IPCCの役割と第6次、第7次報告書のレポート内容について解説
2024年1月、イスタンブール(トルコ共和国)で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第60回総会が開催されました。同総会では、第7次評価報告書サイクルで作成予定の報告書に関する議論が行われており、
▽気候変動と都市に関する特別報告書、短寿命気候強制力因子(SLCF)に関する方法論報告書の作成(2027年まで)
▽二酸化炭素除去(CDR)技術・炭素回収利用及び貯留(CCUS)に関する専門家会合の開催、方法論報告書等の作成
などが取り決められています。
また、評価報告書は1990年の第1次評価報告書を皮切りに、2021~2023年の第6次評価報告書まで、過去より6回にわたって公表されています。その中で、直近で発表された第6次評価報告書では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには「疑う余地がない」という強いメッセージも発信され始めています。
国立環境研究所:IPCCとは
©https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/adapt/a-0503/index.html
そこで本コンテンツでは、IPCCの担う役割について理解を深め、前回の第6次報告書の段階でどのようなレポートが上がっているのか、また次の第7次報告書ではどのような報告書が作成予定なのか、把握していただく機会となれば幸いです。
IPCCとは
Intergovernmental Panel on Climate Changeの略で、気候変動に関する政府間パネルとも呼ばれています。気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な根拠を与える役割を担っています。1988年に世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立され、195の国と地域が参加しています(2022年3月時点)。
また、IPCCは、総会を最高決議機関として、下図のように3つの作業部会(WG;ワーキンググループ)と、各国における温室効果ガス排出量の算定方法の取りまとめなどを行うインベントリータスクフォース(TFI)で構成されています。
国立環境研究所:IPCCとは
©https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/adapt/a-0503/index.html
各作業部会の役割は、それぞれのテーマに係る科学的評価を取りまとめることにあり、評価報告書(AR;アセスメントレポート)として定期的に公表されます。世界中の科学者により出版された文献(科学誌に掲載された論文等)に基づいて報告書は定期的に作成され、気候変動に関する最新の科学的知見として、各国の政策決定者が国際交渉や国内政策策定に活用します。例えば、「第1次評価報告書(FAR)」は、1992年に採択されたUNFCCCにおける重要な科学的根拠とされています。
経済産業省 資源エネルギー庁:気候変動対策を科学的に!「IPCC」ってどんな組織?
©https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ipcc.html
第6次評価報告書(AR6)サイクルにおける各報告書の内容について
冒頭でもお伝えしたように、今回の総会では第7次評価報告書の作成に向けた議論が行われました。そこで本章では、前回の第6次評価報告書の内容について確認していきます。
レポートされた報告書の種類は、大きく分けると以下の3つになります。各レポートの詳細につきましては、JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センターにてまとめられている参照サイトを掲載いたしますので、ご興味のある項目につきましては是非アクセスしてみてください。
①評価報告書
評価対象により分けられた3つの作業部会による報告書から構成されます。2021年から2022年にかけて、各作業部会の報告書が公表されました。
報告書の中では、地球温暖化の原因について、人間活動が大気・海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない、との強い見方を示しており、気候変動の影響とリスクは複雑化しているため、管理が困難になっているとの見解が示されております。
第1作業部会(WG1)- 自然科学的根拠:https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6-wg1
第2作業部会(WG2)- 影響・適応・脆弱性:https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6-wg2
第3作業部会(WG3)- 気候変動の緩和:https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc6-wg3
②統合報告書
評価報告書の知見を統合した報告書です。IPCC第58回総会において承認され、2023年3月に公表されました。
③特別報告書等
次の4つの報告書が特別報告書として、発表されています。
中でも、「1.5℃特別報告書」においては、パリ協定で各国が宣言している排出削減目標の削減予定量の達成と温暖化を+1.5℃で止めるための施策として、エネルギー、土地、都市、インフラ及び産業システムにおける、急速かつ広範囲に及ぶ移行と、2030年までに世界全体のCO2排出量の約45%減(対2010年比)、2050年前後には正味0、とすることが求められています。
・1.5℃特別報告書:https://www.jccca.org/global-warming/trend-world/ipcc1-5
・土地関係特別報告書
・海洋・雪氷圏特別報告書
・[温室効果ガスインベントリに関する]2019年方法論報告書
第7次価報告書(AR7)サイクルにおける決定事項について
最後に、今回の総会で決定した報告書の内容や作成に向けたスケジュールについてお伝えします。
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今次総会では、AR7で作成する成果物及びスケジュール等について議論が行われ、主な論点について、以下のとおり決定された。(特別報告書)
・気候変動と都市に関する特別報告書を2027年初頭に提出する。(方法論報告書)
・短寿命気候強制力因子(SLCF)に関する方法論報告書を2027年までに提出する。
・二酸化炭素除去(CDR)技術、炭素回収利用及び貯留(CCUS)に関する専門家会合を開催し、
2027年末までにこれらに関する方法論報告書を提出する。(統合報告書)
・統合報告書は、全ての作業部会(WG)報告書※の完成後、2029年後半までに提出される。
※WG報告書
WG I – 自然科学的根拠
WG II – 影響、適応、脆弱性
WG III - 気候変動の緩和(影響と適応に関するテクニカルガイドライン)
・影響と適応に関する1994年IPCCテクニカルガイドラインの改訂と更新を行う(指標、測定基準、方法論を含む)。
WG2報告書と合わせて検討するが、別個の成果物として発行される。
(その他)
・WG報告書等AR7成果物の提出年月等を次回の総会において検討の上、決定する。
今後の予定
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第61回総会は2024年7月下旬から8月初旬のいずれかにて開催予定(開催地未定)。SLCF方法論報告書及び気候変動と都市に関する特別報告書のアウトライン等を検討する予定。
環境省:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第60回総会の結果 について
©https://www.env.go.jp/press/press_02665.html
まとめ
本コンテンツでは、IPCCの担う役割について理解を深め、前回の第6次報告書までのレポート内容と第7次報告書の予定内容について確認してきました。
数年おきに作成されるIPCCによる評価報告書の内容からも、人為的な要因による地球への影響が刻々と広がっている状況が伺えます。
環境に配慮したビジネスを行う上では、このような現実的な世界全体の気候変動にも着目し、自社の脱炭素経営に向けた舵切を検討しなければなりません。
本コンテンツ、並びにCO2排出量の算定に関しご質問がございましたら、弊社までお問い合わせ下さい。