【2024年版最新】日本における再生可能エネルギーの将来的な展望は?再エネ拡大に向けた世界的な潮流をふまえ、詳しく解説。
1992年、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とした「国連気候変動枠組条約」が採択されて以降、温室効果ガスによる地球への大きなダメージを再認識しながら、様々な地球との共存の方法が模索されています。特に昨今では、「カーボンニュートラル」というより具体的な温室効果ガスの削減目標を掲げ、新たなエネルギーの形の創出を目指して実証実験や研究開発が進められている状況です。その手段の一つとして、以前「【2024年版速報】 日本における発電の割合は?再エネ発電の現状とあわせて解説」でもご紹介させていただいた再生可能エネルギー(以降、再エネと記載します)が挙げられます。
直近のエネルギーミックスの改定により、2030年度の温室効果ガスの46%削減に向けて野心的な目標として、国内の再エネは電源構成比で36-38%(合計3,360~3,530億kWh 程度)を目指すことが掲げられています。しかし、実態として国内の再エネの導入・移行は、G7を始めとする他の周辺諸国と比べても比較的遅れており、依然として火力発電に依存する状況が続いています。一方、そのような状況下にも関わらず、昨年のCOP28では、「世界全体で再エネ発電容量を3倍、省エネ改善率を2倍にする」という更なる細かい目標設定がなされ、加盟国である日本も同意した形となります。
経済産業省 資源エネルギー庁:今後の再生可能エネルギー政策について
© https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/040_01_00.pdf
そこで本コンテンツでは、再エネが注目されるようになった経緯をふまえ、昨年度に開催されたCOP28で取り上げられた再エネ関連の内容を改めて確認しつつ、現在の日本における具体的な取り組みについて解説していきます。
経済産業省 資源エネルギー庁:再生可能エネルギーの歴史と未来
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienerekishi.html
目次
再エネの起源と注目にいたる経緯について
日本における再エネの起源は、1974年から2000年までの間、国家プロジェクトとして進められた「サンシャイン(SS)計画」にあります。その背景には、1973年に起きた第一次オイルショックが関係しており、中東からのエネルギー依存度が高かった日本では大きな混乱が生じたため、安定的なエネルギーの確保ルートが求められるようになったことがきっかけです。
一方で、世界的に再エネの重要性が認識・注目されるようになったきっかけの一つとして、パリ協定が挙げられます。パリ協定は、第21回気候変動枠組条約締約国会議、通称COP21の中で2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとして採択されました。
当時、1997年のCOP3で定められた京都議定書の後継(※1)となる基準として、パリ協定では地球温暖化対策に関する様々な内容が見直されました。
具体的には、以下の通りです。
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▽京都議定書が先進国に向けたものであったのに対し、パリ協定は先進国・発展途上国に関係なく全ての国が参加するものとすること。
▽世界共通の長期目標として、産業革命以前と比べて平均気温上昇を2℃より低く保つ。1.5℃に抑える努力を追求すること。
▽全ての国が、5年ごとに削減目標を提出・更新すること。併せて、5年ごとに、世界全体として実施状況を検討すること。
▽温室効果ガスを大幅に減らし、パリ協定の長期目標を達成するために、今までの価値観や概念とは異なる革新的なイノベーションを追求すること。
▽先進国は資金を提供し、途上国も自主的に資金を提供すること。
▽二国間クレジット制度(JCM)を含めた市場メカニズムの活用すること。
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パリ協定の採択を受けて、日本では2021年10月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定しました。そして、この戦略の中で、再エネに関する言及もなされることになりました。「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」に関しては、次の章で確認していきます。
(※1)京都議定書では、先進国全体で第1約束期間として設定されている2008年から2012年までに、温室効果ガスの排出量を削減基準年と比べて5.2%減らすことを約束されました。対象となるガスは二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・HFCs(ハイドロフルオロカーボン類)・PFCs(パーフルオロカーボンガス)・SF6(六フッ化硫黄)の6種類であり、京都議定書で定めた削減目標達成について、日本は6%を削減目標にしており、国連の審査を経て2016年に目標達成が認められています。
United Nations:Report on the individual review of the report upon expiration of the additional period for fulfilling commitments (true-up period) for the first commitment period of the Kyoto Protocol of Japan
© https://unfccc.int/resource/docs/2016/tpr/jpn.pdf一方で、京都議定書の第1約束期間中に世界情勢が大きく変化し、インドや中国の台頭により先進国だけでなく発展途上国における温室効果ガスの削減が求められるようになりました。そこで、京都議定書に続き、国際社会における地球温暖化の防止を世界中の国に向けた指針として、2015年のCOP21にて「パリ協定」が採択された背景があります。そのため、パリ協定は国際社会において、全ての国が参加する初の協定となっています。
「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」とは
本戦略では、2030年までに温室効果ガスを2013年度から46%削減すること、そして2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標として掲げています。その中で再エネに関しては、
S+3E(※2)を大前提に、2050 年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む。
閣議決定:パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略より引用
ことが言及されています。
閣議決定:パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略
© https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100285601.pdf
戦略全体の方向性としては、地球温暖化対策によって経済成長を制約するのではなく、経済社会の変革、投資を催促、生産性の向上、産業構造の大転換の鍵となる戦略として各分野においてビジョンと対策・施策の方向性を示することで、脱炭素社会の実現に向けて取り組むことが求められています。
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▽エネルギー:再生可能エネルギー最優先の原則、徹底した省エネ、電源の脱炭素化、電化水素、アンモニア、原子力などあらゆる可能な選択肢を追求
▽産業:徹底した省エネ、熱や製造プロセスの脱炭素化
▽運輸:2035年乗用車新車は電動車100%、電動車と社会システムの連携・融合
▽地域・くらし:地域課題の解決・強靭で活力ある社会、地域脱炭素に向け家庭は脱炭素エネルギーを作って消費
▽吸収源対策:森林吸収源対策やDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)の活用
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しかし、「再生可能エネルギー最優先の原則」という言葉自体は、本戦略以外でも複数の箇所で明記されてはいるものの、原則の趣旨が説明されておらず、施策への反映も十分ではないとして、再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースより指摘を受けている実態もあります。
(※2)Safety(安全性)を大前提として、Energy Security(安定供給)、Economic Efficiency(経済効率性)、Environment(環境適合)を同時に実現させる考え方を指す。
COP28から考える日本の再エネ導入に関する影響力について
このように、国内でも重要な主力電源として認識され始めている再エネですが、昨年の2023年11月30日から12月13日までアラブ首長国連邦のドバイで行われたCOP28(※3)の中では、更に細かい達成目標が設定されました。それが、「世界全体で再エネ発電容量を3倍、省エネ改善率を2倍にする」という目標(※4)です。COP28の議長国だったアラブ首長国連邦およびEUが主導となり宣言を掲げ、日本も賛同した形となります。
京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座:No.408 COP28で決まったこと、日本で報道されないこと
© https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0408.html
上図は、IEAの報告書に掲載されているNZE(※5)シナリオにおける2022年-2050年までの全世界の再生可能エネルギー電源の設備容量の見通し(左軸)と、日本政府が公表している2030年の再生可能エネルギー電源の導入目標(右軸)をグラフ化したものです。
また、下図は総発電電力量に対する再生可能エネルギーの発電電力量の比率を、再生可能エネルギーの導入率という形で評価しています。
京都大学大学院 経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座:No.408 COP28で決まったこと、日本で報道されないこと
© https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0408.html
これらのデータをご覧いただいておわかりいただけますように、資源エネルギー庁の資料では日本の2030年までの再生可能エネルギー導入容量は「野心的目標」されていますが、世界全体の導入見通しに比べると大きく劣後しており、日本の貢献度合いは低くなる可能性が高い状況です。
(※3)COP28では、「再生可能エネルギーの容量を世界全体で3倍」とする目標以外は、以下のような内容が議題に挙がっています。
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▽グローバルストックテイスト(GST)の決定の採択
グローバルストックテイストとは、パリ協定の目標達成に向けて、各国の取り組みや進捗状況を評価する仕組みのことです。今回の会議では2025年までの排出量のピークアウトや全ガス・全セクターを対象とした排出削減、各国ごとに異なる道図路を考慮した分野別貢献が明記されました。また、この決定の中では特に「産業革命以前と比べて気温の上昇を1.5℃に抑える」という目標が強調されました。▽日本主導のイニシアティブ
日本政府は「世界全体でパリ協定の目標に取り組むための日本政府の投資促進支援パッケージ」を公表しました。これは、脱炭素や適応に対する投資を促進する基盤を整備することで、「目標のギャップ」「適応のギャップ」「実施のギャップ」という3つのギャップを解消し、排出経路をオントラックにしていくものです。▽各種イニシアティブへの参加
COP28開催中はさまざまな国際イニシアティブが開催され、日本政府は合計16個のイニシアティブに参加しています。その中の一部を抜粋して、紹介します。
・UAEが主導する「持続可能な農業、強靭な食糧システム・気候変動対応に関する首脳級宣言」(エミレーツ宣言)
・世界保健機関および議長国UAEが主導する「気候と健康宣言」
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(※4)「再生可能エネルギーの容量を世界全体で3倍」とする目標数値自体は、COP28が開催される2年前の2021年の段階で、国際エネルギー機関(IEA)や国際再生可能エネルギー機関(IRENA)がパリ協定を遵守するための将来シナリオとして発表していたものになります。従って、COP28で合意された「2030年までに3倍」という数値の科学的根拠は、上図で示したIEAのNZEシナリオや、IRENAの1.5℃シナリオに基づくものとなっています。そのため、本目標がCOP28で合意されたさことによる最大の意義は、この数値そのものにあるのではなく、この数値目標が国連気候変動枠組条約の全ての加盟国間で合意できた、という点にあります。
(※5) Net Zero Emissionを指す。
日本における具体的な取り組み
再エネの普及を加速化させる取り組みとしては、皆様もご存じのように以前より国内では太陽光発電や洋上風力発電事業、CCSやCCUSなどの取り組みが行われています。
そこでここでは、発電やエネルギーの代替そのものには直接関わるところではありませんが、資金面や制度面でゆくゆくは再エネの導入拡大を間接的にサポートするような取り組みについて、ご紹介します。
Ⅰ. 緑の気候基金
開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動への影響への対処を支援するため、気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく資金供与の制度の運営を委託された基金です。2010年のCOP16で採択され、2011年のCOP17で委託機関として指定されました。2015年に活動資金の目処が立ち、活動が始まっています。緑の気候基金では、基金に認証期間が案件を提案し、審査の後に採否が決定します。案件には
ⅰ. インパクト
ⅱ. パラダイムシフト
ⅲ. 持続可能な開発の潜在性
ⅳ. 被支援国のニーズ
ⅴ. カントリー・オーナーシップ
ⅵ. 効率性及び効果
の6項目が考慮されます。これまでに190件の案件が理事会によって採択されています。日本の機関としては国際協力機構(JICA)、三菱UFJ銀行、三井住友銀行が認証機関として承認されており、これまでに以下の4件が採択されています。
- 地理における太陽光・揚水水力発電(三菱UFJ銀行・2019年7月)
- サブサハラ・南米7カ国における持続可能な民間森林事業支援(三菱UFJ銀行・2020年3月)
- 東ティモールの森林地帯コミュニティ支援(JICA・2021年3月)
- モルディブの気候変動に強じんな島づくり支援(JICA・2021年7月)
環境省:緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)について <GCF活用の全体概念図>
© https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gcf.html
Ⅱ. 気候資金に関する我が国の新たなコミットメント
2016年から2020年の間に、官民合わせて毎年1.3兆円の気候変動に関する支援を実施してきました。また、2021年6月のG7コンウォール・サミットにて菅総理が2021年から2025年も支援を継続し、5年間で6.5兆円の支援を実施する旨を表明しました。さらに、同年11月にはCOP26世界リーダーズサミットにおいて岸田総理は、今後5年間で最大100億ドルの追加支援の用意がある旨、そして適応分野では官民合わせて5年間で148億ドルの支援実施を表面しました。これは先進国の中でも最大規模の支援額です。
外務省:気候資金に関する我が国の新たなコミットメント(2021~25年)
© https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200535.pdf
Ⅲ. 二国間クレジット制度(JCM)を活用した温室効果ガスの削減
JCMとは、パートナー国に優れた脱酸素技術協力(製品・システム・サービス・インフラ等を含む)の実施を通じて、パートナー国の温室効果ガス排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献し、その貢献度合いとしてクレジットを技術提供国が獲得できる仕組みを表しています。日本は2011年から現在にかけて、29カ国(モンゴル、バングラディシュ、エチオピアetc.)と署名済みとなっています。
外務省:二国間クレジット制度(JCM)
© https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html
まとめ
本コンテンツでは、再エネが注目されるようになった経緯から振り返り、COP28の内容をふまえながら、国内で展開している多様な取り組みについて解説してきました。
日本が目指す再エネ導入に関する目標値そのものには賛否両論はあるものの、最終的な脱炭素社会の実現に向けて、少なくても今以上に再エネの普及を進めていくことは必須です。そのため、多角的な視点から、いかにして自社がこのような再エネの取り組みに携わっていくことができるか、本コンテンツを通して改めて考えていただく機会となれば幸いです。
経済産業省 資源エネルギー庁:日本の多様な再エネ拡大策で、世界の「3倍」目標にも貢献
© https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/shared/img/7fvg6-32eblz64.png
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