水素発電とは?仕組みからメリット・デメリットまで徹底解説

水素発電とは?仕組みからメリット・デメリットまで徹底解説
基礎知識

脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する中、水素発電は次世代エネルギーソリューションとして注目を集めています。従来の化石燃料とは異なり、水素は燃焼時に水しか排出しないクリーンエネルギーであり、企業のカーボンニュートラル達成に向けた重要な選択肢となっています。

政府の「グリーン成長戦略」においても水素産業は重点分野として位置づけられ、2030年には水素発電の本格的な商用化の実現を目指しています。。これにより、企業は安定的な電力供給と環境負荷削減を同時に実現できる可能性が高まっています。

本コンテンツでは、水素発電の基本的な仕組みから導入メリット、具体的な活用事例まで、企業が知っておくべき水素発電の全貌について詳しく解説します。

水素発電とは?

水素発電とは、水素ガス(H₂)を燃料として電力を生み出す発電技術の総称です。従来の化石燃料発電と大きく異なる点は、燃焼や反応の際に排出されるのが水(H₂O)のみで、二酸化炭素や有害物質を一切発生させないことです。

水素は宇宙で最も豊富に存在する元素でありながら、地球上では主に他の元素と化合物として存在するため、人工的に分離・精製する必要があります。しかし、いったん水素として取り出せば、高いエネルギー密度を持つクリーンな燃料として活用できます。単位重量あたりのエネルギー量は天然ガスの約2.5倍、ガソリンの約4.3倍に相当し、輸送や貯蔵も可能な万能エネルギーキャリアです。

現在、脱炭素社会の実現に向けて世界各国が水素発電の実用化を推進しており、日本でも2030年の商用化を目標に技術開発と実証試験が進められています。

水素発電には大きく分けて3つの技術方式があります。それぞれ異なる特徴とメリットを持ち、企業の用途や規模に応じて最適な選択肢が変わります。ここでは各方式の仕組み、性能、適用場面について詳しく解説します。

水素発電の3つの技術方式

汽力発電(Steam Power Generation)

仕組み

汽力発電は、従来の石炭火力発電と基本的に同じ仕組みで、燃料を水素に置き換えた方式です。水素をボイラーで燃焼させて水を蒸気に変え、その蒸気でタービンを回転させて発電します。蒸気は復水器で冷却されて水に戻り、再びボイラーに送られる循環システムです。

技術特性

  • 発電効率:約35~42%
  • 出力規模:数十MW~1,000MW以上の大規模発電に適用
  • 起動時間:数時間程度(コールドスタート)
  • 負荷追従性:比較的緩やか

企業での活用場面

大規模な製造業や重工業において、安定した大容量電力が必要な場合に適しています。既存の石炭火力設備を改造することで水素専焼化が可能なため、初期投資を抑えながら脱炭素化を進められます。製鉄所や化学プラントなど、連続運転が求められる産業用途で威力を発揮します。

ガスタービン発電(Gas Turbine Power Generation)

仕組み

ガスタービン発電は、圧縮機で空気を圧縮し、そこに水素を噴射して燃焼させ、高温高圧の燃焼ガスでタービンを直接回転させる方式です。ジェットエンジンと同様の原理で、シンプルな構造が特徴です。排熱を利用したコンバインドサイクル(GTCC)では更なる高効率化が可能です。

技術特性

  • 発電効率:単純サイクル約30~40%、コンバインドサイクル約50~60%
  • 出力規模:数MW~数百MW
  • 起動時間:10~30分程度(ホットスタート)
  • 負荷追従性:優秀(急速な出力調整が可能)

企業での活用場面

需要変動の大きい工場や、再生可能エネルギーの調整電源として活用されます。起動が早く負荷追従性に優れるため、ピーク電力需要への対応や非常用電源としても有効です。データセンターや食品加工工場など、電力の安定供給と効率性を重視する企業に適しています。

燃料電池(Fuel Cell)

仕組み

燃料電池は、水素と酸素を電解質を介して電気化学的に反応させることで直接電力を生み出します。燃焼過程を経ないため、カルノーサイクルの制約を受けず高い効率を実現できます。主な種類には、固体酸化物形(SOFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、リン酸形(PAFC)があります。

技術特性

  • 発電効率:40~60%(排熱利用込みで80%以上のエネルギー効率)
  • 出力規模:数kW~数十MW
  • 起動時間:即座~数分
  • 負荷追従性:良好

企業での活用場面

オフィスビル、病院、ホテルなどの分散電源として最適です。騒音が極めて少なく、排熱を給湯や暖房に利用できるコージェネレーション(熱電併給)システムとして高いエネルギー効率を実現できます。また、無停電電源装置(UPS)として重要施設のバックアップ電源にも活用されています。

方式選択の指針

大規模・基幹電源:汽力発電
年間を通じて安定した大容量電力が必要な重工業や大規模製造業には汽力発電が適しています。設備利用率が高く、kWh単価を抑えることができます。

中規模・調整電源:ガスタービン発電
電力需要の変動に応じた柔軟な運転が求められる場合や、再生可能エネルギーとの組み合わせにはガスタービン発電が有効です。

小規模・分散電源:燃料電池
都市部のオフィスビルや商業施設、地域の小規模分散電源には燃料電池が最適です。環境性と経済性を両立できる選択肢です。企業は自社の電力使用パターン、必要容量、投資予算を総合的に検討し、最適な水素発電方式を選択することが重要です。

参照 NEDO水素エネルギー白書
https://www.nedo.go.jp/library/suiso_ne_hakusyo.html

水素の色分類

水素発電を理解する上で重要なのが、水素の製造方法による分類です。水素は製造過程でのCO₂排出量によって「色」で分類され、それぞれ異なる環境負荷とコスト特性を持っています。

グレー水素(Grey Hydrogen)

現在の水素供給量の約95%を占めるのがグレー水素です。天然ガスや石炭などの化石燃料を水蒸気改質や部分酸化により分解して製造されます。製造コストは1立方メートルあたり20~30円と最も安価ですが、製造過程で大量のCO₂を排出するため、環境負荷が高いという課題があります。

ブルー水素(Blue Hydrogen)

ブルー水素は、グレー水素と同じ化石燃料を原料としますが、製造過程で発生するCO₂をCCS(Carbon Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)技術により回収・貯蔵します。CO₂排出量を80~90%削減できるため、過渡期のクリーンエネルギーとして注目されています。ただし、CCS設備のコストが上乗せされるため、製造費用はグレー水素の1.5~2倍程度となります。

グリーン水素(Green Hydrogen)

再生可能エネルギーを使用した水の電気分解により製造されるのがグリーン水素です。製造過程でCO₂を一切排出しないため、真のカーボンニュートラル燃料として期待されています。しかし、現在の製造コストは1立方メートルあたり100~150円と高く、大規模な普及には技術革新とコスト削減が不可欠です。政府目標では2030年までに30円以下への削減を目指しています

水素発電のメリット・デメリット

水素発電は脱炭素社会実現の切り札として期待される一方、現時点では解決すべき課題も数多く存在します。企業が水素発電の導入を検討する際には、そのメリットとデメリットを正確に把握し、自社の事業戦略と照らし合わせた判断が必要です。

水素発電の主要メリット

環境面での優位性

ゼロエミッション発電
水素発電の最大の特徴は、発電時にCO₂を一切排出しないことです。燃焼や電気化学反応の生成物は水のみであり、NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)などの大気汚染物質も発生しません。これにより企業のScope1排出量(直接排出)を大幅に削減できます。

カーボンニュートラル達成への貢献
2050年カーボンニュートラル目標の達成には、電力部門の脱炭素化が不可欠です。再生可能エネルギーと組み合わせることで、真のゼロカーボン電力システム(※1)を構築できます。ESG投資の観点からも、投資家や取引先からの高い評価を獲得できる可能性があります。

※1 日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成を目標としており、発電時に二酸化炭素(CO₂)を排出しない電源によって電力を供給するシステムをゼロカーボン電力システムと呼ぶことがあります。

エネルギーセキュリティの向上

燃料調達の多様化
水素は天然ガス、石炭、バイオマス、再生可能エネルギーなど様々な原料から製造可能です。これにより、特定の化石燃料や輸入元への依存度を下げ、エネルギー調達リスクを分散できます。

長期保存・輸送の可能性
水素は液化やアンモニア変換により長期間の保存と長距離輸送が可能です。季節変動の大きい再生可能エネルギーを水素として蓄積し、必要時に発電できるエネルギー貯蔵システムとしての活用も期待されています。

技術・経済面でのメリット

既存インフラの活用
汽力発電やガスタービン発電では、既存の火力発電設備を改造することで水素発電への転換が可能です。新規建設に比べて投資コストを大幅に抑制できます。

高いエネルギー効率
特に燃料電池では40~60%の高い発電効率を実現でき、排熱利用を含めると80%以上の総合エネルギー効率も達成可能です。これは従来の火力発電を上回る効率性です。

負荷追従性の良さ
ガスタービンや燃料電池は起動が早く、電力需要の変動に柔軟に対応できます。再生可能エネルギーの出力変動を補完する調整電源として優れた特性を持ちます。

水素発電の主要デメリット

経済性の課題

高い燃料コスト
現在の水素価格は天然ガスの3~5倍程度であり、発電コストが高くなります。特にグリーン水素は1m³あたり100~150円と、天然ガス(20~30円)に比べて非常に高価です。

参照 経済産業省Overview of Basic Hydrogen Strategy
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/20230606_4.pdf

初期投資の負担
水素専用の発電設備や既存設備の改造には多額の初期投資が必要です。燃料電池システムでは、kWあたり50~100万円程度の設備費がかかり、従来の火力発電(20~30万円/kW)を大きく上回ります。

インフラ整備コスト
水素の輸送・貯蔵には専用のパイプラインや貯蔵タンクが必要で、インフラ整備に巨額の投資が求められます。水素ステーション1箇所の建設費は4~5億円程度とされています。

技術的な課題

水素脆化による設備劣化
水素は分子が小さいため金属に浸透しやすく、長期間の使用により配管や容器の強度が低下する「水素脆化」が発生する可能性があります。これにより、設備の耐久性や安全性に影響が生じる恐れがあります。

エネルギー変換効率の問題
水の電気分解でグリーン水素を製造する際のエネルギー効率は約70%、それを燃料電池で電力に戻す効率が約50%のため、全体のエネルギー効率は35%程度にとどまります。電力を直接利用する方が効率的な場合も多くあります。

技術の成熟度
大型の水素発電システムはまだ実証段階にあり、長期運転の信頼性データが不足しています。商用化までには更なる技術開発と実証が必要です。

供給・運用面の制約

水素供給網の未整備
現在、日本国内の水素供給インフラは非常に限定的です。安定的な水素調達には、製造・輸送・貯蔵の一貫したサプライチェーンの構築が前提となりますが、この整備には時間とコストを要します。

安全管理の複雑さ
水素は可燃範囲が広く(4~75%)、着火エネルギーが小さいため、厳格な安全管理が必要です。漏洩検知システムや防爆対策など、従来の燃料以上に高度な安全対策が求められます。

需給調整の困難さ
水素の需要予測と供給調整は、電力や天然ガスに比べて困難です。過不足が生じやすく、安定運転には精密な需給管理システムが必要となります。

企業導入の判断基準

導入に適した企業・用途

環境目標が明確で投資余力がある大企業
ESGブランディングと長期戦略の一環として

エネルギー多消費産業
製鉄、化学、セメントなど、大量のエネルギーを継続使用する業種

電力需要変動の大きい企業
ピーク対応や非常用電源として燃料電池を活用

立地制約のある企業
騒音規制の厳しい都市部での分散電源として

現段階で導入を見送る方が良い場合

コスト最優先の企業
燃料費負担増を受け入れる余裕がない場合

小規模事業
初期投資とメンテナンスコストが事業規模に見合わない場合

短期的な投資回収を求める場合
技術成熟とコスト低下を待つ方が合理的

重要なのは、自社の環境目標、財務状況、事業特性を総合的に勘案し、水素発電を単独で判断するのではなく、再生可能エネルギーや省エネルギーとの組み合わせを含めた包括的なエネルギー戦略の中で位置づけることです。

水素発電の開発に取り組む企業

脱炭素社会の実現に向け、水素発電の商用化が世界中で加速しています。ここでは、水素発電の技術開発や実証プロジェクトを牽引する日本と海外の主要企業に焦点を当て、各社の独自の取り組みと今後の展望を解説します

日本国内の主要企業

日本は、水素エネルギー技術において世界をリードする国の一つです。特にガスタービン技術と燃料電池分野では、長年の研究開発と実証実績が強みとなっています。

三菱重工業(MHI)

  • 技術的強み: ガスタービン発電
  • 主な取り組み
    • 水素ガスタービン:MHIは、世界最高レベルの大型ガスタービンで培った技術を活かし、水素と天然ガスの混焼や、将来的には水素100%専焼が可能なガスタービンの開発を進めています。2025年までに水素30%混焼の技術を確立し、2030年代には水素専焼の実用化を目指しています
    • 実証プロジェクト:日本国内の電力会社や海外のパートナーと連携し、既存の火力発電所を水素対応に改修するプロジェクトを進めています。特に、大規模な発電所における脱炭素化ソリューションとして、その技術に注目が集まっています。

参照 三菱重工業 HP
https://www.mhi.com/jp/news/201126.html

川崎重工業

  • 技術的強み: 水素ガスタービン発電と水素サプライチェーン
  • 主な取り組み
    • ガスタービン発電:MHIと同様に、産業用ガスタービンにおいて水素専焼技術の開発を進めています。数MW~数十MW規模の小・中出力のガスタービンが強みで、分散型発電や地域の電力需要に対応するソリューションを提供しています。
    • 水素サプライチェーン:水素の製造、液化、輸送、貯蔵に至る一貫したサプライチェーン構築プロジェクト「HySTRA(技術研究組合CO2フリー水素サプライチェーン推進機構)」を牽引。オーストラリアで製造した水素を日本に輸送する実証プロジェクトを成功させ、水素社会のインフラ構築に大きく貢献しています。

参照 Kawasaki Hydrogen Road
https://www.khi.co.jp/hydrogen/

東芝エネルギーシステムズ株式会社

  • 技術的強み: 燃料電池と水素エネルギーシステム
  • 主な取り組み
    • 純水素燃料電池システム「H2One」:東芝は、再生可能エネルギーから水素を製造し、それを燃料電池で電力に戻す「Power to Gas」のシステムを開発しています。特に、商業施設や公共施設向けの自立型水素エネルギーシステム「H2One」は、BCP(事業継続計画)対策としても注目されています。
    • 固体酸化物形燃料電池(SOFC):高温で高い発電効率を実現するSOFCの開発に注力しており、工場や大規模施設向けのコージェネレーションシステムとしての実用化を目指しています。

参照 東芝 HP
https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/hydrogen.html

海外の主要企業

海外でも、特にガスタービンメーカーや電力・エネルギー企業が、水素発電の開発を加速させています。

Siemens Energy(シーメンス・エナジー、ドイツ)

  • 技術的強み: ガスタービン発電
  • 主な取り組み
    • 水素対応ガスタービン:Siemens Energyは、水素混焼ガスタービンの開発において世界をリードしており、すでに水素50%の混焼テストに成功しています。また、既存のガスタービンを水素対応に改造するソリューションも積極的に展開しており、欧米の多くの電力会社と協力しています。
    • トータルソリューション:水素製造から発電、そして電力網への統合までをワンストップで提供する「Green Hydrogen-to-Power」ソリューションを提唱しています。

参照 Siemens  HP
https://www.siemens-energy.com/global/en/home/products-services/product/hydrogen-power-plants.html

GE Vernova(ジーイー・ベルノバ、アメリカ)

  • 技術的強み: ガスタービン発電
  • 主な取り組み
    • H-Classガスタービン:GEは、世界最大級のガスタービン「H-Class」シリーズにおいて、水素と天然ガスの混焼技術を実用化しています。水素混焼率を段階的に高め、将来的には100%専焼を目指すロードマップを公表しています。
    • グローバルな実証:米国や欧州、アジアの電力会社と提携し、水素発電の実証プロジェクトを数多く手掛けています。大規模な電力インフラにおける水素利用の信頼性と効率性の向上に貢献しています。

参照 GE Vernova HP
https://www.gevernova.com/content/dam/gepower-new/global/en_US/downloads/gas-new-site/future-of-energy/hydrogen-for-power-gen-gea34805.pdf

Bloom Energy(ブルーム・エナジー、アメリカ)

  • 技術的強み: 燃料電池(固体酸化物形燃料電池: SOFC)
  • 主な取り組み
    • 「Bloom Server」:天然ガスやバイオガスだけでなく、水素も燃料として使用できるモジュール型のSOFCシステムを開発・提供しています。高い発電効率(60%以上)と優れた環境性能が特徴で、データセンターや小売業など、多くの企業に導入されています。
    • グリーン水素への移行:既存のシステムが天然ガスに対応していることから、段階的に水素燃料への切り替えを容易にするソリューションとして、顧客企業の脱炭素化を支援しています。

参照 Bloomenergy HP
https://www.bloomenergy.com/hydrogen-fuel-cells/

まとめ

水素発電は、企業の脱炭素戦略において避けて通れない選択肢となりつつあります。現在はコスト面での課題があるものの、2030年の商用化に向けて技術革新とインフラ整備が急速に進んでいます。

そのため、企業が水素発電への取り組みを開始すべき時期は近いでしょう。競合他社との差別化、投資家からのESG評価向上、将来の規制強化への備えを考えれば、早期の検討開始が競争優位性の確保につながります。まずは小規模実証や既存設備の水素対応改修から着手し、技術習得とコスト感覚の醸成を図ることが重要です。

水素社会の到来は遅かれ早かれ確実に来るでしょう。その時に取り残されることのないよう、今から戦略的な準備を進めることが、持続可能な企業経営の鍵となります。

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