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サプライチェーンにおけるCO2の排出係数(排出原単位)について解説3:Scope3

CO2算定

前回前々回と続けて、サプライチェーンにおけるCO2の排出係数(排出原単位)についてScopeごとの具体例を取り上げて解説してきました。

本シリーズの最後に取り上げるScope3では、サプライチェーンの上流にあるカテゴリ1、下流にあるカテゴリ11をそれぞれ具体的な事例として取り上げ、CO2の排出量を算定していきます。Scope3カテゴリ1で出てくるキーワードは、「物量ベース/金額ベース」、「積み上げベース/産業連関表ベース」、「生産者価格ベース/購入者価格ベース」の6つです。

まずは、本章に入る前にScope3はカテゴリが煩雑ですので、
改めて各カテゴリの定義とそれに付随する算定式を確認してみましょう。

環境省:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.3)
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-3.pdf

カテゴリ毎に細かく表記はされていますが、基本式は、
Scope3:CO2排出量=各カテゴリの活動量×排出係数(排出原単位)となります。

それでは、早速内容に進みましょう。
カテゴリ1で最初のキーワードとなってくる「物量ベース/金額ベース」の考え方から解説いたします。

物量ベースと金額ベースの考え方について

Scope3において原単位を用いる算定方法は、カテゴリ毎に異なります。しかし、先ほどもお伝えしたように、一見煩雑そうに見える算定方法ですが、基本式自体はいたってシンプルです。
つまり、これは言い換えると、各カテゴリの活動量をどのように算定するのか、これが鍵となります。

その中でも、カテゴリ内に細かな分類が設けられているものの1つが、カテゴリ1となります。
以下に、活動量を算定するために用いられるディシジョンツリーをお示しいたします。
ご覧いただいておわかりいただけますように、活動量を「物量ベース」で考えるのか「金額ベース」で考えるのかによって、排出原単位を使用するデータベースが異なってきます。

※日本標準商品分類等を参考に、排出原単位が存在する当該活動が含まれる上位項目を特定し、その上位項目の排出原単位を使用。
環境省:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.3)
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-3.pdf

積み上げベースと産業連関表ベースの排出原単位について

次に、それぞれのデータベースに関する理解を深めます。
以下に、それぞれのデータベースのメリットとデメリットをお示しいたします。

積み上げベースと産業連関表ベースはどちらか片方だけでなく、両方を用いてカテゴリ1を算定することも可能です。つまり、例えば製品Aを作るにあたり原材料B、C、Dが存在する場合、B(積み上げベース)、C(産業連関表ベース<物量ベース>)、D(産業連関表ベース<金額ベース>)というケースもあり得ることになります。

環境省:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.3)
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-3.pdf

 

因みに、積み上げベースの排出原単位は、①Cradle to Gate形式の国内排出原単位DB(例:IDEA)に掲載されている原単位を適用可能、②Gate to Gate形式の国内排出原単位DBについては、当該プロセスにおける原単位をCradle to Gateまで拡張することで適用可能(例:LCA日本フォーラムのLCAデータベース)とされています。
また、産業連関表ベースの排出原単位は、2005年基準で作成された国立環境研究所「グローバルサプライチェーンを考慮した環境負荷原単位(GLIO)」を引用する形で作成しております。

本コンテンツの冒頭でお示しした「排出原単位データベースの整備方針」と照らし合わせて、ご確認ください。

 

生産者価格ベースと購入者価格ベースについて

最後に、産業連関表の金額ベースを2つに分ける生産者価格ベースと購入者価格ベースについて、それぞれの定義を確認します。

生産者価格ベース:生産者が出荷する段階での販売価格
購入者価格ベース:消費者が購入する段階での流通コストを含んだ価格

サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集(2023年3月 改訂, 2016年3月 発行)
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/QandA_202303.pdf

 それでは、ここまでの6つの考え方をふまえた上で、早速具体例を用いて算定していきましょう。

CO2の排出原単位とその算出方法について(カテゴリ1、カテゴリ11)

今回は冒頭でもお伝えしたように、サプライチェーンの上流にあるカテゴリ1と下流にあるカテゴリ11をそれぞれ具体的な事例として取り上げます。

環境省:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

まずは、以下のサプライチェーンの事例をご覧ください。

環境省:4. 代表的なカテゴリの算定⽅法
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_04_20230301.pdf

 

事例(カテゴリ1):
自社は電気スタンドを製造しているメーカーです。
自社が××商社から調達している電球400(百万円)のCO2の排出量に関して計算したい。

手順:
①まず、確認したい排出原単位がScope1、2、3のどこに該当するのかを確認します。
⇒手順①は、今までのScope1、2と同じです。今回対象となる電球は、「原材料・部品、仕⼊商品・販売に係る資材等が製造されるまでの活動に伴う排出」となりますので、Scope3カテゴリ1に相当します。

②次に、1章でお示ししたディシジョンツリーにもとづき、今回の算定方法が金額ベースか、物量ベースかを確認します。その後、いずれの排出原単位を使用することになるか、併せて見ていきます。
⇒今回の活動量は、400(百万円)となるため、金額ベースの考え方が用いられます。
そのため、産業連関表ベース(金額)の排出原単位を使用することになります。

※日本標準商品分類等を参考に、排出原単位が存在する当該活動が含まれる上位項目を特定し、その上位項目の排出原単位を使用。
環境省:サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.3)
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/unit_outline_V3-3.pdf

③更に、産業連関表ベース(金額)の排出原単位の中で、該当する排出原単位を確認します。
⇒今回は××商社から調達している電球のため、購入者ベース価格の排出原単位(2.67)を用いることになります。

環境省:4. 代表的なカテゴリの算定⽅法
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_04_20230301.pdf
※該当箇所に黄色のマーカー追記

④調達(活動量)×排出原単位(排出係数)で算定していきます。
⇒400(百万円)×2.67(t-CO2/百万円) =1,068(t-CO2)

つまり、自社が××商社から調達している電球400(百万円)のCO2の排出量は、1,068(t-CO2)となります。

では次に、カテゴリ11のケースも見ていきましょう。

活動量の計算方法が、カテゴリ1と大きく異なってきます。

事例(カテゴリ11):
自社は電気スタンドを製造しているメーカーです。
販売している30(万台)の電気スタンドを使⽤する際の電⼒によるCO2の排出量に関して計算したい。

手順:
①まず、確認したい排出原単位がScope1、2、3のどこに該当するのかを確認します。
⇒ここは、今までの流れと全く同じです。今回対象となる電力は、「消費者・事業者による製品の使⽤に伴う排出」となりますので、Scope3カテゴリ11に相当します。

②次に、活動量を計算するにあたり、算定に必要な計算項目を確認していきます。
ここで用いられる項目内容、項目数は、製品やシチュエーションごとに異なるためケースバイケースとなり、常に同じ項目が用いられる訳ではない点に注意が必要です。
(ここでは、各項目、仮の数字で設定しています。)

⇒・電気スタンド1台の消費電力:蛍光灯20W
・年間稼働シナリオ:3時間/日×365日=1,095時間
・耐用年数:蛍光灯 6年
・販売台数:蛍光灯 30(万台)

③更に、電気事業者別排出係数の排出原単位の中で、該当の排出原単位を確認します。
⇒・電力の排出原単位:0.512kgCO2/kWh
(平成30年度 温対法の電気事業者別排出排出係数の代替値)
※電気事業者別排出係数は、最新年度のものをご参照ください。

④各項目を掛け合わせ、CO2の排出係数を算定していきます。
⇒30(万台)×20(W/台)×1,095(h)×6(年)×0.512(kgCO2/kWh) =20,183(t-CO2)

環境省:4. 代表的なカテゴリの算定⽅法
©https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_04_20230301.pdf

つまり、自社が販売している30(万台)の電気スタンドを使⽤する際の電⼒によるCO2の排出量は、20,183(t-CO2)となります。

 

まとめ

本コンテンツを含む3つのコンテンツでは、具体的にサプライチェーンにおけるCO2の排出量について、実際に排出係数を用いながら手を動かして計算してみました。

いかがでしたでしょうか。

特にScope3に関しては、今回取り上げた2つのカテゴリ以外にも多数のカテゴリが存在し、事業者ごとに重点的に取り扱うカテゴリが異なってくるかと思います。但し、1章でもお伝えしたように、Scope3は各カテゴリの活動量をどのように算定するのかという点が複雑であることだけご留意いただければ、計算自体はそこまで難しくはありません。

 

今後、自社のカテゴリ内の算定を行う際、具体的にどの資料を見たらよいのだろう?とお困りの方も多いのではないでしょうか。
以下に、環境省から発出されている「Q&A サプライチェーン排出量算定におけるよくある質問と回答集」で掲載されている資料掲載サイトをご紹介いたします。
ご参考にしていただければ幸いです。

■中長期排出削減目標等設定マニュアル~サプライチェーン排出量(Scope1,2,3)算定、SBT、RE100等への取組に向けて~
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html
SBT・RE100などの中長期排出削減目標等の設定を検討している企業等が、どのようにそれらの取組を進めればよいのかについて、具体的に整理したマニュアルです。

■サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
サプライチェーン排出量算定の基本的な考え方と算定方法を紹介しているガイドラインです。

■サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
サプライチェーン排出量の算定に活用できる排出原単位を取りまとめたデータベースです。

■算定支援の勉強会資料
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
カテゴリ毎の算定方法について、企業の実態を想定した現実的な算定方法や算定の際の留意点を詳しく紹介しています。算定方法の理解を深める際にご参照ください。

■サプライチェーン排出量 詳細資料
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html
サプライチェーン排出量の算定の他、削減対策や事例、CDPなど外部の評価、日本企業の取組事例などを紹介しています。

本コンテンツ、並びにGHGの算定全体を通しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

 

 

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