サプライチェーンにおけるCO2の排出係数(排出原単位)について解説1:Scope1
世界中でCO2の削減に対する取り組みが加速する中、多くの企業が環境に配慮した経営を行うことが求められるようになってきています。その上で、「CO2の排出係数」は、脱炭素経営を実現するために重要なキーワードの一つです。
「CO2の排出係数」をめぐっては、環境省から「サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集*」が発行されており、昨年2023年3月には既に第7版が発出しています。この資料をご覧いただきますとお分かりいただけますように、排出係数は、排出原単位とも呼ばれています。
本コンテンツでは、ここでの記載に合わせて、以降、排出原単位と記載していきます。
排出原単位に関する考え方はかなり複雑であるため、自社の事業を振り返っていただいても、様々な疑問点が湧いてくるのではないでしょうか。
そこで、本コンテンツではまず、排出原単位に関する基本的な部分のご理解を深めていただき、具体的なケースをお示しさせていただきながら、自社の原単位計算において今お困りのことを一旦整理していただく機会に繋げていただけますと幸いです。
*参照:「サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集(2023年3月 改訂, 2016年3月 発行)」, https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/QandA_202303.pdf
CO2の排出原単位とその算出方法について
まず、排出原単位とは、
”活動量一単位あたりにどれだけのCO2が排出されるか”
を示す数値です。上でもお示ししたように、排出原単位は”排出係数”とも呼ばれています。
また、ここでいう”活動量”に該当するものは多岐にわたっており、燃料や電力、その他の原料・材料などが該当します。この説明だけではまだまだイメージしにくい点が多いと思いますので、ここで一つ事例をご紹介いたします。排出原単位を確認し、実際にCO2の排出量を計算するまでの一連のフローとなります。
事例:
自社が燃料として使用している軽油の排出原単位を確認し、CO2の排出量に関して計算したい。
手順:
① まず、確認したい排出原単位がScope1、2、3のどこに該当するのかを確認します。
⇒「自社が燃料として使用している」軽油となりますので、今回はScope1に該当します。
② 次に、Scope1の原単位を確認するにあたり、適用可能な原単位のデータベース(DB)を調べます。各ScopeでどのDBの活用が推奨されているのかについては、次の章で改めてご説明いたします。
⇒Scope1は、SHK制度に基づいて制定されている”温対法算定・報告・公表制度(DB名)*”を活用することが推奨されているため、今回はこのDBを活用します。(因みに、こちらのDBでは、原単位について”排出係数”表記で統一されています。)
*参照:算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧, https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/about/document
③ DBの準備ができましたら、軽油の排出原単位について確認します。
⇒ここで、軽油の排出原単位が2.62tCO2/㎘であることが、表から読み取ることができます。
© https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/about/document
④ ここで、やっと算出式を用いて計算です。
以前の投稿でもお示ししましたが、CO2排出量を算出するための基本式は、
『CO2排出量(CO2換算排出量) = 活動量×排出係数×地球温暖化係数』です。
CO2排出量の計算において、地球温暖化係数=1となりますので、
実質、『CO2排出量(CO2換算排出量) = 活動量×排出係数』となります。
⇒したがって、1ℓの軽油を使用した場合のCO2排出量は、0.001(㎘)×2.62(tCO2)=0.00262(tCO2/㎘)となります。
つまり、1ℓの軽油を使用した場合のCO2排出量は、約2.6㎏という計算になります。
各ScopeでどのDBの活用が推奨されているのかについて
先ほど第1章の手順②では、Scope1の原単位を確認するにあたり、どの原単位のDBが適応可能なのかを調べました。これは、環境省と経済産業省が取り組んでいるグリーン・バリューチェーンプラットフォームに関するHP上の「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」内に掲載されています。また、同DB上には、併せて海外のDBの一覧も掲載されています。
作図:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)を元に抜粋
排出原単位に関連するQ&A
ここまでは、排出原単位を用いたCO2の排出量計算について、Scope1の軽油の事例を用いてご紹介させていただきました。既に計算に必要な項目の抽出に、煩雑さを感じられている方も多いのではないでしょうか。しかし、ご紹介させていただいた事例は、今後事業者が求められているサプライチェーン全体におけるCO2の排出量計算の工程においては、わずか一部分を補うものに過ぎません。Scope2、3の計算も併せて行うことを踏まえると、莫大な原単位他、必要事項の抽出作業、計算工程が生じてきます。
その中で、皆様からいただく代表的な質問を、今回は3つご紹介いたします。
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Q. 調整後排出係数、物量ベースの排出原単位、金額ベースの排出原単位という用語も聞きますが、これはどこで使われるのでしょうか。
A. 調整後排出係数はScope2、物量ベースの排出原単位、金額ベースの排出原単位については、Scope3を計算する際に必要な考え方となってきます。詳細につきましては、次回掲載予定の「サプライチェーンにおけるCO2の排出係数(排出原単位)について解説2:Scope2」、「サプライチェーンにおけるCO2の排出係数(排出原単位)について解説3:Scope3」をそれぞれご確認ください。
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Q. そもそも各Scope、各カテゴリについて、どこまで細かく算定すれば良いのでしょうか。
A. 「サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集(2023年3月 改訂, 2016年3月 発行)」では、以下のように記載されています。算定事業者の算定目的に応じて、必要な算定精度は異なるため、より質の高い算定は望まれていますが、明確な算定精度の基準自体は設けられていないのが現状です。
「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.5)」には「精度及びカバー率ともに高いデータを集めることが望ましい」との記載がありますが、Scope3基準を含め、要求する算定精度の基準に関する記載はございません。算定目的に応じて、その達成に必要な算定精度は異なるため、算定目的を果たすことができる算定精度を見極めて、情報を集める必要があります。例えば、サプライチェーン排出量の全体感把握を目的とするならば、支出額等を活動量として推計し、カテゴリ毎の傾向を見ることが出来ればよいものと考えられます。しかし、削減施策の効果を評価することを目的とするならば、例えば購入物品の軽量化を評価する場合は重量を活動量にする等、削減施策の指標として適切な情報を取得する必要があります(金額算定では、為替や製品価値等の環境負荷の外の影響を多分に受けるため)。また、サプライヤー工場における省エネ化を評価する場合は、公開されている原単位から算定しても評価できないため、サプライヤーから情報を得る必要があります(一般に、公開されている原単位は社会の平均値や代表値であり、特定の事業者の取組が算定結果に反映されないため)。このように、算定事業者の算定目的に応じて、必要な算定精度は異なります。
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Q. 自社で保有している営業車両の稼働はどのカテゴリに計上すべきでしょうか。
A. Scope1, 2の排出量として計上する必要があります。建設現場での建設機械の使用による排出や輸送事業者以外の事業者における自社所有の自家用乗用車の使用による排出等は、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の報告対象外であるためです。Scope1、Scope2について、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.5)」ではそれぞれ以下のように記載されています
なお、算定・報告・公表制度においては、建設現場での建設機械の使用による排出や輸送事業者以外の事業者における自社所有の自家用乗用車の使用による排出等は算定対象外となっていますが、サプライチェーン排出量の算定に当たっては自社の活動に伴う全ての排出活動が算定対象範囲となるため、これらの排出もScope1 に含まれます。
出典:サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.5)第2部1.1直接排出(Scope1)
Scope1 と同様、事業者単独で見た場合には原則として温対法における算定・報告・公表制度と同様の算定範囲となりますが、電力を使用する建設現場での施設、建設機械の使用による排出や輸送事業者以外の事業者における電力を使用する自社所有の自家用乗用車の使用による排出等も含まれます。
出典:サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.5)第2部1.2エネルギー起源の問掃排出(Scope2)
まとめ
本コンテンツでは、Scope1の算出を想定し、具体的な排出原単位を用いてCO2の排出量計算のシミュレーションを行ってみました。実際に計算してみて、皆様いかがでしたでしょうか。
事業者が行うべき取り組みとして、自社が排出する温室効果ガスを削減する方法は、
‣CO2排出量を減らす取り組みをする
‣CO2排出原単位を下げる取り組みをする
の2つが現実的な解決策となってきます。
原単位が小さければ小さいほど、生産は合理化されていると考えられます。しかし、そのようなサプライチェーン全体におけるCO2の排出原単位の見直しを行うこと自体が、非常に煩雑で大変な作業になってくることが想定されます。
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