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製造業(食料品)がサプライチェーン排出量を算定するポイントを事例から学ぶ

基礎知識

環境省のWebサイトには、業種別に大手企業のサプライチェーン排出量算定の取組事例が公表されています。自社と同じ業種の取組事例を確認すれば、どのように算定すれば良いか、Scope1、Scope2、Scope3のどれが重要か、Scope3のどのカテゴリの算定が重要か、がわかります。

このページでは、食料品の大手4社の取組事例を確認し、製造業(食料品)の事業者がサプライチェーン排出量を算定する際のポイントをまとめています。 自社で算定する際に役立つヒントがあるかもしれませんので、ぜひご参考ください。

算定の中心はScope3。特にカテゴリ1の割合が大きい

食料品を製造・販売する事業者がサプライチェーン排出量の算定をする際に、大きなウエイトを占めるのはScope3です。

今回取り上げる4社が公表しているサプライチェーン排出量の算定結果を確認すると、キューピー株式会社は、排出量全体のうちScope1が5%、Scope2が7%にとどまり、残りの88%がすべてScope3です。 味の素株式会社も同様で、Scope1が8%、Scope2が5%、Scope3が87%となっています。 さらに言えば、Scope3カテゴリ1の割合が大きく、キューピー株式会社は全体の60%、味の素株式会社は全体の55%がカテゴリ1です。

食料品を扱う製造業では、原材料となる食品やパッケージなどで使う資材の仕入れが欠かせませんので、このようにカテゴリ1の割合が大きくなりがちです。

大企業のサプライチェーン排出量算定結果を確認

この記事で参考にしている株式会社⽇清製粉グループ本社(2018年度)、キューピー株式会社(2019年度)、味の素株式会社(2022年度)、カルビー株式会社(2022年度)のサプライチェーン排出量の算定結果をまとめた円グラフをご紹介します。 まずは、製造業(食料品)の大手がScope3の中でどのカテゴリの割合が多いか把握しましょう。

株式会社⽇清製粉グループ本社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「株式会社⽇清製粉グループ本社」

株式会社日清製粉グループ本社では、カテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ10(販売した製品の加工)でScope3の約90%を占めています。 自社で製造し、そのまま消費者に渡るのではなく、別の事業者の調理などで使用されてから消費者に渡る製品が多いことからカテゴリ10の割合が大きい結果になっていると予想されます。

キューピー株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「キューピー株式会社」

キューピー株式会社では、Scope3カテゴリ1がScope1、Scope2を含めた全体の60%を占め、他のカテゴリは全て10%以下でした。 株式会社日清製粉グループ本社では50%あったカテゴリ10はわずか1%です。 同じ食料品の製造業でも、自社の製品が直接消費者に渡ることが多いか、他の事業者で使用されてから渡るかによって温室効果ガスの割合も大きく変わってくるようです。

味の素株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「味の素株式会社」

味の素株式会社では、Scope3カテゴリ1がScope1、Scope2を含めた全体の55%で、こちらもカテゴリ1が多くなっています。 また、次に多いのがカテゴリ11(製品の使用)の11%となっており、料理の際に使用する調味料を多く取り扱っていることが算定結果に反映されていると考えられます。

カルビー株式会社


参照:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム取組事例「味の素株式会社」
カルビー株式会社でも、Scope3カテゴリ1がScope3の52%という結果となっており、次に多いのがカテゴリ4(上流の輸送)の23%となっております。 原材料の購入量が多い企業は必然と輸送も必要となりやすいので、カテゴリ4の算定も必要不可欠と言えそうです。

大手4社のサプライチェーン排出量の算定を比較

前の章で紹介した各社の算定結果をもとに、製造業(食料品)がサプライチェーン排出量を算定する際のポイントをチェックしていきたいと思います。 前の章でも触れたカテゴリ1、カテゴリ4、カテゴリ10、カテゴリ11に絞って見ていきましょう。

カテゴリ1は、原料や資材の購入金額から算定することが多い

企業活動量排出原単位
株式会社日清製粉グループ本社原料、包装材の調達量原料調達に係る排出原単位
キューピー株式会社原材料・資材購⼊重量重量あたり原単位
味の素株式会社原料⽣産はPCRを⽤いて算定重量あたり原単位
カルビー株式会社原材料・資材購⼊量重量優先次に⾦額の順に把握原単位SC-DB、味の素DB

上の表は各企業の取組事例に掲載されているカテゴリごとの算定方法から、「購入した製品・サービス」の製造段階で排出された温室効果ガスを算定するScope3カテゴリ1を抽出したものです。
活動量は原材料や資材の量を当てはめることが多く、カルビー株式会社の場合は、購入量を優先しつつも、購入金額を活動量に当てはめて算出することもあるようです。

また、味の素株式会社は、製品のPCR(商品種別算定基準)を作成して活動量を算定していました。 一方の排出原単位は、事業者によって事例への書き方が異なるものの、排出原単位データベースに記載されている、重量あたり排出原単位を使用して算定することが基本と考えられます。 カルビー株式会社の場合は、購入元の事業者である味の素株式会社が公表している独自の排出原単位データベースも使用しているようです。

Scope3カテゴリ1について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

もちろん、サプライヤーからの協力を得られるのであれば、上流の企業から実データをもらうことができれば、より角度の高い算定ができます。情報提供を得るには、サプライヤーとコミュニケーションをとり、持続可能性やGHG排出削減の重要性などについて説明し意識を共有した上で、具体的なGHG排出量の算定方法やガイドライン、ツールなどを提供して負担を軽減する工夫をすることが重要です。

カテゴリ4はトンキロ法を使用した算定が多い

企業活動量排出原単位
株式会社日清製粉グループ本社荷主としての製品出荷量および輸送距離トンキロ法
キューピー株式会社荷主輸送、調達物ごとの輸送シナリオ活動量トンキロ法、輸送時の排出原単位
味の素株式会社当グループ⽣産⼯場と納⼊先の距離と輸送量を基に算定トンキロ法
カルビー株式会社荷主輸送のトンキロ、サプライヤー輸送はシナリオトンキロ法

「上流の輸送」であるScope3カテゴリ4は、各社ともにトンキロ法で算定しているようです。 カテゴリ4の算定方法には燃料法や燃費法もありますが、これらは配送を行った事業者から燃料の使用量や輸送距離などをヒアリングする必要があり、算定のハードルが高いため、トンキロ法で算定していることが予想されます。

また、カルビー株式会社のようにシナリオを作成して算定している企業もあり、重量などで不明点がある場合にシナリオを作成するのが良さそうです。

Scope3カテゴリ4について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

カテゴリ10はどのような食料品を取り扱っているかで変わる

企業活動量排出原単位
株式会社日清製粉グループ本社該当製品の標準的な加⼯⽅法からエネルギー量を算定重量当たり原単位
キューピー株式会社製品群ごとの販売数量製品ごとの間接消費エネルギー
味の素株式会社委託⽣産相当量から算定重量当たり原単位
カルビー株式会社該当なし該当なし

「販売した製品の加工」を算定するScope3カテゴリ10では、どのような食料品を製造しているかで算定方法や重要度が分かれるようです。
カテゴリ10での排出量が多かった株式会社日清製粉グループ本社では、販売後に加工される製品の標準的な加工方法とその際のエネルギー量を算定し、それを重量で算定する方法を採用しています。 一方で、カテゴリ10の割合が低いキューピー株式会社や味の素株式会社は、カテゴリ10での簡易の計算式にあたる販売量を用いた算定をしています。 株式会社日清製粉グループ本社はカテゴリ10の割合が大きかったため、他社よりも確度の高い算定方法を採用していると考えられます。

また、カルビー株式会社は該当なしとなっており、販売後に加工される製品がない、もしくは極めて少ない企業の場合は、これに倣って該当なしでも良いでしょう。

Scope3カテゴリ10について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

カテゴリ11は、製品ごとに使われ方を想定してエネルギー量を算定

企業活動量排出原単位
株式会社日清製粉グループ本社該当製品の標準的な調理⽅法からエネルギーを算定重量当たり原単位
キューピー株式会社製品群ごとの販売数量製品ごとの間接消費エネルギー
味の素株式会社製品の使⽤に関して標準的な調理⽅法を基にエネルギー量を算定重量当たり原単位
カルビー株式会社該当なし該当なし

Scope3カテゴリ11では「製品の使用」に伴う温室効果ガス排出量を算定しますが、株式会社日清製粉グループ本社と味の素株式会社は製品ごとに標準的な調理方法とエネルギー量をあらかじめ算定し、それを元に排出量の算定を行っているようです。
どちらも調味料などを多く販売している企業ですので、消費者が製品を使用して調理する際にエネルギーを使用することが想定されますので、このように製品ごとのエネルギー量を算定していると思われます。

また、カルビー株式会社はカテゴリ10と同様に該当なしとなっています。 スナック菓子などは消費者がエネルギーを使用して調理などをすることが少ないと考えられますので、同じように調理の必要がない食料品を主に販売している事業者は、カテゴリ11は該当なしでも問題ないでしょう。

Scope3カテゴリ11について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

製造業(食料品)のサプライチェーン排出量算定体制

企業体制
株式会社日清製粉グループ本社グループ内で運⽤している環境データ集計システムのデータおよび、グループ事業会社から収集したデータを環境専⾨部署で集計。
キューピー株式会社CSR部⾨が算定。会計、物流、環境の各データをグループ会社・各部⾨から収集。
味の素株式会社全体取りまとめ:本社商品のLCA計算:本社情報提供:各事業部⾨、海外含む連結⼦会社、⼯場、サプライヤー
カルビー株式会社⽣産管理部及びサステナビリティ推進部が主管となり、各担当部⾨よりデータを収集、算定を実施。

取組事例に掲載されている各社の算定体制をまとめました。 書き方は異なりますが、どの企業も算定チーム・担当者を設け、そこが中心となって各部署や子会社、取引先企業からデータを収集し、それを算定チームが集計していると考えられます。 一つの部署に算定チームを設置するのも良いですが、カルビー株式会社のように、複数の部署を跨いだ算定チームを設置する方が、社内の各部署に協力を仰ぐ際はスムーズに進む可能性もあるでしょう。

まとめ

食料品を製造・販売する事業者のサプライチェーン排出量の算定について、環境省のホームページに公表されている大企業の取組事例を参考にしながら紹介いたしました。

サプライチェーン排出量の算定を行う際は、自社はどのScope、カテゴリで排出量が多いかを把握し、その上で排出量が多いScope、カテゴリでしっかりと算定していく必要があります。 特に、食料品を製造・販売する事業者のほとんどは原材料の仕入れが必須で、多くの製品を購入していると思います。 そのため、まずはカテゴリ1の算定をしっかり行うことが大切です。

何百種類もの食料品を販売している事業者は、算定に必要な労力が膨大になることが予想されますので、サプライチェーン排出量の算定ツールを使いながら効率的で正確な算定フローを確立させましょう。

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