。

環境面への効果

土壌の改良樹木の落葉や根の分解によって有機物が土壌に供給され、肥沃度(※4)が向上します。また、樹木の根が土壌を固定し、浸食を防ぐことで長期的な土壌保全に貢献します。
水資源の保全樹木の根が地下水の涵養を促し、乾燥地域でも水の供給を安定させます。それに加え、蒸発散による湿度の調整や、雨水の浸透促進によって洪水や干ばつのリスクを軽減します。
バイオマス・ハブの保護多様な植生を持つことで、昆虫や鳥類、小型哺乳類などの生物多様性を維持することが可能になります。また、天然資源の過剰利用を防ぎながら、炭素固定による気候変動の緩和にも寄与します。

経済的な効果

生産性の向上作物、果樹、木材など複数の収益源を確保することで、単一作物よりも総合的な生産性が向上します。また、コーヒー豆やカカオなどの日陰を利用した作物の品質向上が期待でき、付加価値が高まっています。
深刻な資源消費の回避化学肥料や農薬の使用を減らし、長期的な土壌・水質の保全を実現することが可能です。更に、燃料材や飼料を現地調達できるため、外部資源への依存度が低下し、持続可能な農業経営を実現することができます。
経済的な安定性の維持さまざまな作物や樹木の収穫時期が分散されるため、収入の安定化を図ることができます。また、市場価格の変動リスクを分散でき、単一作物依存型の農業よりも経済的に安定した状況を作ることが可能です。

社会的な効果

地域社会の結束力の向上共同で森林管理を行うことで、地域コミュニティの連携が強まり、相互扶助の文化が育まれます。加えて、地元の人々が協力してアグロフォレストリーを維持・運営することで、雇用創出にもつながると考えられています。
伝統的な作物の保守先住民や伝統的な農業技術が尊重され、地域ごとの多様な作物の栽培が継承されます。これは、在来種の保護を促進し、気候変動や病害に強い作物の保存にも貢献します。
食料安全保障の向上多品種栽培により、食料供給の多様化が進み、飢餓リスクを低減することが期待されています。更に、持続可能な方法で作物を生産できるため、地域全体の食糧自給率が向上していきます。

一方で、アグロフォレストリーに関してマイナスの影響も示唆されており、デメリットとしては以下の点が挙げられます。

環境面への影響

生態系のバランス変化外来種の導入や特定の樹種の優勢化により、地域の生態系が変化し、在来種の減少につながる可能性があります。また、樹木や作物の種類によっては、生態系サービス(受粉、害虫抑制など)に悪影響を及ぼすことがあると考えられています。
病害虫のリスク増加異なる作物や樹木を混植することで、新たな病害虫が発生しやすくなり、防除が難しくなる場合があります。加えて、病害虫の発生が広範囲に及ぶと、周囲の農地や森林にも被害を与える可能性も示されています。
土壌栄養の分配トラブル樹木と作物が同じ土壌の栄養分や水分を奪い合い、生育に影響を及ぼす可能性もあると考えられています。

経済的な影響

初期投資の高さ樹木の導入、土地整備、維持管理には高額な費用がかかり、短期的な投資回収が難しいのが現状です。また、設備投資や労働力の確保が必要になり、小規模農家にとっては大きな負担となります。
収益化までの時間の長さ樹木が成長するまでに数年〜数十年かかるため、即時の利益が得られず、短期間での経済的成果を期待しにくいことが挙げられます。加えて、初期の数年間は作物や家畜の収入に依存するため、経営の不安定さが増す可能性があります。
市場の不安定性アグロフォレストリーの産品(果樹、木材、特定の農作物)は市場価格の変動が大きく、収入が不安定になりやすいことが懸念されます。

社会的な影響

専門的な知識や技術の必要性の高さアグロフォレストリーの適切な管理には、作物、樹木、家畜に関する幅広い知識と経験が求められますが、地域の農家が新しい技術を学ぶためには研修や指導が必要になり、普及が進みにくい場合が想定されています。
土地利用の制約と所有権の問題長期間にわたる土地利用が前提となるため、借地では導入が困難になりやすい状況です。また、土地の所有権が不明確な地域では、アグロフォレストリーの実施が社会的対立を生む可能性もあります。
労働負担の増加樹木の管理、間作作物の世話、家畜の世話など、多岐にわたる作業が発生し、労働負担が大きくなるケースが一般的です。

(※4)ひよくど。土壌が作物の生育に必要な養分を供給する能力を示す指標。

世界各地での導入事例について

ここでは、世界各地で展開されているアグロフォレストリーについて、3つのエリアの事例を取り上げて紹介していきます。

アマゾンの事例

アマゾン地域では、アグロフォレストリーが広く採用されており、地域の生態系保全と持続可能な農業の発展に大きく貢献しています。読者の皆様もご存じのように、この地域は世界最大の熱帯雨林を有し、多様な植物や動物が生息する生物多様性の宝庫となっています。しかし一方で、近年では森林破壊が深刻な問題となっており、違法伐採や焼畑農業による環境破壊が進んでいます。そのため、森林を保護しつつ生計を立てる手段として、アグロフォレストリーが注目されている背景があります。

特に、アマゾン地域ではカカオやコーヒー豆、ブラジルナッツ、アサイーなどの高付加価値作物がアグロフォレストリーの一環として栽培されています。例えば、アサイーは近年、健康食品として世界的な需要が高まり、現地の小規模農家にとって重要な収入源となっている状況です。これらの作物は森林の中で栽培されるため、木々が伐採されることなく、土壌の浸食防止や生物多様性の維持にも寄与しています。

また、アグロフォレストリーの導入によって、地元の先住民コミュニティが伝統的な農業技術を活かしながら生計を立てることが可能になっています。例えば、ペルーやブラジルの一部では、先住民が森林の管理を行いながらアグロフォレストリーを活用し、持続可能な経済活動を行っている状況です。これにより、自然と共生しながら地域経済の発展を促すことを実現しています。

アフリカの事例

アフリカ各地では、持続可能な農業開発の一環として、果樹と農作物を併用するアグロフォレストリーが広がりつつあります。特に、サハラ砂漠南部のサヘル地域では、気候変動による乾燥化が進行しており、従来の農業だけでは安定した生産が難しくなっている状況です。このような背景のもと、アグロフォレストリーは土壌の保水力を向上させ、作物の生産性を高める手段として注目されています。

例えば、マリやブルキナファソでは「ファイドヘルバシオン」と呼ばれる技術が導入されており、樹木と作物を組み合わせることで土地の肥沃度を維持しています。実際に、マンゴーやバオバブ、シアバターの木などが植えられ、それらの果実やナッツが現地の人々の収入源となっています。また、木の葉や枝は堆肥として利用されるため、土壌の栄養分が向上し、持続的な農業が可能となっています。

さらに、アフリカでは多くの国際NGOがアグロフォレストリーを活用したコミュニティープロジェクトを推進しています。例えば、ケニアの「グリーンベルト運動」は、植林活動を通じて環境保全と貧困削減を両立させる取り組みを行っています。このようなプロジェクトによって、地域の人々が森林資源を守りながら自立的に経済活動を行うことが可能となっています。

ヨーロッパの事例

ヨーロッパでは、伝統的な農業と林業を組み合わせたアグロフォレストリーのシステムが発展しており、多様な農業生態系を維持するための取り組みが進められています。特に、フランスやドイツ、スペインなどでは、農地と森林を併用する形で持続可能な土地利用が実践されています。

例えば、フランスでは1章でもお伝えした「シルボパストラル農法」と呼ばれる方法が普及しており、森林内で家畜を放牧することで、家畜の飼料供給を確保しつつ、森林の維持管理を行っています。このシステムは、草地の過剰な消費を防ぎながら、土壌の流出を抑え、長期的な土地の利用を可能にしています。また、スペインではオリーブやブドウ畑の周囲に樹木を植えることで、風害を防ぎながら農業生産を行う手法が採用されています。

さらに、ヨーロッパではEUの農業政策の一環として、アグロフォレストリーの普及が進められています。例えば、「欧州グリーン・ディール」の枠組みの中で、炭素固定の観点からアグロフォレストリーが推奨されており、農家に対する補助金制度が整備されつつある状況です。このような政策支援により、環境保全と農業の両立を図る動きが加速しています。

また、ヨーロッパでは伝統的な土地管理技術の保存にも力を入れており、地域ごとの特性に応じたアグロフォレストリーの形態が発展しています。例えば、イギリスでは「コッポイス林業(Coppicing)」と呼ばれる伝統的な手法が用いられ、小規模な伐採と再生を繰り返すことで持続可能な森林管理が行われています。このように、ヨーロッパでも環境保護と農業生産のバランスを取りながら、アグロフォレストリーの発展が進んでいます。

このように、アマゾンでは生物多様性の保全と経済的持続可能性の両立、アフリカでは貧困削減と砂漠化防止、ヨーロッパでは伝統的農業の維持と環境政策の推進といった異なる目的のもとで、アグロフォレストリーは、それぞれの環境や社会的課題に適応しながら発展しています。今後も、地域ごとの特色を生かしたアグロフォレストリーの実践が求められ、持続可能な農業の発展に貢献することが期待されています。

まとめ

本コンテンツでは、アグロフォレストリーに関する理解を深めるにあたり、アグロフォレストリーの概要とアグロフォレストリーが及ぼす様々な影響、世界各地での導入事例について、順を追って解説してきました。

アグロフォレストリーは、環境保全と経済発展、社会的な結束の向上に寄与する持続可能な農業システムとして今後もその発展が求められ、多様な地域での適応が進められることが予測されます。そのためにも、3章でお伝えしたように、世界全体でどのような取り組みが行われているのか、様々な事例に触れておく必要があります。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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