GLECフレームワークについて、詳しく解説
2023年4月、ヤマト運輸株式会社(以下、ヤマト運輸と記します)がニュースリリースを通して、ISO 14083:2023(※1)に基づいたGHG排出量可視化ツールの開発を開始することを発表しました。このような取り組みが行われた背景としては、昨今の国際社会全体の喫緊の課題となっている気候変動対策、並びにカーボンニュートラル社会の実現が挙げられます。特にビジネスの領域においては、業界を問わず、製品に係わるGHG排出量の報告がサプライヤーに対する取引条件になるなど、製品単位だけではなくサプライチェーン全体での算定・報告対応が求められている状況です。
既にヤマト運輸も属する物流業界では、オランダに本部を構えている国際的な物流カーボンニュートラル推進団体であるSmart Freight Centreが、ISOにおける国際規格が完成する前の2020年に、「Global Logistics Emissions Council(GLEC)フレームワーク」を公表しました。これは、業界内におけるGHG算定ガイドラインの先駆けとなっており、今回ヤマト運輸が手掛けた取り組みが、このようなGLECのフレームワークに匹敵するものになり得るのか、注目が集まっています。
そこで本コンテンツでは、GLECのフレームワークに関する理解を深めるために、GLECの概要やフレームワークv2.0とv3.0の違い、GLECフレームワークを活用するメリットについてお伝えしていきます。
(※1)2023年3月20日に発行された物流領域における温室効果ガス(GHG)排出量の算定基準の国際規格。物流事業者全般(道路、鉄道、航空、海上、水上等)を対象としている。
GLECの概要について
Global Logistics Emissions Councilの略で、物流領域から出るGHG排出量の算定に関する国際規格ISO14083を実装する際の主要な業界ガイドラインとなっています。マルチモーダルなサプライチェーンにおける、物流のGHG排出量の算定と報告方法を出来る限り揃えていくことを目的として、GLECのフレームワークは開発されました。また、GHG排出量を削減し、自社の気候変動に関する目標の進捗状況を追うことで、将来的なビジネス上の意思決定に必要な情報を収集することができるように、本フレームワークは設計されています。
そこでまず、ISO14083に関して簡単に確認していきます。ヤマト運輸の事例でも取り上げたように、物流領域のGHG排出量の算出においては、国ごとや企業ごとに様々な基準を採用している背景がありました。しかし、多くの企業がサプライチェーンをグローバル化している状況も相俟って、業界内で共通に活用できる国際規格の必要性が高まっていました。
そこで、旅客や貨物の輸送チェーンにおけるGHG排出量の定量化と報告に関する国際規格として、2015年に一度、ISO14083の策定に向けた動きは見られたものの、ISOとCEN(※2)の間の技術協力に関するウィーン協定の兼ね合いにより、CENが手動する形で、2020年に策定作業が開始、2023年3月発行されました。策定作業に際し、冒頭で紹介したヤマト運輸も、開発段階で積極的に関与しています。
次に、ガイドラインのフレームワークは、大きく4つに分かれて構成されています。
項目 | 概要 | |
1 | Calculating | GHGの算定方法そのものについて |
2 | Using emission results | 計算結果の報告⽅法や活⽤⽅法について |
3 | Data | GHG排出量のデータソースと計算に関する追加情報について |
4 | Annexes | 付録 |
GLEC_FRAMEWORK_v3_UPDATED_02_04_24を元に筆者作成
GLECフレームワークは、物流部門の効率化と脱炭素化を目指すための国際的な非営利団体であるSmart Freight Centre(SFC)が2016年にv1.0を発表した後、二度の改訂を経て、2024年2月現在のv3.0が発行されています。その過程では、2023年1月に、SFCとWBCSD(※3)がGLECフレームワークを補完し、サプライヤーから最終消費者までの物流におけるCO2の排出量を算出するためのガイダンスとして「End-to-End GHG Reporting of Logistics Operations」を共同発表しています(※4)。
また、GLECフレームワークは物流に関する様々な国際的ガイドラインを基に構築されおり、GHGプロトコルやCDPの報告書、国連主導のGlobal Green Freight Action Plan(GGFAP)とも連動しながら更新されています。例えば、以下に掲げる国際基準やプロトコルは、GLECフレームワークと整合性を保ちながら関係してくるものになります。
物流の種類 | 主要な国際基準やプロトコル |
全ての物流に関する項目 | ▷ISO 14083 ▷GHGプロトコル (企業会計報告基準、Scope2ガイダンス、Scope 3会計報告基準) ▷IPCCガイダンス ▷Science Based Targets initiative(SBTi) |
陸上運送に関する項目 | ▷ HBEFA(2022) ―The Handbook of Emission Factors for Road Transport 4.2 ▷ US EPA ―SmartWay Truck Carrier Partner Resources |
海上運送に関する項目 | ▷IMO (2009) ―Guidelines for Voluntary Use of the Ship Energy Efficiency Operational Indicator ▷CCWG (2015) ―Clean Cargo Working Group Carbon Emissions Accounting Methodology |
航空運送に関する項目 | ▷IATA (2022) ―Recommended Practice 1678 for Cargo CO2 Emissions Measurement Methodology ▷IATA (2022a) ―Recommended Practice 1726 Passenger CO2 Calculation Methodology ▷US EPA ―SmartWay Air Carriers Tools and Resources |
GLEC_FRAMEWORK_v3_UPDATED_02_04_24を元に筆者作成
GLECの実装に際し、企業側はさまざまな手段をとることが可能です。例えば、自社で会計および報告に関するシステムが整備され、専任のスタッフがいる場合は、これを自社で完結してGLECの実装を進めることができます。
一方で、システムの導入が十分になされていない企業や、GHG排出量の会計処理を始めたばかりの企業においては、SFCやSFCの認定パートナーの支援を受けることができる仕組みとなっています。実際に、国内においても、令和5年度 グリーン物流パートナーシップ会議特別賞を受賞した「地方港活用によるグローバルサプライチェーンの効率化」の業務では、このGLECのフレームワークが活用されています。
国土交通省:DFL、DXを活用した2024年問題解決への取り組み
© https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001710982.pdf
(※2)欧州標準化委員会。
(※3)持続可能な開発のための世界経済人会議。
(※4)因みに、「End-to-End GHG Reporting of Logistics Operations」の策定にはいずれの日本企業は参加していない状況でした。
GLECフレームワークv2.0とv3.0の変更点について
2023年3月に発行されたGLECフレームワークv2.0が、旅客及び貨物の輸送チェーンにおけるGHG排出量の定量化及び報告に関する国際規格であるISO14083のベースとなる原則を提供した後、2024年2月にISO14083に統合されるかたちでGLECフレームワークv3.0が発行されました。
▷GLECフレームワークv2.0とv3.0で同様のポイント
― 輸送チェーンについて
― 輸送チェーンに係る要素
▷GLECフレームワークv2.0とv3.0で更新されたポイント
― 分析・報告方法
<v2.0>
GHGプロトコルが提唱する会計原則に従い、物流の排出量を3つのScopeに分類しています。
Scope1:報告する企業が所有または管理する資産からの直接排出が含まれています。
Scope2:報告する企業が購入する電気、熱、蒸気の生産と配給からの間接排出が含まれています。
Scope3:輸送の排出や製品の使用など、報告する企業のサプライチェーンからの間接的な排出が含まれています。
<v3.0>
ISO14083に準拠し、温室効果ガス排出量の全体を、輸送やハブ活動のためのエネルギー使用に関連する排出量と、このエネルギーの供給に関連する排出量に分類しています。そのため、商業的な区別として考えられているScopeの分類を用いる代わりに、直接排出と間接排出を区別する方法で分類を行っています。
また、ハブ活動を含む輸送活動による排出量を、TTW(タンク・ツー・ホイール、又はタンク・ツー・ウェイク)の考え方で計算するのに対し、輸送活動やハブ活動に使用されるエネルギー供給による排出量は、WTT(ウェル・ツー・タンク)の考え方で計算しています。
—–
WTWは、WTTとTTWに分類されます。
・WTW:どのような過程でエネルギーが消費・転換され、CO2がどの程度排出されたのかを表す指標。
・WTT:原材料の準備から必要箇所に充填するまでのエネルギー効率や、CO2排出量などを評価するための指標。
・TTW:充填した箇所から実際のエネルギーの使用場所に運ぶまでのエネルギー効率や、CO2排出量などを評価するための指標。
—–
【GHG排出量:WTW(well-to-wheel)】
<v3.0>
輸送チェーンからGHG算出される排出量
=①輸送チェーンの全業務におけるGHG排出量(③+④)
+②輸送チェーンの全業務におけるWTT GHG排出量(⑤+⑥)
※③-⑥の詳細は、以下の通りです。
③輸送チェーンの全輸送活動におけるGHG排出量
④輸送チェーンの全ハブ事業活動におけるGHG排出量
⑤各輸送チェーンに係る要素の輸送活動のエネルギー供給に伴うGHG排出量
⑥各輸送チェーンに係る要素のハブ運転活動のエネルギー供給によるGHG排出量
このような分析・報告方法のアップデート以外にも、以下のポイントが更新されています。
― 輸送手段の追加(パイプラインとケーブルカー)
― ハブ設備のエネルギー供給プロセス
― エネルギーインフラの建設と解体(排出係数に組み込む)
― 車両、パイプライン、積み替え、(積み降ろし)設備の始動とアイドリング
― パイプラインの清掃、洗浄作業
― 車両またはハブ設備レベルでのエネルギーキャリアの燃焼、漏洩
― 車両とハブで使用される冷媒の漏洩
― 報告要件の修正
GLECフレームワークを活用するメリットについて
GLECフレームワークを活用する上でのメリットとして、次の3つが挙げられます。
①これからGHGの算定や報告の準備を始める企業にとって、取り組みのハードルが下がる。
⇒冒頭でも紹介したように、マルチモーダルで煩雑なサプライチェーンに対して、シンプルで実践的なアプローチの手法を提供することが可能となり、業界全体としても物流のGHG排出量の算定と報告方法の統一を目指すことができる。
②GHG排出量の算定結果を汎用することができる。
⇒主要な国際基準やプロトコルに整合しているため、GHG排出量の算定結果をCDPやSBT等の国際的なイニシアチブに対する報告に活用することができる。
③高度なサプライチェーン全体における輸送のパフォーマンスの管理が可能である。
⇒本フレームワークは、ハブ業務を含む輸送チェーン全体の業務をカバーしているため、国際的に統一されたルール下で、サプライチェーン全体における輸送のパフォーマンスを管理することができる。
まとめ
本コンテンツでは、GLECの概要としてフレームワークの策定背景や4つの構成について、また整合性を保ちながら連動する国際基準やプロトコルについて紹介してきました。その上で、後半では本年に改訂されたフレームワークv2.0とv3.0の違いやGLECフレームワークを活用するメリットについてお伝えしてきました。
まだまだ新しいバージョンに更新されて日も浅く、GLECのフレームワークに関するデータはインターネット上に出回っていないのも事実です。現段階でGLECに関する細かい情報を入手するにあたっては、SFCのHPに掲載しております「GLEC_FRAMEWORK_v3_UPDATED_02_04_24」の原文に、ご自身でアクセスしていただくことが必要となってきます。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。