REDD+が国内でどのように取り組まれているのかを解説

基礎知識

2023年12月8日、COP28(国連気候変動枠組条約第28回ドバイ締約国会議)において、政府や地方自治体主導の森林保全対策の1つであるREDD+の技術支援を目的としたパートナーシップ(*1)が締結されました。途上国での森林減少、ないしは劣化の抑制に関する取り組みを表すREDDに対し、今回の技術支援の対象であるREDD+は、森林減少・劣化抑制に加えて、森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の増加に関する取り組みも含んでいます。

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このような森林分野への注目が集まっている背景として、人為的な世界全体のGHG排出量のうち、森林伐採を含む林業のCO2の排出量(*2)が比較的高い割合を占めていることが挙げられます。2014年に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第5次報告書では全体の11%、2019年に発表されたIPCC土地関係特別報告書では13%にまでこの割合は達しています。これはCO2の排出源としては、化石燃料由来の排出(65%)に次いで2番目に大きな値であり、森林伐採が気候変動に与える影響の大きさが伺えます。

そこで、本コンテンツでは、改めてREDD+に関する理解を深め、現在日本ではREDD+がどのように取り組まれているのかを確認していきます。

(*1)5つの国際的なNGO団体により、JTAP(Jurisdictional REDD+ Technical Assistance Partnership)が発足。
(*2)ここでは、土地利用の変化によるCO2の排出量を表す。

REDD+(REDD-plus)とは

Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation and the role of conservation, sustainable management of forests and enhancement of forest carbon stocks in developing countries(途上国における森林減少・森林劣化に由来する排出の抑制、並びに森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の増強)の略で、森林が伐採されることで、それまで木に蓄えられていたCO2が再び大気中に放出され、気候変動に繋がることを防ぐための国際的な取り組みを表しています。「REDD」は、森林減少・劣化による排出削減を示しており、「+」は森林保全以降の吸収の維持・増加の活動を表しています。

JICA – 国際協力機構:森から世界を変えるプラットフォーム
©https://www.jica.go.jp/activities/issues/natural_env/platform/reddplus/about/#redd-3

REDD+がこれまでの森林保全活動等と大きく異なる点は、今までの森林減少の傾向から将来予測を作成し、その予測に対してどれだけ森林減少を食い止められたかを計測、その成果に基づいて市場や基金から先進国側がインセンティブを受ける取ることができるという経済的なメリットも明確に組み込んでいる点です。

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REDD+を巡る動きについて

REDD+は、科学的視点からも経済的視点からも有益な取り組みとして推進されるようになりました。

科学的視点:

森林減少・劣化によるCO2排出の削減の必要性に迫られている。CO2排出量の約1割は、森林減少によるものである。また、1トン当たりのCO2を100米ドル以下のコストに抑える削減ポテンシャルの約65%は熱帯地域にあり、約50%は森林減少からの排出を削減することで達成される可能性がある。

経済的視点:

かかるコストが、他の対策よりも安く抑えられる可能性がある。スターン・レビュー(Stern,2007)は、森林減少の抑制は温室効果ガスを削減する上で費用対効果が高いと述べている。

これらの考え方がREDD+を推し進めるための基盤となっています。また、森林がもたらす恩恵は幅広いため、REDD+の効果は温暖化対策に限らず、生態系の維持にもプラスの効果をもたらすことが期待されています。

環境省:森林の減少と温暖化
© https://www.env.go.jp/council/06earth/y060-101/ref01_3-2.pdf

しかし、このように森林減少・劣化を削減する必要性や経済性が認識されながらも、気候変動に関する国際的な主たる取り決めである京都議定書には、REDD+に関連する内容はほとんど取り込まれていません。なぜなら、京都議定書は先進国の排出削減に係わる約束となっており、当時途上国にはまだそこまで目を向けられていなかったからです。わずかに、植林によるCDM(*3)が京都メカニズム(*4)には含まれていますが、これは植林のみを対象としており森林減少・劣化の削減は対象となっていません(*5)。このような経緯をふまえて、2012年以降の次期約束期間(*6)では、途上国の森林減少・劣化による排出を抑制する仕組みとしてREDD+が議論されるようになりました。

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(*3)クリーン開発メカニズム。

九州電力:京都メカニズムの概要
©https://www.kyuden.co.jp/environment_booklet_action-report12_action-plan_program_gas_kyoto_index

(*4)先進国が京都議定書における排出削減目標を達成するために、他国との協力を通じて地球規模でより経済的に温室効果ガスを削減する仕組み。 CDM、JI(共同実施)、ET(排出量取引)がこれにあたる。
(*5)Afforestation and Reforestation(新規植林/再植林:A/R)に限定されている。
(*6)京都議定書で定められた第一段階の目標期間で2008年から2012年までのこと。

日本での取り組み状況

JCM(*7)を用いたREDD+の取り組みが期待されています。日本政府は、途上国への優れた低炭素技術等の普及や対策を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともに、日本の削減目標の達成も目指すことが求められています。JCMに合意している国の中には多くの森林保有国が含まれており、REDD+の推進が期待されています。本取り組みの促進にあたっては、環境省や経産省等の関係省庁が事業支援を行っております。

(*7)二国間クレジット(Joint Crediting Mechanism)を指す。途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度となっている。2024年2月時点で、日本は29か国(モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカ、パラオ、カンボジア、メキシコ、サウジアラビア、チリ、ミャンマー、タイ、フィリピン、セネガル、チュニジア、アゼルバイジャン、モルドバ、ジョージア、スリランカ、ウズベキスタン、パプアニューギニア、アラブ首長国連邦、キルギス、カザフスタン、ウクライナ)と、JCMを構築している。

外務省:二国間クレジット制度(JCM)
©https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html

 まとめ

本コンテンツでは、REDD+の概要と、現在の日本におけるREDD+の取り組み状況についてお伝えしてきました。

ESG投資の増加や2020年の菅首相の所信表明演説における「2050年カーボンニュートラル」宣言といった環境保全に関する世論を受けて、森林分野での様々な取り組みが再び注目をされつつあります。
今回ご紹介したREDD+は、国家間における取引となっていますが、ちょっとした植林や募金を含む支援活動全般を考えると、一人一人が環境保全と向き合って取り組めることは、まだまだ沢山残されています。

本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。

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