ペロブスカイト太陽電池の最新の動向について

基礎知識

2024年3月末、東京都はペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell、PSC)を搭載したIoTセンサーを都庁展望室と東京都住宅供給公社の施設に設置し、実装検証を開始しました。ペロブスカイト太陽電池とは、厚さ1マイクロメートルの極薄のフィルムに、ペロブスカイトと呼ばれる結晶の構造をした物質を塗ることで、太陽光を電気に変えることができる太陽光電池を表しており、温度、湿度、照度、CO2濃度を測定し、その発電性能、耐久性、通信状況などを検証する予定となっています。また、検証期間は1年後の2025年3月までとされており、検証終了に伴い、結果が公開されることになっています。

東京都庁:ペロブスカイト太陽電池の有効性実装検証開始

© https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/03/15/12.html

このようにペロブスカイト電池においては、海外では一部で商用化が進んでいるものの、実証段階のメーカーが多いのが現状です。しかし、その市場性には期待が集まっています。世界全体では2035年時点で約1兆円の市場が予測されています。

富士経済グループ:ペロブスカイト太陽電池の世界市場は2035年に1兆円
© https://www.fuji-keizai.co.jp/file.html?dir=press&file=23037.pdf&nocache

そこで本コンテンツでは、ペロブスカイト太陽電池の特性と実用化に向けた具体的な取り組み、市場を牽引すると期待されているタンデム型太陽電池を中心に解説していきます。

ペロブスカイト太陽電池とは

Perovskite(ペロブスカイト)の結晶構造を有する太陽光電池を表しています。ペロブスカイトとは、灰チタン石を指しており、光を電気に変換する結晶構造を持つ素材を総称してペロブスカイトと呼ばれています。

経済産業省 資源エネルギー庁:日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)
~今までの太陽電池とどう違う?
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/perovskite_solar_cell_01.html

桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明した日本発の技術となっており、主原料のヨウ素の生産高で、日本はチリに次ぐ第二位であり、世界全体の約30%の生産を担っています。

参照:ヨウ素学会
© https://fiu-iodine.org/history/

ペロブスカイト太陽電池の特徴としては、以下の3つが挙げられます。
1 様々な形状に曲げることができる
2 薄くて軽い
3 製造コストが低く、大量生産が可能である

これらの特徴により、一定の面積と重さに耐える設置場所が必要とされる従来のシリコン系太陽電池よりも、設置場所の選択肢が多いこともメリットの一つです。ペロブスカイト太陽電池の重さは、シリコン系太陽電池の約10分の1と軽く、動体物や、柔らかい素材の衣類にも搭載することが可能となっています。例えば、車の車体や航空機やドローン、眼鏡や腕時計、バッグ、信号機のカバーや電柱、携帯端末など、その使用用途は幅広く想定されています。また、製造工程についても、スピンコート技術を用いて材料を塗り乾かすだけの簡単なものとなっており、製造コストも従来電池の半分ほどに下がるとされています。

このように、一見するとメリットが多いように感じられるペロブスカイト太陽電池ですが、やはりデメリットや課題もあります。例えば、電池自体の寿命が短く耐久性が低いことや、大面積化(※1)が難しいことによる変換効率の低さが挙げられます。しかし、昨今ではこの耐久性や変換効率の改善に向けた取り組みも、活発化(※2)しています。

経済産業省 資源エネルギー庁:日本の再エネ拡大の切り札、ペロブスカイト太陽電池とは?(前編)
~今までの太陽電池とどう違う?
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/img/7fl6s-32b898sa.png

(※1)露光領域を拡大し、広い面積の露光を可能とすること。
(※2)2024年2月5日、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)のプレスリリースによると、ペロブスカイト太陽電池で高い光電変換効率と長期耐久性の両立に向けた大きな開発結果が発表されました。これにより、太陽光に対して20%以上の光電変換効率 (発電効率) を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電に耐えるペロブスカイト太陽電池 (1cm角) の開発が可能となりました。

50㎠以上のペロブスカイト太陽電池の変換効率(メーカー別)

国/メーカー面積基板の材質変換効率
従来のシリコン太陽電池14〜20%
中国極電光能63.95㎠ガラス20.5%
日本パナソニック804㎠ガラス17.9%
日本東芝703㎠フィルム15.1%

© https://enetech.co.jp/guide/perovskite-solar-cells/を参考に作成

タンデム型太陽電池としての活用方法について

ここからは、ペロブスカイト太陽電池の世界市場を牽引すると予測されているタンデム型太陽電池について解説いたします。
タンデム(tandem)とは、二つのものが連結されている状態や、協力して働くことを意味しており、タンデム型太陽電池とは、発電効率を向上させるために、異なる種類の光電変換層を重ねた構造を持つ太陽電池を表しています。ここでは、ペロブスカイト太陽電池とシリコン系太陽電池の光電変換層を組み合わせたものが該当します(※3)。

NEDO:太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/多接合型等を対象とした太陽電池の開発(Cu2Oタンデム型太陽電池の開発)
© https://www.nedo.go.jp/content/100974454.pdf

タンデム型太陽電池の最大のメリットは、太陽電池の変換効率を35%程度まで引き上げることを可能にする点です。シリコン系太陽電池の組み合わせでは、数ポイント程度の効率アップに留まっていました。しかし、シリコン系太陽電池の20%に、ペロブスカイト太陽電池の10~15%がそのまま上乗せされ、タンデム型太陽電池として35%程度に達するようなイメージとなります。
また、ペロブスカイト太陽電池とシリコン系太陽電池の光電変換層を組み合わせたタンデム型太陽電池においては、それぞれの光電変換層の特徴をいかした構造となっています。例えば、ペロブスカイト太陽電池の光電変換層は可視光を強く吸収しますが、シリコン太陽電池の光電変換層は可視光から赤外線までを吸収するという性質があります。そこでこの両者を合わせてタンデム型太陽電池として使えば、太陽光のほとんどすべての光を無駄なく利用することが可能となります。そのため理論上でも、30%を超える変換効率が期待できると考えられています。

NEDO:太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/多接合型等を対象とした太陽電池の開発(Cu2Oタンデム型太陽電池の開発)
© https://www.nedo.go.jp/content/100974454.pdf

(※3)タンデム型太陽電池の代表的なものとしては、ガリウムヒ素半導体(GaAs)などⅢ-V族太陽電池を用いたものと、ペロブスカイトを用いたものの2種類が報告されています。

 

実用化に向けた取り組みについて

2023年10月、ペロブスカイト太陽電池の実用化の時期について、岸田首相は2025年を目指す考えを表明しました。また、各紙の報道によると、商用化に向けてまずは「2025年」がメルクマールとなってくることが見込まれます。以下に、ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指す日本メーカーの研究開発の現状についてお示しいたします。

積水化学工業東芝アイシンカネカパナソニック
実用化目標2025年2025年2025年以降非公表非公表
変換効率15.0%15.1%20.0%以上19.8%17.9%
サイズ30cm角703㎠(※1)5㎜角0.1㎠30cm角
耐久性10年相当非公表10年相当非公表非公表
基板の材質フィルムフィルムガラス・フィルムフィルムガラス

※1:変換効率などは2021年9月発表の実績

参照:ニュースイッチ 次世代太陽電池の本命…日本発「ペロブスカイト」、激化する開発競争の現在地を参考に作成
© https://newswitch.jp/p/32928

このように、日本国内では実証段階のメーカーが多く、現時点では一般の量産販売にはまだ至っていない状況です。一方、世界全体で見ると、中国(※4)やポーランド(※5)ではすでに販売を開始している企業もあります。

経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーに関する次世代技術について
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/054_01_00.pdf

(※4)中国の大正微納科技有限公司は、8000万元(約16億円)を投じ、江蘇省を拠点として生産能力が1万kW/hのラインを整えて、22年夏から大量生産を始めています。
(※5)ポーランドのスタートアップ企業であるサウレ・テクノロジーズから販売されているペロブスカイト太陽電池は、2021年よりIoT端末向けのものから生産され、現在では様々な場所に導入されています。

まとめ

本コンテンツでは、ペロブスカイト太陽電池の特性と実用化に向けた具体的な取り組み、市場を牽引すると期待されているタンデム型太陽電池を中心に解説してきました。

再生可能エネルギーの次なる手段として期待値が高いペロブスカイト太陽電池ですが、中国によるシリコン型太陽電池の市場奪還と同じ流れ(※6)が少しずつ起き始めていることも事実です。世界の特許出願件数からも、既に中国が圧倒的に有利なポジションを取り始めていることがわかり、加えて価格競争を見越した欧米諸国の一部撤退も始まっています。そのため、日本としても今後のペロブスカイト型太陽電池の需要拡大に合わせて、どのような供給体制を整えることができるのかが、鍵となってきます。

そこで、ペロブスカイト太陽電池の世界における競争力を付けるための支援として、資源エネルギー庁は、GXサプライチェーン構築支援事業を行うべく、概算要求も行っている状況です。

経済産業省:GXサプライチェーン構築支援事業
© https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2024/pr/gx/keisan_gx_01.pdf

(※6)2004年、シリコン型太陽電池の市場において、日本は世界シェアの約半分を有していました。しかし、市場規模の拡大で、中国の企業、Tongwei、LONGi、Trina Solar、JINKO Solar、JA Solarなどの企業が、市場の拡大に応じて太陽電池の供給を増大させることができた一方、日本企業がその需要拡大に追い付くことができませんでした。その結果、世界市場の約8割が、これらの中国メーカーに奪われる形となりました。

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